神経科学を勉強したい人向けガイド(随時更新)
自分が学部1年生ぐらいの時に知りたかったなあという情報をのっけてます
Naa_tsure.icon個人的な意見なので、ほどほどに参考にしてください
1.興味をそそる一般向けの動画・本から入る
脳・神経系って面白い!と思えるような動画や本を見漁ってみるところから始めてみよう
動画シリーズ
おすすめは日本神経科学学会が出してる脳科学の達人シリーズ
現在進行形で神経科学の研究をされている先生方による一般向けのわかりやすくかつ最新の研究を踏まえた解説
個人的オススメは以下の2つ
【脳科学の達人】池谷 裕二【第38回日本神経科学大会 市民公開講座】
https://youtu.be/IWit9QzIDBU?si=lUChMfM6XUzPoCWz
【脳科学の達人2017】神谷 之康 "ブレイン・デコーディング 脳から心を読む技術”【第40回日本神経科学大会 市民公開講座】
https://youtu.be/1jmVr1nDvq4?si=nNUqZRHATk0HNcO5
一般書
基本的に神経科学の研究者が一般向けに書いてる本がオススメ
脳・神経科学の一般書の中には、”脳科学的に証明された~”的な話をする怪しい本もそこそこあるので注意
こういうのを踏むのが怖い場合は、例えば以下のようなリスト等から選んでみるのもあり
東大医師・研究者が選ぶおすすめ脳科学・神経科学本10+3選(2023年9月最新版)
個人的オススメは以下の4冊
つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線
ものごとを考え、記憶し、日々の出来事に感情を揺さぶられる…謎めいていた脳のはらたきが、明らかになりつつある。グリア細胞とニューロン、進化と可塑性、場所細胞と空間記憶、情動と消去学習、海馬と扁桃体とエングラムセオリー―頭の中には、さまざまな「つながり」があった!?9つの最新研究から、心を生み出す脳に迫る!
理科学研究所のメンバーがオムニバス形式で神経科学のホットなテーマを解説してる本
Naa_tsure.icon章によって読みやすさがまちまちなので、気になるところだけ読むのでもOK
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生命知能と人工知能 AI時代の脳の使い方・育て方
本書は、楽しく豊かな人生を送ることを究極の目的として、脳と人工知能を対比しながら、脳の動作原理を考察し、その使い方と育て方を考えます。
工学の分野から神経科学に入られた研究者目線で書かれている本
脳をエンジニアリングの観点から見ており、他の本とは脳の見方が異なるので2冊目以降にオススメ
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この本が面白いと思った人は、同じ先生が書かれている以下の2冊もオススメ
メカ屋のための脳科学入門-脳をリバースエンジニアリングする
続 メカ屋のための脳科学入門-記憶・学習/意識 編
考える脳 考えるコンピューター
脳と同様にはたらく機械や人工知能(AI)は、はたして実現可能なのか? 最新型ロボットでも難しい二足歩行を人間の幼児が易々とこなす背景には、膨大な記憶に基づき将来を絶えず予測する「脳」の存在がある。その中核を担う仕組みが、大脳新皮質のアルゴリズムだ。コンピューターなどの人工的機械と脳のはたらきとのシステム上の違いから、その決定的な差異を明らかにする。
ちょっと古い本だけど、脳の新皮質が複雑なタスクを解く仕組みについて面白い考察をしている
続編(脳は世界をどう見ているのか: 知能の謎を解く「1000の脳」理論)もあるので、この本が面白いと感じた人は続けて読むことをオススメする
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脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線
脳と人工知能の融合研究によって、
これまでは想像もできなかったような成果が次々と生まれ始めています。
計り知れない可能性を秘めた「脳」を持つ私たちは、
「身体」という物理的な制限から解放されるかもしれません。
二つの研究分野の最先端で、今何が起こっているのか。そして未来には何が起こるのか。
気鋭の脳研究者たちが「人類の限界」に挑む!
脳に知識をダウンロードできたら? 互いの脳をインターネットでつなぐことができたら?
脳の理解というより機械学習と組み合わせた応用に近い話
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で、結局脳ってどんな仕組みで動いているの?
