『寝ても覚めても』
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ここでやはり触れておきたいのが、伊藤沙莉という女優の存在感です。彼女は千葉出身ですが、今作に出演している俳優の中ではダントツで関西弁がうまい(渡辺大知はもともと関西人なのでうまくて当たり前)。さらに、大阪のおばはん的な、ちょっと図々しいような、でも可愛げのある憎めないキャラクターを見事に演じています。全体的に不穏なムードが支配する本作ですが、伊藤沙莉が出てくるとなんだかホッとしてしまう。ドラマ版『この世界の片隅に』でもそうですけど、彼女はコメディリリーフ的な役がうまい上に、物語をきりっと引き締めることができる存在なんですよね。決して大げさな話じゃなく、将来的に樹木希林みたいな存在の女優になっていくのではと期待してしまいます。 共感主義も不気味ですけど、僕はフィクションの登場人物に自分の倫理観を重ね合わせるのって、作られた物語にあまりにも埋没しすぎていて危険なのではと感じるんですよね。映画が好きな人って、たぶん「これは作り物だ」ということを無意識的にすごく理解してる人な気がするんですよ。だから、どれだけ倫理的におかしい登場人物が出てきても飲み込める。このお話の中ではこういう人がいてもおかしくないと思える。でもフィクションに慣れていない人って、そこで起きていることが作りごと(それが史実をもとにしたものであったとしても)だということを本質的に理解していない。だから登場人物の行動に、実生活の規範のような枠を使ってジャッジを行ってしまう。実は、映画が大好きな人よりも、映画に悪い意味で入り込み過ぎてるんですよね。朝子みたいな女が身近にいたらそりゃどうかと思いますよ。でもこれは小説であり、映画なんです。この映画に限らず、「登場人物の行動が許せない」という人を僕はあまり信じないようにしています。これは作り事ですよ、という意識の中でなされる登場人物の行動の矛盾は、実社会でのルールから外れた登場人物の行動とは違った意味でジャッジされるべき。…って、何を言ってるのかわからなくなってきましたけど、とにかく『寝ても覚めても』が素晴らしかったということだけは言っておきたいことで。