脳科学わからんに入門する本 vol.2 - 参考資料(C106)
-神経細胞はニューラルネットワーク!?-
https://scrapbox.io/files/6894e8c52f1deb213bc23f03.png
Naa_tsure.iconがついてる文章は筆者の主観強めです。
誤植
P2
誤: たった1つの神経細胞の上にDeepLearningって書いてあるから。[]
正: たった1つの神経細胞の上にDeepLearningって書いてあるから。[3]
これ以降の補足番号が1つずれています。
P12
誤:点ニューロンを近似するには2層のNNで十分だけど、
正:点ニューロンを近似するには隠れ層が1層のNNで十分だけど、
補足情報の23(22)も関連
P13
誤:マウスでは5層の錐体細胞の計算能力が高く
正:ラットでは5層の錐体細胞の計算能力が高く
ここで引用した論文が直接比較したのはラットとヒトでした。
誤:入力の大きさが適切な場合、これによりXORが実現する。
正:これによりXORが実現する。
P15
ヒトの脳に直接電極を刺して神経活動を記録する研究もちらほらある。[]
ヒトの脳に直接電極を刺して神経活動を記録する研究もちらほらある。[27]
これ以降の補足番号が2つずれています。
本文の補足情報(随時更新)
本文の補足情報では、修正前の番号を()で併記しています。
例) 4(3). 神経細胞は0-1の出力を行う
これは修正後の番号は[4]だが、修正前では[3]と書かれている
P2
1. 脳とTransformer
Naa_tsure.iconそもそもTransformerってなんだって話は3Blue1Brownの動画がおすすめ
https://youtu.be/KlZ-QmPteqM?si=uWi2Isw-DHV8kR8i
このTransformerなどでも重要になってくるkey-value memoryで、神経科学や心理学における記憶モデルを捉えようというアイディアがある もしかしたら、これは大脳皮質-視床の回路と対応があるかもしれない
提案であって実験的に直接検証されたわけではないことには注意
Naa_tsure.icon日本語での情報だと、脳とTransformerに関する勉強会が参考になるかも
https://youtu.be/pA94rVZpDa0
2. ニューラルネットワークは脳から学んだ
ニューラルネットワーク日本語に訳すと神経回路(網)
しかし、ニューラルネットワーク=脳の再現という受け取り方は危険
実際には脳からヒントを得た数学的モデルの1つに過ぎないことに注意
3(). 1つの神経細胞でDeepLearning
Naa_tsure.iconこちらツイートが今回の本を書いたきっかけです。
P3
4(3). 神経細胞は0-1の出力を行う
正確には神経細胞の出力は神経伝達物質の放出量(アナログ)なことに注意。
活動電位の大きさが同一であったとしても出力は同一とは限らない。
これは短期的なシナプス可塑性と関連する
例えば、活動電位を連続で発生していると、軸索終末にある伝達物質の量(シナプス小胞数)は減少していくので出力も減少する。
神経細胞はこの出力でどのように情報を表現しているのかという議論もある
活動電位のタイミングで決まるのか、それとも頻度で決まるのか?
日本語での解説はこの動画の0:00:15 - 00:19:27あたり
https://youtu.be/LIUb5kPyyjE?si=V2sUcaTFIFPBqLt6&t=14
P4
5(4). それぞれの神経細胞が膜電位を理想の状態に動かす
各神経細胞を、入力に対して出力を調整し続けて、自身の“状態”を一定の理想値に保とうとする小さな制御装置とみなすアイディアが提案されている
Moore, J. J., Genkin, A., Tournoy, M., Pughe-Sanford, J. L., de Ruyter van Steveninck, R. R., & Chklovskii, D. B. (2024). The neuron as a direct data-driven controller. Proceedings of the National Academy of Sciences, 121(27), e2311893121. https://open.spotify.com/episode/1ZoX4JMNZZ1XxroTz44eNF?si=Yr01CdoHQL-WFjFcQbS6Vw
6(5). リークチャネル
膜の受動性質を考える時、基本的にリークチャネルが考慮されている
これと樹状突起の形態だけでも複雑な計算が可能
例えば、特徴結びつけ問題(Feature Binding Problem)
目の前に 黄色いバナナ と 赤いリンゴ がある。
特徴は「黄色」「赤色」「バナナの形」「リンゴの形」として処理される
どうやって「黄色 ↔ バナナ」「赤 ↔ リンゴ」という正しい組み合わせが成立するのか?
