メンターの個性
先日、会社で「ストレングスファインダー」の研修を受けた。これはいくつかの質問に答えると34種類の「思考のパターン」のうちどれが強いのかが順位で表示されるもの。一緒に研修を受けた20人の人と比較すると、人それぞれ違いがあって、それが実際に研修の中での振る舞いや発言に現れていてとても面白かった。
前後して未踏ジュニアで取材を受けて「応募者に順位をつけて上からとっていくのではなく、メンター一人一人とのマッチングなんですよ」という話をしたり、未踏本体の方ではPMごとに異なる審査基準を表示してるという話をしたりしてて、メンターやPM一人一人が異なる個性を持った存在であることをもっと伝えて行った方がいいなと思った。良い機会なので僕のストレングスファインダーの結果と照らし合わせながらつらつらと書いてみたい。
僕の思考パターンの中で一番強いのは「着想」だ。つまり「あれと関係あるのでは」「これと繋げたら面白いのでは」なんてのを思いつくのが得意。だけど、メンターの立場としては普段あまり言わないように気をつけている。 なぜかというと、一般的な15歳の人は、2倍の年齢の人がアイデアを口にした時に「そんなアイデアはつまらない、自分のこのアイデアの方が良い」などと反論することにやりづらさを感じるから。
未踏ジュニアのブースト会議(プロジェクト開始時に大勢の前で何をやるか話す会)で、クリエータは色々な人から色々な意見を受け取るが「全部やろうとしないで良い」「自分で取捨選択せよ」と毎回言っている。
僕がアイデアを言うのは最初は控えめにして、他人のアイデアに「耐えられる」人かどうかみきわめてから徐々に増やすようにしている。
僕は「言われた通りに手を動かす作業者」を作りたいわけじゃないので、アイデアを言ったとしてもそれに従って欲しいわけではない。自分の意見と大人の意見が対立した時に、大人のアイデアを優先して欲しくない。自分のアイデアを自分で守れるようになって欲しい。
アイデアをたくさん思いつく立場からすると、個別のアイデアは「たくさんある中の一つ」に過ぎないので、捨てても惜しくない。たくさん出して混ぜ合わせることによってより良いアイデアが生まれるので、何も気にせずアイデアをぶつけ合える関係になりたい。そのためにはクリエータが自分のアイデアに自信を持つことが必要。
次に強いのが「戦略性」で、これはたくさんの選択肢の中から、目的の達成のために最適な方法は何かと考えて選ぶ思考のパターン。これもけっこう抑制している気がする。なぜかというと、そもそも僕がプロジェクトのハンドルを握るべきではない、どういう方針で進めるのかはクリエータが自己決定すべきだ、と考えているから。 メンターが「こういう方針でやりましょう」と言ってしまうと、クリエータは自分で考えずにそれに従ってしまうかもしれない。どの方針が良いのか悩むことも重要な学びの機会であって、先回りして手助けすることで学びの機会を奪ってはいけない。
…と思っているのだけど、他のメンターと議論してて、僕はクリエータの自発性重視に重点を置きすぎてるのかもなぁ、とも思ったりする。
僕のやり方は悪い言い方をすれば「放任」「丸投げ」とも言える。
3番目に強い思考パターンは「学習欲」で、つまり「知らないことを知りたい」「わからないことをわかるようになりたい」「実験してみたい」という思考パターン。僕自身が未踏ジュニアのメンターをやっているのも僕自身の学びがあることが大きい。 このパターンはメンタリングでも使いまくってる。「何々を学びたいからこの本を買いたい」みたいな相談には「どんどん買いましょう!」って答えてる。(ここに否定的なメンターがいるのか?という気もする)
一方で「どうするのが最良かわからなくて悩んでます」的な場合には「悩んでても答えなんて出てこないので、なるべく早くユーザに使ってもらって観察しよう」のように「実験して結果から学ぶ」を選びがち。
