感覚刺激に対する誤差信号(神経応答)は、期待に反比例してスケールする
from Evaluating the neurophysiological evidence for predictive processing as a model of perception | Annals of the new York Academy of Sciences (2020)
生物学的な証拠はあるのか?
よく使われる検証方法は以下の3つ:
Omission response
予期可能な感覚入力が省略されたときの活発な神経応答
反復抑制(Repetition suppression; RS)
何度も同じ刺激をしたときの神経応答の抑制
Expectation suppression; ES
手掛かり等によって感覚刺激が予測可能であった時の神経応答の抑制
Omission responseについて
感覚刺激が与えられていないのに、神経細胞に強い応答が見られる
解釈1:この応答は予測誤差(Prediction Errors)を表している
つまり、注目している細胞はエラーユニットで、予測に相当する入力は受けているが、感覚入力がないためエラーが生じている
フィードフォワードネットワーク(Feed Forward Network)だったら、刺激がない状態で強い応答が見られないはず。
Naa_tsure.iconしかしfresh-afferent neuronal activityという順向性の説明も可能
Naa_tsure.icon一般に予測誤差(Prediction Errors)は入力 - 予測という形で与えられるため、入力がない場合は負の神経活動になるのでは?という批判もある
解釈2:この応答は刺激がないという予測を表している
注目している細胞は予測ユニットで、ある条件のもとの予測を表しているのではないか?という解釈
Naa_tsure.icon予測不可能な省略の仕方をしているのだから、予測というより単に刺激がないということの表象なのでは? 
Naa_tsure.icon”入力と予測の間に差がある”ということだけ表していて、その差がどの程度かは表す機能がないのかもしれない
予測が使われているかもしれないという間接的な証拠とはなるが、fresh-afferent neuronal activityのような説明も可能なため、PPの証拠としては弱い
反復抑制(Repetition suppression; RS)について
何度も同じ刺激をしたときの神経応答の抑制
しかし、これはただの neural adaptationで説明できてしまう。
このRSが予測に由来することを示す実験が必要
例えば、Neural repetition suppression reflects fulfilled perceptual expectations | Nature Neuroscience (2008)
予測可能な繰り返し刺激と予測不能な繰り返し刺激を用意し、前者の時に応答が抑制されることが示れば良い
予測不能な繰り返し刺激に対しては応答が強くなることも知られている
Naa_tsure.iconこれはneural adaptationで説明できない
しかし、実験結果が計測領域、計測方法、タスクの違いに影響を受けてか、反復抑制(Repetition suppression; RS)がneural adaptationによるのか、Predictive Processing; PPによるものかの判別はついていない。
Naa_tsure.iconそもそもあまりPredictive Processing; PPの検証に向いた実験ではないのかもしれない
Expectation suppression; ESについて
手掛かり等によって感覚刺激が予測可能であった時の神経応答の抑制
手掛かりの他に予測可能な系列刺激などを用いる場合もある
この抑制が起こるのは、その神経が応答する特徴に限定的である
人間、サル、マウスでExpectation suppression; ESが示されている
サル:Prediction suppression in monkey inferotemporal cortex depends on the conditional probability between images | JNP (2016)
マウス:Experience-dependent spatial expectations in mouse visual cortex | Nature Neuroscience (2016)
Expectation suppression; ESがPredictive Processing; PPで説明される場合:
予測ユニットの活動:段々と顕著になるはず
手掛かりからそれに相当する刺激の予測が形成されていくため。
エラーユニットの活動:段々と抑制されるはず
手掛かり等により予測が可能になり、感覚入力を打ち消すため。
Naa_tsure.iconしかし、エラーユニットも精度の学習から段々とそのユニット重要視されていき、応答が徐々に顕著になっていく可能性があることに注意
Naa_tsure.iconところでその精度の学習はどこで起こるのか???
Expectation suppression; ESに関しても、neural adaptationで説明できるというシミュレーション結果もある
Adaptation can explain evidence for encoding of probabilistic information in macaque inferior temporal cortex | Current Biology (2017)
これらの実験結果が上手くまとめられない原因は以下の通り:
1. 実験方法が多様
計測手法
侵襲(invasive) vs 非侵襲(noninvasive)
神経集団レベル vs 単一細胞レベル
タスク
事前学習あり vs なし
刺激のベースライン確率の操作 vs 遷移確率の操作
注意(attention)あり vs なし
手掛かり刺激あり vs なし
2. 予測誤差に関する意見の不一致
sharpening or dampening
詳しくは、How Do Expectations Shape Perception? | Trends in Cognitive Sciences (2018)
Naa_tsure.icon実験がpopulation levelの神経活動を見ていることには注意したい
仮に予測ユニットと誤差ユニットが存在しているとすると、これらの実験操作はこれらのユニットに反対の影響を及ぼす可能性が高い。
その場合、神経細胞集団の平均活動で分かることはかなり限定される
予測(expextation)による神経変調(neural modulation)について調べるとき、細胞集団レベルと単一細胞レベルでの指標は大きく異なる
Naa_tsure.icon細胞体が処理単位でなく樹状突起が処理単位だとしたら、これは細胞体イメージングであっても同様の議論ができる