外国人労働者の活躍
設定
日本で働く単純労働者の人数を$ S、また技能職の人数を$ Hとする。日本の自国民は全部で1とすると、外国人の単純労働者を受け入れない場合には、$ S+H=1が成立する。
日本全体の生産関数を$ Y=S^{1/2}H^{1/2}とする。これは代表的な企業の生産関数がこの形をしていて、そのような企業が全体で1単位だけ存在すると考えればよい。$ S^{1/2}H^{1/2}を書き換えると、$ \sqrt{SH}となる。つまり$ Sと$ Hがバランスよく存在しないと高い生産量が実現できないことを想定している。
自国民は、$ kだけの訓練費用を支払うことで技能職に就くことができる。ただしこの$ kの値は人によって異なり、$ 0から$ bの間に等確率で分布していることを仮定する(一様分布:$ k\sim U[0,b])。つまり1単位いる自国民のうちで、最もコストが安い人は$ 0で最も高い人は$ bとしている。
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外国人の単純労働者の人数は$ M\ge 0とする。$ M=0は受け入れないことを意味する。また単純労働者だけを想定するので、技能職の人数を$ H、単純労働者の人数を$ Sと書くとき、$ S=1-H+Mとなる。
賃金の決定
賃金は限界生産性と一致するように決まるので、高技能の仕事の賃金を$ w_H、単純労働者の賃金を$ w_Sとすると
$ w_H=\frac{\partial Y}{\partial H}=\frac{1}{2}H^{-1/2}S^{1/2}(=\frac{1}{2}\sqrt{\frac{H}{S}})
$ w_S=\frac{\partial Y}{\partial S}=\frac{1}{2}H^{1/2}S^{-1/2}
となる。
どんな人が高技能の仕事を選ぶのか。$ w_H -k\ge w_Sの場合に、訓練費用を超える賃金差があるので高技能の仕事を選ぶ。賃金の差を$ \Delta\equiv w_H-w_Sと書くことにすると、$ \Delta\ge kと条件を書くことができる。
それでは何人が高技能の仕事を選ぶのか。高技能の人数が$ Hであり、$ bH=\Deltaという関係が成立するので、$ H=\frac{\Delta}{b}と書き換えることができる。ただし自国民の人数が$ 1なので正確には$ \min\{\Delta/b,1\}となる。ただし以下では、$ H=\frac{\Delta}{b}として解いて、あとで$ H\le 1が成立していることを確認する。
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計算
利便性のために$ r\equiv \sqrt{\frac{S}{H}}という記号を導入する。これを使うと、高技能労働者の賃金は$ w_H=\frac{1}{2}rと書くことができ、また単純労働者の賃金は$ w_S=\frac{1}{2r}となる。また$ \Delta=w_H-w_S=\frac{1}{2}\left(r-\frac{1}{r}\right)となる。
この記号を使うと、$ H=\frac{\Delta}{b}を$ H=\frac{1}{2b}\left(r-\frac{1}{r}\right)と書くことができる。また$ S=1-H+Mであり、$ rの定義から、$ r^2=\frac{S}{H}なのを書き直すと$ S=r^2Hであることを組み合わせると、$ r^2H=1-H+Mとなる。
今の式に$ H=\frac{1}{2b}\left(r-\frac{1}{r}\right)を代入すると、$ r^2\frac{1}{2b}\left(r-\frac{1}{r}\right)=1-\frac{1}{2b}\left(r-\frac{1}{r}\right)+Mとなる。両辺に$ 2bをかけると$ r^2\left(r-\frac{1}{r}\right)=2b-\left(r-\frac{1}{r}\right)+2bM\ \Leftrightarrow (r^2+1)(r-1/r)=2b(1+M)と書き換えることができる。左辺は$ r^3-1/rになる。そして両辺に$ rをかけて移行すると、$ r^4-2b(1+M)r-1=0が得られる。
この式は$ bと$ Mが決まったら、単調性より$ r(=\sqrt{S/H})が一つに決まる関係になる。そして$ rが外生変数の$ bと$ Mから求めることができるので、全ての変数を$ b, M, rの式として書くことができる。
具体的には$ H^*=\frac{1}{2b}(r^*-1/r^*)、$ r^2=S/Hより$ S^*=r^2H、$ w_H^{*}=\frac{1}{2}r^*、$ w_S^*=\frac{1}{2r^*}となる。また$ Y*=\sqrt{H^*S^*}を$ b, M, rの式になるように求める。$ r=\sqrt{S/H}より$ S=r^2Hである。よって$ Y=\sqrt{HS}=\sqrt{Hr^2H}=rHとなる。先ほど求めた$ H=\frac{1}{2b}(r-1/r)を代入すると$ Y=\frac{r}{2b}(r-1/r)=\frac{r^2-1}{2b}となる。
内点解の条件
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内点解(=高技能の仕事をやる人数が1未満であること)の条件は、$ 0<\Delta<b\Leftrightarrow 0<\frac{1}{2}(r-\frac{1}{r})<bだった。2倍すると、$ 0<r-1/r<2bであり、左側の$ 0<r-1/rは書き換えると$ r>1/rであり、$ r^2>1 \Leftrightarrow r>1となる。右側の条件である$ r-1/r<2bは、$ r^2-2br-1<0であり、二次方程式の解の公式より$ r=b\pm \sqrt{b^2+1}が得られるが$ r>0である条件から$ r=b+\sqrt{b^2+1}が得られた。これら二つの条件をまとめると、内点解の条件を$ rについて書くと$ 1<r<b+\sqrt{b^2+1}となる。この内点解となる$ rの上限を$ \bar{r}(\equiv b+\sqrt{b^2+1})とする。
どんな外国人単純労働者数$ Mのときに、自国民全員が技能職に就くという端点解になるのか。$ r, M, bの関係を決める式は、$ r^4-2b(1+M)r-1=0というものだった。ここで$ rに$ \bar{r}を代入すると、$ \bar{r}^4-2b(1+M)\bar{r}-1=0なので、$ 1+M=\frac{\bar{r}^4-1}{2b\bar{r}}\Leftrightarrow M=\frac{\bar{r}^4-1}{2b\bar{r}}-1となる。この境目の$ Mを$ \bar{M}とする。つまり$ M\ge \bar{M}のとき、自国民は全員が技能職($ H=1)であり、外国人労働者が全て単純労働をになっている($ S=M)状況となる。
具体例(b=1/2)のケース
具体的な数値例で考える。$ b=1/2とする。このとき外生変数は$ Mだけになる。$ Mの値に応じて、$ H, S, w_H, w_S, Y,また自国民一人当たりの平均賃金と外国人労働者の賃金はどうなるか。
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結論
今回の設定は、以下のような結果をもたらす。
まず外国人労働者が単純労働者として入って来ることで、高技能と単純労働者の賃金差が開くことから、より多くの自国民が高技能を選択するようになる。外国人の労働者と競合しないように、働き方を変えることを意味する。
外国人労働者が入ってくることで、単純労働者の人数が増えることから、全体の生産物は増える。ただし高技能の労働者と単純労働者がバランスよく増えるわけではなく、生産物の増え方は低い。
自国民のうち、単純労働者として働く人($ kが高い人たち)は賃金が外国人労働者との競合により低下している。しかし自国民の平均賃金は上昇している。よって技能労働者に税金$ tを課して自国民の単純労働者に再分配する方策を考えることで、全員が得をすることが考えられる。ただし$ tを課税する場合は、単純労働者ではなく高技能になるための投資をする条件は$ w_H-k-t\ge w_Lとなるため、投資のインセンティブが損なわれることも考慮して問題を解く必要がある。