多様体
ドゥルーズのいう「多様体」とは、単に「多様な」要素がひしめいている状態ではないし、多様な要素をうちに含む一つの「多様体」でもない。いくら多くの構成要素が集まっていても、諸要素が互いに独立して規定されるものであるかぎり、それは多様体ではないし、また、多くの要素を含む多様体をどこで分割しても以前と性質を変えず、同質的なものであるなら、ドゥルーズのいう多様体ではない。 ドゥルーズにとって「多様体」は「いつ」「どのように」「どこで」「どれだけ」などの単独的なものを指し示す条件にしたがうとき、つねに別のものに変化する。それというのも、ドゥルーズのいう「多様体」は、時間の内での差異化としての「持続」だからである。
持続とは、潜在的な過去が絶えず現在に浸透しながら、未来へと向かうことによって形成される、「過去ー現在ー未来」という折り重なる異質な諸次元の連続的な流れのことだ。持続は、その定義からして、必然的に諸要素と諸次元を共存させる異質混交の多様体を形成する。
そして持続の特徴は、要素の単なる寄せ集めとはちがって、時間的に「分割されつづける」ということであり分割されるとき本性を変えるということにある。
(芳川泰久・堀千晶,2015,『ドゥルーズ・キーワード89 増補版』,せりか書房,pp.66-67)