間違って「黄色いリンゴ」と認識してしまわないのはなぜか?
Tran-Van-Minh, A., Cazé, R. D., Abrahamsson, T., Cathala, L., Gutkin, B. S., & DiGregorio, D. A. (2015). Contribution of sublinear and supralinear dendritic integration to neuronal computations. Frontiers in cellular neuroscience, 9, 67. P5
7(6). シナプス入力時における膜電位変化
リガンド依存性チャネル($ Na^+)とリークチャネル($ K^+)のみ考える
膜を横切る電流(外向きが正)
$ I=g_{Na^+}*(V_m-E_{Na^+})+g_{leak}*(V_m-E_{leak})
膜電位変化
$ C_m\frac{dV}{dt}=-I
これを元に膜電位、駆動力(の絶対値)、コンダクタンスの変化を示す
https://scrapbox.io/files/689ed69e9c11a722495d45d5.png
青:リガンド依存性チャネル($ Na^+)
赤:リークチャネル($ K^+)
Naa_tsure.iconChatGPT5作
8(7). 正のフィードバック
ある変化が起こった結果が、それ自身をさらに促進するような仕組みのこと
Naa_tsure.icon「雪だるま式」に進行するとよく例えられがち
子宮頸部の圧迫でオキシトシン分泌→収縮→さらなる圧迫による追加分泌…という正のフィードバックにより分娩が進む反射 生存のためには理想の状態を保とうとする必要がある
身近な例だと、
体温が上がれば汗で体温を下げようとする
体温が下がれば体の震えで体温を上げようとする
Naa_tsure.icon余談だが、HH方程式が提唱された時代(1950年代)では、チャネルの存在すら知られていなかったらしい。
ある意味、チャネルの存在を実験より先に理論が予言したとも言える
P6
Naa_tsure.iconただ詳細なモデルにすれば絶対に正しいというわけでもないので、目的に応じた使い分けが重要
11(10). NAND
NANDがあればその組み合わせで全て論理演算ができる
https://youtu.be/KXdrtkriK3o?si=EDHvxcvC2Eg07_FU
P7
12(11). ニューラルネットワークの学習
ニューラルネットワークの概観については3Blue1Brownの解説動画シリーズへ
https://youtu.be/tc8RTtwvd5U?si=XQbYaLjfmwZZzkVN
脳が誤差逆伝播を行っているかは定かではない。
有名なReviewは、
Lillicrap, T. P., Santoro, A., Marris, L., Akerman, C. J., & Hinton, G. (2020). Backpropagation and the brain. Nature Reviews Neuroscience, 21(6), 335-346. 最近これを大脳皮質の回路で実装するアイディアが提唱された
Max, K., Jaras, I., Granier, A., Wilmes, K. A., & Petrovici, M. A. (2025). " Backpropagation and the brain" realized in cortical error neuron microcircuits. bioRxiv, 2025-07. この論文でも樹状突起の非線形性が鍵となっている
樹状突起における学習(Dendritic learning)というアイディアも提案されている
これはシナプス学習とは異なる
Hodassman, S., Vardi, R., Tugendhaft, Y., Goldental, A., & Kanter, I. (2022). Efficient dendritic learning as an alternative to synaptic plasticity hypothesis. Scientific Reports, 12(1), 6571. https://www.youtube.com/watch?v=KeVOG-X_Fck
Naa_tsure.icon英語だけどアニメがメインなので直感的でわかりやすいと思う
Dendritic learningという言葉を、(細胞体ではなく)樹状突起にあるシナプス学習という意味で使っている論文もあるので注意。
P8
13(12). ヒトの神経細胞
参考元
P9
14(13). 同じ場所に複数の入力が来ると駆動力は減少する
