創造性
特別寄稿 ドナルド・A・グレーザー博士
たいていの人間は、何か創造的なことをやりたいと思っているが、創造性とは何だろうか?どのように創造的な仕事はおこなわれ、私たちは、どうやって、それが創造的な仕事だとわかるのだろうか?創造性は学べるのか、それとも生まれつきのものなのか?科学者、技術者で、時に音楽を演奏する私の経験からの創造性についての考えは、他の分野にも当てはまると思う。君達も学べば自分の創造性を伸ばせると私は信じている。
創造的な仕事とは何か?
創造的であるには、その一つの仕事が、過去にないもので価値のあるものでなくてはならないが、目新しいとか価値があるとかは、君達の属している社会の他の人々の意見で決められる。科学や工学の分野はとても国際的になってきたので、活躍する人たちの舞台は全世界ということになるが、芸術は、もっと地域の文化に根ざしてるはずだ。過激な思いつきだからといって創造的ということにはならず、芸術ならば、喜びや感動をもたらし、工学や医学ならば、実用的な効果をもたらすか、あるいは重要な方向に学問を前進させる仕事につながるものでなければならない。ありふれたものをさらに便利にしただけのものでは本当の意味で創造的とはいえないし、過去に作られたものとは重要な違いがなければならない。
創造的な仕事への五段階
1.目標を定めよう
まず君が価値があると考え、しかもあたえられた時間内で実現できそうな目標を定める。きっと簡単にはいかないだろうから、目標に到達するぞ、という強い意欲をもたなくてはならない。簡単なものならば、他の人が、すでにやり遂げてしまっているはずだ。
2.知性の準備をしよう
目指したことについての一般的な分野で君の学習できることは何でも吸収して、君の知性をいっぱいにしておこう。すでにどんなことがおこなわれたかを確かめ、それに関係した事実を調べ、目標の分野の専門家になるつもりでやってほしい。人は生まれつき、素晴らしい科学的な閃き、絵画、交響曲、小説の入った宝の小箱をもっていて、人知を越えた力、あるいは心理的なテクニックを習得したとき突然、小箱からあふれ出るのを待っているだけと信じている人々もいるが、とんでもないことだ。勿論、私たちの創造的な衝動は、内面にあるものから作り出されるが、他の人たちが、すでに学び、なし遂げたことで私たちの知性を豊かにしようという努力は不可欠である。他の人よりも早く学べる人たちもいるけれど、重要な目標を達成したいという意欲は、勉強のスピードをあげてくれるし、より興味もわいてくるものだ。とはいえ私たちはたくさんの知識はあっても独創的なことは何もできない学者のいることを知っている。そこで、さっさと三段階目に進むことにしよう。
3.新しい発想をつくりだそう
たぶん、初めのうち、多くの人たちにおかしいとみなされても、君の学んだこと、思い描いたことをこれまでとは違った新しい組み合わせで一緒にしてみることで、新しい考えを作ってみよう。君の知識の範囲を広げ、ふくらませるために、これまで学んだ知識で遊んでみよう。この段階では君には昔からの伝統から解き放たれ、月並みな知恵や一般に認められた思考法を越えて探検することが要求される。君の思考の中に、ばかげたものが一つもなかったとしたら、君は成功しないだろう。そして次の段階ではもっと多くの考えが必要になるから、最初に得た思いつき一つで満足してはいけない。奇妙な思いつきが得意なだけで、たくさんの馬鹿げた思いつきを抱えて、とどまっている人たちもいるものだ。
4.君の思いつきをチェックしてみよう
この段階では君が思いつきが多過ぎて、一つ一つを発展させるには充分な時間はなくなっているだろう。ここでの君にはどの思いつきが成功するもので、どれがそうではないかをすばやく見分ける能力、時には眼力とか直感とか呼ばれる特別な才能が要求される。この判断は、確かに知識と経験によるものではあるが、説明するのは困難な潜在意識の領域で、すばやく、なされるはずだ。どうやって、この能力を開発するかは説明しにくいが、そうした判断を何度かしてみること、他の人がうまくやっているのを見ること、そうした経験から覚えるのが一番だろう。いいか悪いか、すばやく判断はできても新しい考えも描けず自分で立てた目標に夢中で取り組もうと燃えることもない評論家もいる。
5.君の最高の思いつきを磨きあげた創造物にしよう
最後に、見込みのありそうな君の考えを形あるものに仕上げ磨き上げるための専門的な技能を身につけなければならない。こうした技能を習得するには何年もかかるかもしれないが、慎重に実践していくこと、いい先生につくことが大切だ。君たち自信の文化的背景から完全に離れてしまうような、無駄な努力をしないようにすべきだ。それよりは社会から学べることをすべて吸収して、最高の技能を身につけるがよい。
実際には、創造的なプロセスは私の分析した助言ほど整然とした厳密なものではない。君たちが思いつくことは手先の器用さや経験から生まれることもあるし、眼力はご両親や君たちが教えをうけた最良の教師の人格から養われることもあるだろう。目標達成の途中では他にもいろいろな影響力が働いて君たちの心を揺れ動かすことだろう。実際には、創造的な活動とは不思議な力と努力が驚くべき形で組合わさったものであり、だからこそ素晴らしいのだ。
まとめ
創造性とは、やりがいがあり、かつ実現可能な目標を選んでそれに向かってひたむきに努力すること、その分野のことをよく学び、学んだことをいろいろに組み合わせて新しい、時として突拍子のない思いつきを作り出すこと、優れた眼力や直感を働かせてうまくいく見込みのないプランを除外すること、そして、磨かれた技能でいい考えを仕上げ、新しくしかも価値ある成果を生み出す能力のことである。精神面でもまた肉体面にも限界に挑戦するきびしいプロセスだが、自分の能力を最大限に発揮することだけでも、創造したもののもつ美しさの他に、多大な喜びを君たちにあたえてくれるだろう。