人新世
「人新世」という用語を提案したのは、海洋の酸性化と温暖化、そしてもっとも根本的な水準で地球上の生命のありかたを変容させてしまう、人類に由来するさまざまなプロセスを大変憂慮していたひとりの科学者でした。【原註2】 もしサイボーグ期(a cyborg term)というものが仮にあったとするなら、それが「人新世」です。さまざまに種類の異なる〔時空の〕スケールを測定し、それを知る権利を強く要求する力を持ったサイボーグ的知の装置なるものが仮にあったとするとしましょう。すると人新世は、サイボーグ的知の装置が〔時空の〕スケールを制作する実践の具体例だと言えるでしょうね。
この用語はいくつかの点で、わたしの悩みの種でもあるんですよね。特に、男性基準の人類(the anthropos)がまたもや関心の中心になっているという点、それから黙示録を終点とする破滅の道が、ほんとに、またもや男性基準の人類の物語、「上を見上げる者」の物語であるという点ですね。この「上を見上げる」というのはanthroposの語源のひとつであり、男性=人間(man)と男性=人類(mankind)の物語の一角を占めているものです。【訳註10】 わたしたちが当事者となっているトラブルを、根本的に人間主義的なかたちで名づけるやり口の出どころはこういう物語です。