20220916労働経済学
川口大司『労働経済学』第10章
これからの日本社会と労働経済学
これまで学んできた知識を定着させるためには、学んだことを使って現実の問題を分析する練習が必要
人口減少・高齢化+急速な技術進歩という大きな課題に直面している労働市場について考えたい
1 予想される変化
日本の人口
https://gyazo.com/cb660514fc81065692224ff4d26e913bhttps://gyazo.com/37ec0a342abdbe49c37cdd2faeab62bc
国立社会保障・人口問題研究所による人口推計
2008年が総人口のピーク
これから生産年齢人口(15歳から64歳まで)が人数でも割合でも減少していく
現役世代2人で高齢者や子ども1人を支える形から、1人で1人へ
人口減少は、世代間で不均衡→高齢者は増えて、現役世代が減るので、問題はさらに深刻になる
ちなみに人口増加が続いている中国でも、2030年をピークに人口減少に転換するとの国連の予測もある
https://gyazo.com/b34ba94a8a21e4db5021a26d7e228937
地域間でも人口減少には大きな違いがある
https://gyazo.com/54733183fe819cb8e395b7b06664a9f4
人口の増加するエリアは利便性が向上する
人口が減少するエリア
若者が住まなくなり高齢者ばかりになる
店舗や事業所なども減っていき、生活の利便性も低下する
働く場所が近所になくなるという面で雇用労働分野にも影響がある
人口減少による人手不足(2019年までは深刻な問題として対策が考えられていた)
すでに女性の就業率は増加している
無理に働かせようとするわけではなく、働きたい人が働けない阻害要因があれば取り除こう
保育所の整備、高齢者の介護を介護保険制度で支える
保育所が整備されてくると、今度は「小1の壁」への対応策として学童保育の充実なども求められるようになってきた
高齢者の活躍も推進
これまでも企業が是非と頼み込んで継続雇用をしていたケースはあった
2007年問題:団塊の世代が60歳の定年を迎えたことで、技術継承に不安があった
2012年問題:この世代が65歳を迎えて、仕事からリタイアすることから再度技能継承の不安が発生
最近は、すべての高齢者が希望する場合には働き続けられる環境整備として70歳までの雇用確保義務(改正高年齢者雇用安定法による努力義務)
外国人労働者の導入促進
これまで日本では、外国人労働者としては高度技能者のみを受け入れるというのが建前だった
現実には、技能実習生制度などを利用して単純労働も一部受け入れていたが、あくまで例外的だった
2019年から、日本で人手不足が深刻な14業種について外国人労働者を受け入れるようになった
特定技能14業種
https://gyazo.com/324fa33b9a92096b2539aad5a1240992
今後の課題
多様な事情を抱えた労働者が制約のなかで高い生産性を上げていく働き方を実現する
製造業や建設業から、医療福祉などへの産業構造転換への対応
教科書には書いていないが、対応が求められる社会変化として、急速な技術進歩がある
技術的失業(techonological unemplyment)への対応
急速な技術進歩により、これまで人間が行っていた仕事が機械やコンピュータによって失われてしまうこと
昔から同様の問題は存在した→自動車ができると馬車などは不要になった
技術進歩や新商品の普及がゆっくりであれば問題は少ない
従来の仕事を高齢者は続けて、若者が新しい仕事に就けばよかった
最近の急速な技術進歩で、現役世代の途中に仕事がなくなってしまうケースもある
自動運転自動車の発達により、タクシー・バス・トラックなどのドライバーの仕事が不要になる→これまでドライバーの仕事をしていた労働者はどの分野に移動すれば活躍できるか?
人手不足と失業の二つの問題が指摘されている
失業した人が人手不足の業界に移動できれば問題は少ない
しかしそれは難しい(人手不足の業界も、労働者ならば誰でも良いわけではない)
スキルのミスマッチが存在すると、人手不足と失業が共存するという問題に直面することになる
2 求められる変化への対応
2.1 個人の対応
労働市場の環境変化を意識しながら自分自身の働き方を設計していくという姿勢が重要
これから労働市場に出ていく学生
すでに働いている社会人の両方に必要
年齢×これまでのキャリアやスキルにより、とるべき対応策には大きな違いがある
大学生にアドバイスをするなら?
30歳台男性・女性
50歳台男性・女性
2.2 政策的対応
個人レベルの対応と政府レベルの対応
非正規労働問題(働く人のおよそ40%が非正規)
https://gyazo.com/46a40c4d4d65a11b8780c009d9e4181a
非正規雇用への対策はどのようなものが必要か→後で別に扱う
解雇規制(雇用保障について)
セーフティネット
その他の教科書にない論点
雇用の流動性と働き方の多様化
日本では、流動性が足りないと言われることが多い→本当か?