活動電位の空間的統合のイメージからすると反対に思えるかもしれない
あれは電位依存性チャネルが背後に動いている
それを除くと基本的に入力の統合は亜線形になる。
Tran-Van-Minh, A., Cazé, R. D., Abrahamsson, T., Cathala, L., Gutkin, B. S., & DiGregorio, D. A. (2015). Contribution of sublinear and supralinear dendritic integration to neuronal computations. Frontiers in cellular neuroscience, 9, 67. 今回は基本的に陽イオンの出入りのみ解説したが、実際にはこれに加えて陰イオンの出入りが存在する。
P10
15(14). 樹状突起で受けた入力の多くは細胞体まで伝わっていない
細胞体から遠い位置で受け取った入力はそのままでは減衰してしまう。
樹状突起スパイク等があると細胞体に影響が与えられる
この手の研究は、マウス大脳の5層錐体細胞でのデータをメインに語られることが多いことには注意
詳細は以下のリンクが詳しいので任せます。
17(16). 樹状突起の研究コミュニティの常套句
「樹状突起は単なる受動的ケーブルではなく、能動的な計算単位である」
Naa_tsure.icon論文のイントロダクションで大体こんなことが書かれてある
一方で、28(26)のような指摘も近年出てきていることに注意
P11
樹状突起もスパイクも発生するが、活動電位と異なり複数種類ある
$ Ca^{2+}由来であったり$ Na^+由来だったりする。
図の参考元
細胞体付近で発生した活動電位は軸索だけでなく樹状突起にも伝わる
樹状突起の太さやチャネルの分布によって伝わり方が大きく変わる
これ関連の有名な例は錐体細胞におけるピンポンと呼ばれる現象
1. 細胞体から樹状突起に向かって、逆行性スパイクが伝わる
2. 樹状突起で樹状突起スパイク($ Ca^{2+}spike)が引き起こされる
3. 樹状突起スパイクが細胞体に伝わり、バースト発火を引き起こす
これにより異なるソースの情報を組み合わせているのかもしれない
20(19). 時間差があるのからヘブ則が難しい問題
シナプス前後のスパイクタイミングによってシナプス重みが強弱する
Naa_tsure.icon12(11)で触れたDendritic Learningもこれに対する答えになるかも?
Hodassman, S., Vardi, R., Tugendhaft, Y., Goldental, A., & Kanter, I. (2022). Efficient dendritic learning as an alternative to synaptic plasticity hypothesis. Scientific Reports, 12(1), 6571. 実は活動電位ではなく、樹状突起スパイクでもシナプス重みは変化する
Gambino, F., Pagès, S., Kehayas, V., Baptista, D., Tatti, R., Carleton, A., & Holtmaat, A. (2014). Sensory-evoked LTP driven by dendritic plateau potentials in vivo. Nature, 515(7525), 116-119. 21(20). 単一細胞でも領域によって異なる学習則が使われている
https://www.youtube.com/watch?v=9StHNcGs-JM
Naa_tsure.icon英語だけどアニメがメインなので直感的でわかりやすいと思う2
P12.
22(21). 一つの神経細胞と多層NN
Naa_tsure.iconこのあたりのアイディアについて知りたい方はこのPodcastがおすすめ(英語のみ)
1つ目の論文の筆頭著者がゲストの回
https://open.spotify.com/episode/21xELto4NORYUoxsEPOYM6?si=VaRSOiTBRVeVwpgjS3-WLw
23(22)一つの神経細胞とDeepNN
point neuronの場合は隠れ層が1層のみのNNで近似
形態+NDMAチャネルを入れた場合は隠れ層が5-8層のNNで近似
Aizenbud, I., Yoeli, D., Beniaguev, D., de Kock, C. P., London, M., & Segev, I. (2024). What makes human cortical pyramidal neurons functionally complex. bioRxiv. そもそも複雑さを層数で測るのは大雑把なのでは?