4番目に強い思考パターンは「未来志向」で、未踏ジュニアというプロジェクト自体が未来のエンジニアを育てる未来志向のプロジェクトだ。クリエータのプロジェクトも新しいものを作るわけだから全部未来志向だと思うんだけど、どうなのだろう?もしかして僕が無意識にそうでないものをスルーしてる? 僕自身は5年10年先の未来を考えて行動しがち。例えば「コーティングを支える技術」は「10年経っても陳腐化しない技術書を書くぞ」と考えて作った。だけど未踏ジュニアのクリエータにはそこまでのことは求めてないように思う。人生経験が15年なのに10年先のことを考えようとしても机上の空論になりそう。それよりも半年後の成果報告会に向けてきちんと仕上げて世の中に出すことを目指して欲しい。
クリエータのプログラムがバグって悩んでいる時に、バグの原因を教えることはしない。バグの原因をクリエータが特定するプロセスを支援して、それによってクリエータがバグの原因を特定する力を身につけることを重視している。
メンターが手助けをして成果報告会を成功させても、それは「手助けを受けて成功した」という経験を積ませるだけなので、未踏ジュニア期間終了後に自走できるようにならない。短期的な発表会成功ではなく長期的な成長を重視している。
5番目は「内省」で、これは一人でじっくり考えることを好むパターン。メンタリングでは、ビデオ会議のその場ではなく、終わってから思いついてチャットで伝えることがしばしばある。 6番目に強いのは「活発性」で、思ったことをすぐ行動に移すパターン。「やってみないとわからないからやってみよう!」と言いがち。「学習欲」のところでも「実験して結果から学ぼう」があったが、同じ学習でも「わからないから良い本がないか探してみよう」よりも「わからないから試してみよう」をやりがち。失敗をあまり気にしないタイプ。 この記事をとりあえず書いてみてるのも「活発性」だと思う。
7番目に強いのが「自我」で、自分にスポットライトが当たることを好むパターン。これは指摘されるまで気づいてなかったのだけど、確かに組織として動くことより、個人名義で執筆したり発表したりすることを好みがち。クリエータにも「私が作りました」という個人に紐付く成果を持って欲しい。 僕がプロジェクトの進行にあたってクリエータの自己決定を重視するのもそこが影響しているかもしれない。「メンターがこうしたら良いといったのでそうしました」なんて発表はかっこ悪い。自分で考えて自分で決定した「自分のプロダクト」であるべきだ。
今までの人生で個人の活動が多いので、逆にチームのマネジメントはあまり得意ではない。チームを主語にした話し方をされると「で、あなた個人はどう考えているのですか?」と聞きたくなる。
8番目が「最上志向」で、良いものをより良くしたい。ソフトウェアももちろんより良くしたいが、個人の強みに注目してそれを伸ばすパターンでもあるらしい。 これとペアで説明されるものに「成長促進」がある。
意外なことに「成長促進」は下から7番目。詳しい説明を聞いてみたら「成長促進」の強い人は3回同じことを教えて同じ失敗をされた時に「教え方が悪かったかな…」と教え方の試行錯誤をするらしい。確かに僕はそういう粘り強い教育はあんまりしていない。選抜によって強い人を選び、その人がより強くなるように働きかけている。
9番目が「目標志向」で、目的を明確化し、目的に向かって行動するパターン。メンタリングでもクリエータ本人が何をどうしたいのか確認している。 目標志向を持ってない人がプロジェクトを進めることをイメージできない…。
僕の場合は面接で「何が目的か」「そのために何をするのか」を聞くので、答えられない人が落ちてるのかな。
10番目が「自己確信」で、これは自分の中に羅針盤がある、どちらに進むべきかを他人に頼らず自分で決定するパターン。 ここまで書いてきて振り返ってみると、僕はクリエータに「他人の意見に振り回されないで、自分の信念に従って進む人」になって欲しいのだな。
