天候インデックス保険
2007年ごろ、国際協力銀行(JBIC)から「気候変動の影響に脆弱で災害対策が遅れている途上国に対して、インデックス保険のスキームを作れないか?」という提案をいただきました。その後、JBIC と共に1年ほどリスクファイナンス手法の研究会を実施し、まずは、東南アジアの中でも天候のデータが多く取得できるタイ国でコメ農家向けのパイロットプログラムを開始することにしました。 タイの東北部は灌漑設備の整備が遅れていて、農業用水は雨水に頼る農法が主体となっています。そこで、2010年に東北部のコーンケン県で試行し、翌 2011年には5県、2014年には 17県に拡大し実施しました。2017年までの間、タイ国の東北部では干ばつが発生した地域もあり、何度かインデックス要件を満たす支払いが出て、農家の方に、保険の意義を体験していただきました。 その結果、他国へも拡大することになり、2014年には、SOMPOグループは、ミャンマー国のコメ、ゴマ農家を対象に天候インデックス保険の開発をサポートしました。こちらはミャンマー国の国営保険会社を通じて、2019年から販売を開始しています。また、2019年には、コメ向けに培ってきたノウハウをフルーツにも活かして、SOMPO Insurance Thailand は、タイのチェンマイ県でロンガン(龍眼とも呼ばれるフルーツ)農家向けの天候インデックス保険発売を開始しています。
衛星データは、天候インデックス保険の設計にどのように活かされているのか?
天候インデックス保険の場合、損害額と相関の高い、つまり強い関係性を持つ気象データを元に設計します。そのためには、長期間、信頼できる気象観測を行う体制が整っていなくてはなりません。
パイロットプログラムを立ち上げたタイでは、およそ 10キロメートル四方ごとに気象観測ができる体制があり、保険の設計にあたってタイ気象庁から過去の気象データを入手できました。
一方でミャンマー国では雨量計が 30~40キロメートル四方に1箇所という状況で、データの欠損も多く、基礎的な観測体制は十分ではありませんでした。2013年から国際協力機構(JICA)の無償資金協力の元で自動気象観測システムをミャンマー国内に 30箇所整備し、その後も持続的な観測支援をおこなっていますが、保険の設計には過去数十年の過去データが必要になるため、これを活用するにはまだ高いハードルがありました。
そこで、JAXA が世界の降雨分布を準リアルタイムで1時間ごとに提供している「衛星全球降水マップ(GSMaP)」を活用することになったわけです。リモート・センシング技術センター(RESTEC)と共同で 2014年にプロトタイプを開発しました。 人工衛星から推定する降水量は、雲全体や雲中の氷水滴等を測定した結果を基に算出されるため、地上雨量計による測定降水量とは異なる特性を持っています。従って、保険設計の際には、地上雨量計と衛星雨量と特性を評価した上で、衛星雨量のキャリブレーション(補正)に関する検討を行い、衛星雨量は、地上雨量計の代替指標として精度があると考えられ、インデックスの閾値として利用することになりました。