ということで、続きの研究では層数を固定してどれだけ上手く近似できたかを測る指標を別途導入している
24(23). 木構造のニューラルネットワーク
従来のNNよりも少ないパラメータで同様の性能を出せる(ことがある)
Naa_tsure.icon省エネで過学習に強い(かもしれない)
P13
25(24). ラットでは5層、ヒトでは2/3層の錐体細胞が複雑な計算ができる
Aizenbud, I., Yoeli, D., Beniaguev, D., de Kock, C. P., London, M., & Segev, I. (2024). What makes human cortical pyramidal neurons functionally complex. bioRxiv. 細胞の形やチャネルによる非線形な応答が複雑な計算に重要
26(25). 樹状突起によるXOR
Gidon, A., Zolnik, T. A., Fidzinski, P., Bolduan, F., Papoutsi, A., Poirazi, P., ... & Larkum, M. E. (2020). Dendritic action potentials and computation in human layer 2/3 cortical neurons. Science, 367(6473), 83-87. P14
27(). ヒトの脳に電極を刺す研究
Paulk, A. C., Kfir, Y., Khanna, A. R., Mustroph, M. L., Trautmann, E. M., Soper, D. J., ... & Cash, S. S. (2022). Large-scale neural recordings with single neuron resolution using Neuropixels probes in human cortex. Nature neuroscience, 25(2), 252-263. Leonard, M. K., Gwilliams, L., Sellers, K. K., Chung, J. E., Xu, D., Mischler, G., ... & Chang, E. F. (2024). Large-scale single-neuron speech sound encoding across the depth of human cortex. Nature, 626(7999), 593-602. 28(26). 生体内外で樹状突起の応答が異なっていそう問題
P15
29(27)."例外"な神経細胞たち
細胞体中心主義が必ずしも正しくないことはCajalも気づいていた
そもそも細胞体中心主義って何か?については⇩が詳しい
30(28). ローカル/グローバル信号
神経細胞の一部に止まる局所的な信号と全体に広がる信号
31(29). ノンスパイキングニューロン
活動電位を発生しない神経細胞
32(30). ハエのAPLニューロン
APLニューロンの画像
この細胞の局所的な信号の統合については⇩
Amin, H., Apostolopoulou, A. A., Suárez-Grimalt, R., Vrontou, E., & Lin, A. C. (2020). Localized inhibition in the Drosophila mushroom body. Elife, 9, e56954. 33(31). 昆虫の"脳"
昆虫の神経系はハシゴ型神経
複数の神経節が2つの神経の束によって貫かれている形
そのうち頭部に位置する一番大きい神経節を脳と呼ぶことが多い
哺乳類と対比して微小脳、配置から食道上神経節とも呼ばれる
https://scrapbox.io/files/68a428636e489c466545a19f.png
Naa_tsure.icon図では食道上神経節を脳として特別扱いしているが、もちろんこの脳でも近辺の情報処理はおこるし、その他の神経節でより広範な情報を処理することだってある。
ハエの脳では神経細胞同士の接続が調べ上げられている
Web上でこれらの神経細胞を探索できる
ハエの脳
https://www.youtube.com/watch?v=J2xTkMsZchs
もちろん神経細胞はこんなカラフルではなく基本的に白
P16
34(32). 樹状突起の長さとIQが相関
Goriounova, N. A., Heyer, D. B., Wilbers, R., Verhoog, M. B., Giugliano, M., Verbist, C., ... & Mansvelder, H. D. (2018). Large and fast human pyramidal neurons associate with intelligence. elife, 7, e41714. おすすめ資料
https://scrapbox.io/files/68a6e410d1f25c3e2932d58e.png
自分が知る限り樹状突起統合をしっかりと扱っている唯一の日本語の教科書
Naa_tsure.icon特に5章がオススメ!!!
第5章 単一神経細胞におけるシナプス統合
5‐1 情報統合の場としての単一神経細胞
5‐2 樹状突起の受動的性質
5‐3 樹状突起の能動的性質
https://scrapbox.io/files/68a6e4e6f55bb47911e61869.png
樹状突起関連の話題のみに特化した教科書(英語)
2016年時点の情報なので少し古いことは注意したい
Naa_tsure.icon下のReviewなどで補強するといいかもしれない
https://scrapbox.io/files/68a6e6914c9fe328c86780b5.png
樹状突起関連の比較的新しい(2022)レビュー集(英語)
いくつかは無料で読めます
https://youtu.be/hmtQPrH-gC4?si=H7k2NPNtUQte4ljt
Naa_tsure.icon扱ってる内容がまる被りなので、ある意味映像サポート資料といえる。
Naa_tsure.icon日本語字幕はないけど、アニメーションは理解の助けになるはず