学生が寄与した発明
2017-07-17
大学生が大学在学中に何か新しいアイデアを思いついた時、それの知的財産権は学生に属するのか大学や研究室に属するのか。 「研究室に所属している学生が作ったものは当然研究室のものだ」と考える先生がいたり「先生がそう言うんだからそういうものなのかな」と思う学生がいたりするので、そうではないということを解説する。
学生さん向け短い解説
明示的に権利を移転する旨の契約がない限り学生の寄与した発明の権利は学生に帰属する
「よくわからない」という状況は、十中八九、何も権利移転が行われていない状態
ただし「よく読まずに雇用契約にサインしていて、そこに権利移転の旨が書かれていた」がありえるので要確認
-----
資料1:
解説
学生が行った発明の権利は学生に帰属する
しかし、大学にとっては、特に教員と学生の共同発明や、大学の施設を用いた発明は、大学が一元的に管理・活用したい
あくまで「大学はこうだったらいいな~と思ってる」というだけであって法的拘束力のあることではない
それを実現するために、どうすれば学生に帰属する権利を大学に移転できるか
ケースA: 学生と大学の間にRAなどの形で雇用関係がある場合
職務発明(特許法35条)として扱うことが可能
大学側は相応の対価の支払いをする必要がある(35条3項)
学生の職務に属する発明に限られる。
「研究室にいる間に作り出したものは全部研究室のもの」なんてのは通用しない。
ケースB: 大学と学生の間に雇用関係がない場合
学生に帰属している特許権を大学が引き継ぐ方法としては、学生と大学の間の権利移転契約が考えられる
権利の大学への移転契約を結ぶ際には、以下に留意が必要
学生等に対する対価の額の決定方法
学生等がベンチャーを起業する際の扱い
-----
補足
今回の話題では「ケースA 雇用契約がある場合」の内容が少し変わる。
「相応の対価」→「相応の利益」 金銭以外の待遇も選べるようになった
あらかじめ「職務発明については、その発明が完成した時に、会社が特許を受ける権利を取得する」旨の契約がある場合には、発明の権利が最初から使用者に帰属する
なぜこうなったかというと、例えばこういうケースを避けるため: 職務発明の特許を受ける権利を従業員が第三者に売ってしまい、第三者が特許出願した場合、従来の法律ではこの特許は第三者のものとなって使用者が取り戻す手段を持たなかった。従業員が使用者との約束を第三者への譲渡後に破ることになるとしても、それは第三者には関係のないことだから。一方改正後では、特許を受ける権利が最初から使用者に帰属するため、従業員がそれを第三者に売って第三者が出願したとしても、それは冒認出願になり、特許成立後でも使用者が移転請求をできる。
Q&A
その発明に先生も寄与している場合は?
共同発明になるので、あなたも先生も単独では権利行使できない
例えば大学が勝手に特許出願した場合 特許法38条(共同出願) に違反する
権利行使できない状態はもったいないので、あなた個人がどういう扱いを求めるかを大学や先生に伝え、議論して合意し、合意内容を契約書の形で残す、ということになる
-----
資料1 原文
知的財産ワーキング・グループ 報告書
(平成14年11月1日 科学技術・学術審議会 技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会知的財産ワーキング・グループ)より抜粋
(4)学生等が寄与した発明の取扱いに関する考え方
大学の学生、大学院生及びポスドク(以下「学生等」という。)は一般的には大学とは雇用関係にないため、その場合には特許法第35条の適用はなく、学生等が行った発明は学生に帰属すると考えられる。
しかし、大学においては教育と研究は密接不可分であり、教育は研究の成果を基礎に展開され、研究は学生等への教授・研究指導と深い関連を持って行われる。
このため、大学における研究から生じた発明に、学生等、とりわけ、より最先端の研究を行う大学院後期課程の大学院生やポスドクが実質的に関与する事例が今後増大することが予想される。
これら学生等が関与してなされる発明のうち、指導教員による教育・研究との関連が深く教員と学生等との共同発明と考えられるものや、大学の施設を用いて行われた発明等に係る特許権等については、各大学がそのポリシーに従い一元的に管理・活用することが望ましい。
大学が学生等の関与した発明に係る特許権等を承継する場合の取扱いは、発明者たる学生等がResearch Assistant(研究補助者)等として、あるいは研究プロジェクトへの参加のために大学との雇用関係があるか否かによって異なってくる。
学生等が大学と雇用関係にある場合には、発明に対する学生の寄与分も大学の発明規則等に基づき職務発明として取り扱うことが可能である。
他方、大学との雇用関係がない学生等に対しては、特許法第35条に基づく職務発明としての取扱いは適用されず、大学との関係は在学契約の内容によることとなる。
この場合、発明に対する学生の寄与分についても、発明規則等により大学に対する届出を義務付けた上で、これに係る特許権等を大学が承継する場合には、学生等と大学の移転契約によることが考えられる。
なお、権利の大学への移転契約を結ぶ際には、学生等に対する対価の額の決定方法や学生等がベンチャーを起業する際の扱い等に留意する必要がある。