とモヤモヤしだして、より詳しく知りたくなったら次のステップへGO
2.ざっくりと生物学の基礎をおさえる
ここはスキップしてもいいけど、個人的には生物学の基礎ぐらいは知っておいた方が後々楽だと思う
神経系って結局は生物が持つシステムなので、遺伝学・発生学・生態学・進化生物学etc...とも関連してくる
Naa_tsure.icon生物学以外の分野から神経科学の世界に飛び込んだ人が、収斂進化や中立進化の観点を逃してとんでもない考察をしていたケースを見たことがある
オススメは高校生物の教科書・資料集
Naa_tsure.icon高校レベルの内容が学べる!みたいな一般書もあるけど、教科書は絶対に外してはいけないところはしっかり抑えてる印象なので実際に高校で使われてる教科書をオススメしておく
僕が使ってたのが数研だったので数研のリンクを貼っておくけど、別にどこの教科書でも良いと思う
Naa_tsure.iconおすすめの教科書とかあったら教えてください(更新します)
改訂版 生物基礎
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改訂版 生物
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新課程 視覚でとらえる フォトサイエンス生物図録
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教科書とセットで資料集を買うのもアリ
最近の資料集はかなり充実してる
3.神経科学の基礎を知る
専門書をざっくり読むのと入門者向けの講義動画を見てみる
専門書
最初は隅から隅まで読もうとしなくて良いと思う
無理に詰め込んでも次の章行ったらほとんど忘れるので
個人的には図が豊富な教科書を選んで、まずその教科書に出てくる図を理解できるようにしていってた
デカいし高いし長い付き合いになる?と思うので、買うなら本屋さんや図書館で一度目を通すことをオススメする
専門書は文体や図が合う合わないがあるので、実際に自分で読んでから決めよう
1冊をメインで買って、他の教科書は気になる章だけ図書館で読むとかでも良いと思う
英語に自身がある人は最終的に英語で論文を読むことになるので英語版にチャレンジするのもアリ
Naa_tsure.iconただ、英語で読んで中途半端な理解になるんだったら日本語で正確な理解をした方がいいという立場
スタンフォード神経生物学
Principles of Neurobiology
1冊目の専門書であれば個人的にはこれ一択
必要な情報がコンパクトに上手くまとまってる印象(図も見やすい!)
ちなみに英語版は2020年に新版が出ているので情報が新しい
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カラー版 ベアー コノーズ パラディーソ 神経科学 脳の探求
Neuroscience: Exploring the Brain
こちらも最初の1冊として推せる本で、上の本と比べると神経科学でもヒト脳をメインに据えている印象
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カンデル神経科学 第2版
Principles of Neural Science
網羅性でいったらこちらの教科書がオススメ(というかド定番)
最近(2022年)、日本語版の新版が出たので英語版と比較しても古くないのもいいポイント
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講義動画
英語でも大丈夫な人は、入門者向けの神経科学の講義動画も一緒に見ると理解が深まると思う
オススメは以下の講義シリーズ
Introduction to Neuroscience
This playlist is a series of videos introducing the biological principles of neuroscience, emphasizing neuroscience as a living field and connections to health and society. We start from the electrical properties of neurons then build towards the neural basis of sensing & action as a feedback loop. Additional topics will include mental health, neuroscience & artificial intelligence (AI), and brain-computer interfacing (BCI).
自分が見てきた動画の中でぶっちぎりで完成度が高い
扱ってる内容も素晴らしいし、シンプルに解説が上手で頭に入ってきやすい
https://youtube.com/playlist?list=PLqgZEQsU_8E0l1P9bKR6yKOKPMpoJ_tLR&si=bf4gWZLmpv1tqlbQ
MIT 9.13 The Human Brain, Spring 2019
This course surveys the core perceptual and cognitive abilities of the human mind and explores how they are implemented in the brain.
