俺も人間じゃないから、人間じゃないやつの気持ちはよくわかる。
このぐらいの時期は、マスクが買えなかったんだっけ?トイレットペーパーが売り切れてたんだっけ? いま考えるとアホくさいけど、そのときは必死だったよね。
たった1年前ぐらいのできごと。
いつもより静かな夜だった。外へ出ていないので、想像でしかないのだけど。この街では20時以降の不要な外出が禁じられている。
それで、きみはどうしたいの?
要請されて心を動かしているわけじゃない。いつだって期待を超えたことがしたい。共助とは、つまり共犯ではあるまいか。
そういうことなのかと、ちょっとだけわかったような気がした。またすぐに、なにもわからなくなってしまうのかもしれないが。
ぜんぜん別の場所にあるものが、重なって見える。いま起こっていることが、いつか体験したことのように感じられる。速すぎてよく見えないけど、出会った瞬間に別れている。それを繰り返している。からだの輪郭が高速に振動して、中と外が入れ替わっている。なんども死んでは、生まれ変わっている。それはそれとして、わたしたちはきょうも暮らしていかないとならないから、便宜上こんなことを緊急事態と呼んでやりすごしているわけなのだが。
俺も人間じゃないから、人間じゃないやつの気持ちはよくわかる。