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ストレングスファインダーではよく使われる思考のパターン(強み)に注目するのだけど、ここまで書いてきてメンタリングをする上で当たり前のことばかりのように感じられてしまう。それはメンターの僕がメンタリングをする上でよく使っている思考パターンを書いてきたからだ。そこで逆に「あまり使われてない思考パターン」に注目してみよう。
一番低いのが「規律性」だ。日々の日課に従ったり、整理整頓したり、計画を淡々とこなすパターン。初期に計画を立てて、その計画の通りに実行しきるのは、それはそれで素晴らしい実行力だと思う。頭ではそう思うが、心では「もっとチャレンジしようよ」と思ってしまう。 2番目は「包含」で、例えばひとりぼっちの人を見た時に声をかけて仲間に入れようとするようなパターン。してないなー。 クリエータが同期とのネットワークを構築することは長期的に見てとても有用なので、ぜひクリエータ同士で仲良くなって欲しい(未来志向+戦略性)
そう思ってるけど、僕自身がそれを支援する行動はしていない。
3番目は「公平性」で、誰にでも同じであるようなルールを定め、それを厳格に守ろうとするパターン。そういう思考パターンは大嫌いです。 対立する「個別化」が上位16位。個々人それぞれ置かれた状況が異なるのだから、それぞれの個別の状況に合わせて対応を変えるべきだと考えている。
これはメンターの間で意見が分かれるところ。例えばあるプロジェクトに追加予算を認めたいという話があった時に、僕は「追加予算をつけることでより良くなるのであればやるべき、他のプロジェクトとの公平性を気にしてためらうのは良くない」という意見になる。
4番目は「調和性」で、みんなの意見が一致することを好む思考パターン。イノベーションの敵。新しい物事が生まれる時、最初は常に一人だ。周囲と意見が一致することを求めていては新しいものは生まれない。 この思考パターンは、他人と対立する意見を表明することを避ける。非常に良くない。「異なる意見」を「対立」と捉えるその感覚が良くない。異なる意見は「違う視点からの見え方の共有」であり、共有された方が物事をより良く理解できる。
5番目が「達成欲」で、これは正直よくわからない。なぜ僕はこれが低いと認識されてるのか?? 詳しい説明を見てみると、チェックリストを作って全部埋めたり、根気よくコツコツと努力したりするパターンらしい。確かに僕の行動は割とムラがある。計画通りに行動することを重視しない(規律性低)とか、興味があることを優先する(学習欲)とかの特徴の方が強い。
クリエータの達成欲が高いのは、良いことだと思う。僕が苦手なことをできてすごい、という感じ。
6番目が「回復思考」で、問題の原因を見つけて解決するパターン。これもクリエータとしては良い特徴。具体的な問題を見つけた上で、それの解決を目指すのは良い手だと思う。 7番目が「成長促進」で、これは「最上志向」のところで書いた。 8番目が「競争性」で、自分と他人を比べて勝つことに熱意を持つ。うーん、なるほど。過度に勝ち負けにこだわるのでなければ、ライバルと競い合うこと自体は悪くないと思うよ。僕が「自己確信」が強くて、他人がどうであるか気にしないゴーイングマイウェイな人だというだけ。 9番目が「運命思考」で、偶然などなく、すべての出来事に意味がある、という思考パターン。 そんなことない、大体のことは運。良いソフトウェアを作っても注目されないかもしれないし、大したものを作ってなくても注目されるかもしれない。それらは運であって、自分でコントロールできないものなので、気にしてはいけない。
10番目が「ポジティブ」…いや、これはポジティブな方がいいんじゃないかな(苦笑) 詳しい説明を読むと「ネガティブな人がいるとポジティブにしたくなる」と書いてあって、確かにそれは僕と違う。ネガティブな人がいると、ネガティブが自分に伝染しないように距離を置く。強いポジティブな人は伝染しないから気にせず近づくのかな。