特にヒト脳に興味ある人はこちらもオススメ
https://youtube.com/playlist?list=PLUl4u3cNGP60IKRN_pFptIBxeiMc0MCJP&si=7tHaLIcuBywBBgg5
4.いざ論文を読んでみる
最新の研究結果であったり、教科書では拾いきれない詳細な話は論文を読まないとわからない
が、論文を読もうとすると色々と問題が出てくる
どの論文を読めばいいか分からない
論文の導入から教科書に載ってない話がバンバン出てくる
英語に慣れていないので内容が理解できない
慣れていない場合はまずは、日本語の総説(特定のテーマに沿ったまとめ論文)から始めるのがよさそう
日本語の総説を読む
特にこだわりがなければ、以下の学会が公開している総説の中から興味があるものを探してみよう
日本語なので探すのもそこまで大変じゃないはず
J-STAGEで総説を無料公開している脳・神経関連の学会
日本神経回路学会(JNSS)
日本比較生理生化学会(JSCPB)
日本動物心理学会
日本神経回路学会誌
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比較生理生化学
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動物心理学研究
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ただ日本語で得られる情報は限られているので、論文の形式に慣れてきたら英語の論文にも手を出してみてほしい
とはいうものの最初は、
どの論文を読めばいいのか分からない
頑張って最後のページまで読んだけど、結局何が言いたかったのか分からない
みたいな状況に陥ることがあるので、日本語の補助輪をつけながら読んでみよう
具体的は、
日本の研究機関が英語で発表した論文
海外の研究機関が英語で発表した論文のうち、日本の解説サイトが取り上げた論文
のどちらかから選ぶ
日本の研究機関が出した英語の論文を読んでみる
研究機関から日本語で論文解説(プレスリリース)が出てるはずなので、それと照らし合わせながら読んでみる
タイトルも日本語なので、面白そうな論文を探しやすいはず
例えば、本の紹介でもあった理研↓
理化学研究所 研究成果(プレスリリース)
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他の研究機関も以下のポータルから探す事が出来る
Science Portal プレスリリース 一覧
ただし、言いすぎ問題には注意
超極端な例をあげると、
論文: "脳領域Aは実験条件Bにおいて、情報処理システムCと類似したシステムを使用している可能性を示唆"
プレスリリース: "脳は情報処理システムCと同じ"
みたいな端折りが発生して、意味が全く変わってしまうケースがある
解説サイトに取り上げられてる論文を読んでみる
科学の解説サイトは増えてきている印象だけど、とりあえず自分が信頼してるのは以下の2つ
AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン) 論文ウォッチー生命科学の今
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生命科学分野の最新論文を1日1本取り上げて解説しているサイト
日本以外の論文も取り扱っているので、論文選択の幅が広がるはず
神経科学の話題も多く、ここで紹介されてる論文を記事と一緒に読めば解釈ミスを防げると思う
DBCLS ライフサイエンス新着論文レビュー
https://scrapbox.io/files/652109c545119d001ccb4cc4.png
トップジャーナルに掲載された日本人を著者とする論文について解説するレビュー
2018年で更新が止まっているので最新ではないけど、良解説記事がごろごろ転がっているのでオススメ
同じ運営元のライフサイエンス 領域融合レビューもオススメ
残念ながらこちらも2019年で更新が止まっている
今回の研究で何が言えるかだけじゃなくて、逆に何が言えないかまで触れているサイトは信頼できる傾向
下で紹介してるジャーナルクラブであったり、セミナーの質問パートは参考になると思う
慣れてきたら自由に論文を探そう
探し方は色々あるけど、定番はGoogle Scholar
Google Scholar
Google検索と同じノリで論文を検索出来る
Naa_tsure.iconもちろんキーワードは英語でいれること
https://scrapbox.io/files/65213353a01d0e001b261288.png
他には、
前に読んだ論文(日本語総説も含む)が引用してる論文
前に読んだ論文を引用してる論文
面白かった論文の著者が書いた他の論文
から探すのもよくある
5. 研究室を探してみる
他人の研究を外から眺めている状況と、自分で研究をやる状況の間には大きなギャップがある
論文に載っているデータがどのような過程で取得されているかは、究極的には自分で実験をしないとわからない
順番としては3-4と平行しながらでもOK
研究室を探すときに論文が読めるようになっていると、その研究室が実際にどんな研究をしているかがわかるので助けになるのは間違いない
ラボのWebサイトで掲げてる研究と実際に論文として発表している内容にギャップがあるケースに注意
[学会について] 学会会員の研究室便り 研究室⼀覧 | 日本神経科学学会
神経科学やってるラボが検索できる
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ここに載っていない研究室も沢山ある
他の探す方法としては
自分の興味のあるキーワードで探す
先生に聞く
neurotreeで探す 
神経科学系研究者の系譜(師匠-弟子)が探せるサイト
Naa_tsure.icon日本人の登録はちょっと少ないかも
学会に行ってみる
論文よりも新しい研究を知ることができる
また、自分が興味のある研究をしている張本人とディスカッションもできる
学部生はお財布に優しい価格設定になってる場合が多いので研究室に入る前から行くのもあり
サマースクールに行ってみる
国内だとOCNCと理研あたり?
