藤井健太郎
【対談】STUTS × 藤井健太郎 | ジョニーウォーカーを手土産に2021年を振り返る
藤井 - STUTSくんにお願いした経緯を順に話していくと、まず役者さんのラップだけだと主題歌が曲としてかっこよくなるかわからない不安があったので、本職のラッパーと役者が二人でラップする形がいいかな、と。でも、そうなるとラッパーが登場する必然性が欲しい。なので、当初のアイデアとしては劇中にラッパーもなんらかの役で出演してもらって、それぞれの役の目線から見た大豆田とわ子だったり、佐藤鹿太郎だったりっていうのを第三者目線で紹介してもらいたかったんです。それが最終的にあのカメオ出演という形で残った。で、そのラップが乗るトラックもドラマから完全に独立したものになるより、なんらかの関連があったほうがいいと思ったんで、じゃあ劇伴をサンプリングしてもらおう、と。さらにトラックとフックは統一で、ヴァースだけが毎週変わっていく形が面白いなと。 STUTS - 僕が最初に今回のお話をいただいた段階で、劇伴をサンプリングする、複数のラッパーが週替わりで参加する、フックは松さんが歌う、みたいな骨組みは決まっていたんです。
STUTS - そうですね。そこから二人でラッパーの人選も一緒に考えて。KID FRESINOくんに入ってほしいというのは、藤井さんとドラマチーム双方の希望としてあって。彼は最高のラッパーなので、僕としてはやっていただけるならもちろんという感じでした。あと女性と僕が一緒にやったことないラッパーさんも入れたいというアイデアも話し合って。 藤井 - うん。そういう組み合わせの意外性は欲しかった。それでT-Pablowくんには僕から声をかけて。 - では『大豆田とわ子』のプロジェクトでもっとも印象的だったことをそれぞれ教えてください。
福井 - 僕は松さんのヴォーカルが乗った音源が来た時ですね。仮歌からガラリと印象が変わったんですよ。歌のうまさはもちろんですけど、ヴォーカリストとしての魅力が声に宿ってる人だと改めて感じました。スペシャルな声の持ち主だと思います。
STUTS - 同感です。(仮歌と)同じメロを歌ってるのに全然違う印象になりました。細かいピッチの動き方やニュアンスの部分はレコーディングでbutajiさんを交えていろいろ相談させてもらったんですけど、そこからあがってきた歌がこちらの想定を遥かに超えていました。歌の中にいろんなニュアンスが込められていて、そこに松さんの個性、大豆田とわ子のキャラクターも感じて。表現っていうものをまざまざと見せつけられたというか。今回の制作で「歌ってこういうことなんだ」ってすごく思いましたね。ただうまいだけじゃなくて、声質、歌い方、力の入れ方で心を揺さぶる何かがあるというか。すごく感動しましたね。
藤井 - STUTSくんの曲はさじ加減が絶妙なんですよね。“Presence”はプライムタイムのドラマで流れる音楽としてちゃんと成立してたけど、まったくセルアウトしてるように感じなかった。あと個人的にBIMの“Veranda”がすごい好きなんですけど、あのビートとか、STUTSくんの曲はクラブとかでデカい音で聴いた時の鳴りがすごくいい。 STUTS - 嬉しいです!鳴りもすごく意識してます。自分の中にこういうヒップホップがかっこいいという感覚が明確にあって。でも同時にいろんな人がいいと思う曲を作りたい気持ちもあるんです。だから『大豆田とわ子』の企画にいい感じでハマれたのかもしれない。
藤井 - 一応言っておきたいのは、PUNPEEくんやSTUTSくん、BAD HOPを番組で起用したのは、別にヒップホップのためを思ってやってるわけではないということ。ここにこれがハマるなっていうただそれだけなんです。無理やりフックアップしようみたいな意識ではないです。 - 第一は番組の内容であって、プラスアルファの要素を考える中で、純粋に好きなものが普通に選択肢の中に入ってくる、と。
藤井 - おっしゃるとおりです。
STUTS - そういう意味では僕も結局自分の好きなものを作ってるだけかも。作ってる時はいろんな方面に向けた「こうしたい」って気持ちがあって、それを一個一個反映させていくと自然と自分らしいものが出来上がってくる。その結果としての“Presence”だったり、“Veranda”や他の色んな自分の楽曲なんですよね。
藤井 - 視聴者を無視することはないけど、さっきも話した通り、やっぱり僕も自分が面白いと思ったり、かっこいいと感じたりする番組を作りたい気持ちが大前提にあって。あとは、なるべく今までにない番組を作ってたいってことくらい。別に1から10まで斬新じゃなくてもいい。番組のどっかに、今までにないフォーマットや組み合わせを入れようと思ってますね。『大豆田とわ子』で言えば、エンディングの映像が毎週変わって、かつ週替わりで違うラッパーも登場して、カメオ出演もある、とか。一個一個は劇的に革新的ではないけど、最終的に俯瞰で見ると新しいことをやってるように見える。同じことばっかりやってると自分も飽きちゃうし。ルーティンになりがちだから。