収入と生活の安定をどのように実現するのか
大企業の正規雇用、公務員などから
会社を移ったとしても、収入が途切れず、増加する
不安が少ない雇用へ
雇用と雇用類似の働き方
雇われて働く(90%は雇われて働いていた)
自営業(個人事業主)として働く(10%は、街の商店や個人として働いていた、または経営者)
例:Uber eatsで働くのは、雇用契約ではなく業務委託であり、労働法の保護の外にある
このような雇用ではないことに契約上はなっているが、実質的には会社側の指示に逆らえない人たち(指揮命令を受けている人たち)の働き方をどのように環境整備するのか
副業・兼業の労働時間管理と安全衛生
2018年が副業解禁元年とされていた
それまで厚生労働省が出していたモデル就業規則では、原則禁止だった副業・兼業 2018年からは原則は自由で、一定の理由があるときのみ禁止できるようになった
そうすると長時間労働の問題や健康管理などの課題が発生する
https://gyazo.com/20d38a81808bb91653ae198044211576
https://gyazo.com/ecdd3048c39c6d688415c2014734ebb1
https://gyazo.com/d48eabe8413c281f2359e96dce5783b7
https://gyazo.com/97bc6012578451f8391ca4f69de7e5d2
新型コロナ感染症を契機とした在宅勤務・リモートワークの推進と課題
例えば、商社の伊藤忠商事では、完全在宅勤務への切り替えを行っている
在宅・リモートワークの阻害要因を取り除くために
在宅・リモートワークが可能な仕事は、雇用から請負など、契約形態が変化する可能性
非正規労働
非正規(non-regular worker)とは、正規(regular)ではない働き方
https://gyazo.com/766eb2a482d6da97d4911c87344e35e9
非正規は、不安定な雇用と低い賃金水準・低い賃金成長
企業はなぜ正規雇用を雇うのか
これを理解すれば、なぜ特定の労働者が正規で雇われないのかが分かる
新卒採用→企業特殊的訓練→長期雇用
日本的雇用慣行(J. アベグレン:BCG):定年までの長期雇用・年功賃金・企業別組合
https://gyazo.com/77cd5a65d67791c5a404a72e639726dd
https://gyazo.com/b7806c663e2cbbfda9fc126098006f22
正規雇用労働者は、男女の家庭内分業が前提となっている(?)
出産育児との両立
なぜ女性が非正規率が高いのか(性別に基づく役割分担)
上方婚と下方婚の傾向
企業において採用や昇進の決定などで女性が不利に扱われるケースも多かった
統計的差別が発生するから
https://gyazo.com/e1df7b3771317d5054698aa7174f1cb4
非正規雇用の労働者を安定した雇用形態に移行させるために
昔は、家計を支える人(主に男性)が正社員として安定的な収入を得ていれば、その配偶者や子がパートタイム労働者アルバイトとして働いているときに低収入や不安定な雇用であっても問題は少ないと考えられていた
しかし最近は、自分の収入で自分や家族の生活を支える非正規雇用労働者が増えている
非正規雇用労働者の生活の安定が重要な論点になってきた
無期転換ルールの意義(同じ職場で5年間有期雇用として働いたら無期転換権が発生する)
5年よりも短い段階で雇用契約が更新されなくなる(雇い止め)の問題
cf: 男女の交際関係が1年を超えたら、どちらかが希望したら結婚しなければならない
うまくいかない(弊害が大きい)ことがわかった仕組みは、修正が必要
https://gyazo.com/e5f4bb8a9c5ffe1c7778492dd2fcdfba
解雇規制のあり方
解雇には合理的な理由が必要
解雇には、懲戒解雇・普通解雇・整理解雇がある
整理解雇には、整理解雇の四要件・四要素
必要性
解雇回避努力
対象者選定の合理性
手続きの妥当性
企業側は解雇権を持つが、権利濫用の場合は無効となり現職復帰
解雇の金銭解決は導入すべきか
セーフティネット
解雇規制、失業保険、再就職支援、生活保護
3 今後の雇用社会と研究課題
3.1 社会的分業
人手不足と女性や高齢者の就業促進
女性の活躍で、少子化がさらに進展してしまう?
男性が子育てをする、保育園の整備と育児の社会化(Feyere, Sacerdote and Stern 2008)
女性がひとり追加で働くようになると、その子供の保育で女性労働者が使われてしまい、社会全体で労働供給は増えない?
規模の経済:自分の子供は一対一でみるが、保育所なら1人で複数みられる
3.2 人工知能(AI)など技術進歩と労働への影響
コンピュータが得意な繰り返し作業
人間でなければできない作業とは何か
最近の政策とその評価
同一労働同一賃金
無期転換
多様な正社員
有給休暇の取得
日雇い派遣の条件