おまけ
便利なサイトなど
connected papers
関連論文を探すのに便利
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paperpile
文献管理ソフト(有料)
気になった論文をとりあえず保存→発掘するのが楽
他にも文献管理ソフトはあるので好きなものを使えばいいと思う
https://scrapbox.io/files/653c06a75eb44f001cfb33c6.png
Readable
論文のPDFを体裁を保ったまま翻訳してくれるサイト(有料)
学術的な和訳をしてくれるわけではないので注意
初めのうちはあんまり頼らない方がいいのかも
https://scrapbox.io/files/653bfc7e18611c001bdf3d49.png
脳科学辞典
神経科学の研究者らが編集している神経科学関連の用語解説wiki
ただし、まだ抜けてる用語も多い
https://scrapbox.io/files/653bfd8b8a825c001c19a299.png
Scholarpedia
学術系の用語解説をしている査読付きのWiki
計算論の話だと結構詳しい情報が載ってたりする
編集長は理論神経科学者として有名なIzhikevich
https://scrapbox.io/files/653bfbdad6554f001b2ef0be.png
Wikipedia(英語版)
マイナーな用語の記事があったりして意外と馬鹿に出来ない
ただ玉石混合なのでリファレンスの論文はちゃんとチェックしておくべし
https://scrapbox.io/files/653bfece5929a7001cab2a1d.png
neurotree 
神経科学系研究者の系譜(師匠-弟子)が探せるサイト
自分の趣向にあった論文の著者を見つけたら、その人の弟子や師匠の論文を読むのも面白い
下の図はカンデル神経科学のEric Richard Kandelの系譜(赤枠)
https://scrapbox.io/files/65674d782df8f0002285663f.png
疑似ジャーナルクラブ的なもの
ラジオ(Podcast)やYoutubeでジャーナルクラブや論文レビューを公開している人がいるので、その人らと同じ論文を読んで他の人の意見を聴いたりするのも勉強になる
NeuroRadio
日本人の若手神経科学者によるpodcast
ジャーナルクラブ的な回もあれば、論文の著者(ゲスト)に直接研究について聞く回もある
論文に載らない裏話や研究者のキャリアの話も聞ける
https://podcasters.spotify.com/pod/show/neuroradio/episodes/2-The-grid-cells-are-a-torus-erui2b/a-a52of1g
https://podcasters.spotify.com/pod/show/neuroradio/episodes/46-The-Fos-expression-we-saw-that-day-e1osaro
Numenta Journal Club
上で紹介した"考える脳 考えるコンピューター "の著者であるジェフホーキンスの会社がやってるジャーナルクラブ
https://www.youtube.com/watch?v=SIFWscdP7zU&list=PL3yXMgtrZmDoR7430H1zxFPQDFCsGim_b
その他良教材など
MITCBMM
世界中の神経科学者によるセミナーのアーカイブが上がっているチャンネル(MITのCBMM)
https://www.youtube.com/watch?v=2okqgRvNoGo&list=PLyGKBDfnk-iBPoaNmMvYXunWK5_mioFx-
HBP Education
こちらも似たようなコンテンツで、Human brain projectが提供している
https://www.youtube.com/watch?v=qFJNMMJ9n-M&list=PLvAS8zldX4Cj7wxGt1rptplas84hoGP71&index=1
Neuroscience exploration by Artem Kirsanov
神経科学における3Blue1Brownみたいな感じで、映像の作り方がとんでもなく上手
特に海馬周りが知りたい人はまず最初にこの動画から入るとわかりやすいと思う
日本語字幕もあります
https://www.youtube.com/watch?v=iV-EMA5g288&list=PLgtmMKe4spCMzkiVa4-eSHVk-N4SC8r9K&index=1
Neuromatch Academy: Computational Neuroscience
計算論的神経科学について、プログラムを動かしながら学べるオンラインコース
今のところ言語は英語だけだけど、現在進行形で有志が頑張って日本語に翻訳してるのでそれを待ってもいいかも
https://scrapbox.io/files/6544ae70493a3b001c7b51c0.png
計算神経科学への招待 脳の学習機構の理解を目指して
2007年に書かれたモノなので少し古いけど、日本語で脳の計算論について勉強出来るPDF
https://scrapbox.io/files/6554b63efec22e001b2ec57b.png
東京大学大学院 集中講義 計算論的神経科学
計算論的神経科学についての日本語の講義動画
https://youtube.com/playlist?list=PLXAfiwJfs0jE8DxX215F36H9hjYEWqkHS&si=Mk5L3jjlY2BHjTN6