エミール・パンヴェニスト
リズムの語源についての研究
Rhytmos リュトモスの語源
リズムという語は、リュトモス(rhythmos)=リュスモス(rhysmos)という古代ギリシア語に さかのぼる。バンヴェニストによると、リュトモスという語は「波の運動」「流れている水」な どにはつかわれておらず4)、むしろ「文字」「着衣」「性格や気質の独特な傾向」といったものに ついて使用されていたという5)。一般的にリズムというと、運動や持続といったものにかかわる と考えられるが、そのはじめの用法を見てみると、「瞬間におけるかたち(forme dans l’instant)」 6) を意味している。リズムは「諸要素の特有の配置・釣り合いによって規定された空間的な布置 (configuration spatiale définie par l’arrangement et la proportion distinctifs des éléments)」7) として考えら れていたということである。 このようにリズムはもともと「かたち」にかかわるものであり、しかもそのかたちというのは、 固定したかたちというよりも動きうるかたちである。つまり、次のときには諸要素の配置が変わ って別のかたちに変わりうるような、そうしたかたちである8)。
山下尚一「かたちと流れのあいだ ―ソヴァネにおけるリズムのあらわれの問題―」pp.49
かたちとしてのリズム
このような形とリズムのあり方は、クレーや、ハンス・プリンツホルンや、アンリ・フォシオン などの、様々な形の理論に触れながら肉づけされていくが、本稿の観点から最も重要なのは、エミ ール・バンヴェニストのリズム論である。バンヴェニストによると、リズムの語源である古代ギリ シア語のリュトモスは、波の流れのような流動的なものではなく、むしろ諸要素によって瞬間々々 に引き受けられる空間的な布置を指すものであった。
スケーマはある種の「形」、いわばひとつの対象として措定され実現された固定的な「形」と 定義される。反対に、リュトモスは、それが与えられる文脈によっては、運動するもの、動くもの、流れるものによって引き受けられる、瞬間における形、つまり有機的な共立性を持たな いものの形を指し示す。リュトモスは、流れる要素のパターン、恣意的にかたどられた文字、 好みで仕立てられたペプロス、性格や気質の特定の傾向、これらに相応しいものである。それは即興の、刹那の、変化可能な形である。8)