『誰が音楽をタダにした?』
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人間がどのように音を認識するか科学的に研究
耳にはもともと構造的な欠陥がある
完璧なサウンドを永遠に」という宣伝文句を見ても、ザイツァーには、人の耳には区別できないどうでもいい情報をすべてつめ込んだ記録媒体にしか思えなかった。CDのデータのほとんどは不要なものだ。人間の聴覚はすでにそれを排除していた。
人間の知覚できない音は排除することで、少量のデータで音楽を保存することができる。
1987年から、彼らはブランデンブルクの特許をもとにした商業製品の開発にすべての時間をつぎ込んだ。開発の方向性は2通りあった。ひとつはブランデンブルクの圧縮アルゴリズムを使って音楽を「ストリーミング」すること。つまり、ザイツァーが夢見たように、中央サーバーから直接ユーザーに音楽を送ることだ。もうひとつは、この圧縮アルゴリズムを使って音楽を「保存」すること。つまりユーザーがパソコンにファイルを保存して、再生できるようにすることだ。どちらにしろ問題は容量で、データを12分の1に圧縮することが鍵だった。 ブランデンブルクの数式は優雅で、美しいとも言えたが、乱雑な聴覚の現実をすべて組み入れてはいなかった。人の聴覚をきちんとモデル化するには、人間相手の実験が必要だった。その被験者は、どこがどんな風にダメなのかをグリル並みに言葉で言い表せるように、訓練を受けた人でなければならなかった。それができるようになったあとで、何千回ものランダム化された二重盲検法による比較試験を行う必要があった。 MPEGは決定を擁護し、えこひいきはなかったと言った。MUSICAMの研究者は疑いをかけられて憤慨していた。それでも、歴史を振り返れば、19世紀末に起きたAC対DCの「電流戦争」から1980年代のVHS対ベータ闘争まで、最高の技術ではなくもっとも腹黒い者が勝利を手にしてきたことは明らかだった。エジソンからソニーまで、自分たちの規格をうまく宣伝し、賢くライバルの裏をかいた者が利権を手に入れてきた。規格「戦争」と呼ばれるゆえんはそこにある。
フラウンホーファーのメンバーはもちろんインターネットを知っていたが、彼らの知るインターネットは研究やビジネスの協力ツールであって、10代の匿名ハッカーが集まる得体のしれないサブカルチャーではなかった。 スタジオの人間にとって、音は「トーン」や「温かみ」といった美的感覚で語られるものだった。研究者にとって、音はこの宇宙の物理的な特性で、空気の振動を数字で表したものだった。
トーン、温かみといった美的感覚 vs 空気の振動を数字に表したもの
欲求
タイミング
機会
控訴と反控訴を繰り返したあと、この裁判にやっと決着がついた。音楽業界にとっては勝ち負けが半々で、ナップスターには勝ったがダイヤモンドには負けた。P2Pのファイル共有は地下に追いやられたが、mp3プレーヤーは店頭に残った。ナップスターのサーバーは2001年7月に閉鎖されたが、その直前に駆け込みでダウンロードが殺到し、人々は自宅のコンピュータに膨大なファイルを貯め込んで、それを簡単に手放すとは思えなかった。こうして業界激変の幕が切っておろされた。これをきっかけに、CDは永遠に葬られ、ニッチなIT企業が世界最大の企業へと生まれ変わることになる。 音楽業界は、闘う相手を間違えていた。
10章 市場を制す
ポップもまた、mp3に技術的欠陥があってもすぐに取って代わられることはないと思っていた。この頃、英語の検索ワードのグローバルな調査結果に関するメールが回ってきた。「mp3」が「セックス」を抜いてインターネットでもっとも検索されたワードになったのだ。それを見たポップは笑い、12年間の緊張がやっと解けた。フォーマット戦争は終わった。自分たちが勝ったのだ。 もちろん、「mp3」と打ち込むのは、音声圧縮技術について知りたいからじゃない。人間の生殖システムについての科学的な情報を得るために「セックス」と打ち込むわけじゃないのと同じことだ。mp3は、無料の不正音楽ファイルを表す言葉になっていた。ナップスターができる前、音楽をただで手に入れるのは難しく、限られた人にしかそれはできなかった。IRCを使いこなし、質のいいFTPサイトを見つけるには、それなりの時間と初歩的な技術が必要だった。でもナップスターができてからは、ヤフーにmp3と打ち込むだけで、どんなアホでも数分で海賊アルバムを山ほどダウンロードできるようになった。 12章 海賊を追う
だが、2000年代にアップルが勢いを持ったきっかけは、ナップスターで得た不正ファイルを堂々と持ち歩けるようにしたからだった。音楽の海賊行為が90年代版の違法ドラッグのようなものだとすれば、アップルの発明はマリファナパイプと同じだった。 14章 リークを競い合う
グローバーの上得意の多くは工場の従業員で、グローバーが信頼する人間にはもっといい条件で取引していた。映画一本に5ドルを支払う代わりに20ドルで見放題にしてあげるのだ。それならディスクもいらなかった。グローバー自身がトップサイトを作って自宅サーバーで管理し、パスワードを買った人はなんでも好きなコンテンツをダウンロードできる。過去5年間にリリースされたDVDがすべてそこにあったし、最新のゲーム、音楽、ソフトウェア、そのほかにもいろいろと取り揃えていた。サイトにないものはリクエストすれば1時間以内にグローバーが探してくれた。ビデオ・オン・デマンド、つまり動画配信サービスは夢のような未来のテクノロジーだと考えられていたが、グローバーと知り合いなら、それが目の前にあった。彼は自宅でネットフリックスを経営していたことになる。