石の宗教
#本 #民俗学 #宗教 #民間信仰
『石の宗教』五来 重
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000151400
賽の河原の積石とケルン(ケアン)の相違点について
p.82
すなわちケルンは記念碑であって供養塔ではない。
p.83
塔はそこに霊が存在するし、したがってそれは礼拝の対象になる。碑はその人がかつて存在したことを後世に知らしめ、(後略)
p.83
しかし起源的にはケルンも霊を鎮める宗教的な意味があったのだろうとおもう。
道祖神について
信州に多く見られる。
(関東の道祖神は長野の道祖神の影響下にある気がする)
p.145
『おくのほそ道』で“道祖神のまねきにあひて取るもの手につかず”とあるが、多くの道祖神の信仰は男女和合、縁結び、家内富貴、五穀豊穰(包括して→子孫の繁栄)であり、旅の神であるという信仰は少ない。道祖神とは「同祖神」が由来ではないか。+道教の道禄神(道陸神 どうろくしん)と結んで、道の神になったのかもしれない。
p.148
道祖神には祟りやすい忿怒神的な性格もある。これは、怠惰な子孫に懲罰をくだす現実的な宗教観(→道徳観)を表している。(正直者のじいさんと悪いじいさんの対比を描いた「隣の爺型」昔話に現れる)
p.149
祖先をまつらない子孫に火の祟りがあるという信仰から、正月/2月に道祖神祭りでとんど焼き/どんど焼きを行う
p.149 祟り神としてのエピソード
平安時代には陸奥の国司となって赴任した藤原実方が、名取の道祖神の前を乗馬のまま通ろうとして落馬し、そのまま死んだのは道祖神を怒らせた祟りといわれていた。
→ おれんちの実家の下の道祖神とおんなじや
「たたり神」ほど霊験あらたかであるとされるため、
このような忿怒神要素を持つからこそ、村境・辻・家の門口に道祖神を配置して、荒魂を外敵(悪霊・疫病神)に向けた。
→ 大学の民俗学? 考古学?では、道祖神(男女像)が近親相姦の禁忌をかたどっており、近親相姦のタブーでもって外敵を威嚇している という説明もあった
道祖神を村境・家の境などに配置したことから、道祖神と塞の神は類似し、同一視されるようになった
よって道祖神には男女和合・五穀豊穰の意味だけでなく、結界信仰も含むようになった
それらが仏教と混ざることで、「村はずれの地蔵像」などになっていく
(日本でなくてもそうだと思うが)宗教が伝来するとき、土着の庶民信仰・民族宗教と教義がまざり、変質する。
日本の地蔵信仰は地蔵本願経にも地蔵十輪経にもないものがおおい。「子供とあそぶ地蔵」などは日本の祖霊信仰の影響にある。
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庚申塔
二十三夜塔=月待塔(関東)
庚申塔(全国)
ぜったいGoogle Mapsに掲載されてないだけで「そのへん」にあるって
だって実家の前にある
https://tatsu024632.livedoor.blog/archives/cat_405997.html
このブログ、実家の庚申塔も網羅していてすごいと思った(実家の前にはたまに写真撮影者が来る)
庚申講の2つの解釈 p.180〜
(1) 道教にならったもの。
庚申の日(十干十二支により60日ごと)は三尸が人の体を抜け出して天帝に悪事を報告すると言われている→だから庚申の日は寝ずに集まる庚申講をおこなう(庚申待)
とくに祭る神などもいないので、長話したり音楽を演奏したりする
(2) 庶民信仰に由来するもの。
日待、月待 などの「待」→夜通しで神をまつる祭(庶民信仰)+先祖の荒魂をまつる「荒神(こうじん)祭」+修験道の影響
成立は室町時代以降と思われる
修験道の影響で、庚申待の本尊を青面金剛(しょうめんこんごう)という忿怒面の密教の金剛童子をまつった
先祖祭としての要素があるので、塔婆をたてたり念仏をとなえることがある(これらの葬式の儀礼は、道教とは関係ない要素である)
この塔婆は仏教の塔婆という言葉を借りているもので、神の位にあがった祖霊をまつるヒモロギ(神道の言葉)が由来であると考えられる。だから庚申塔婆の見た目は板ではなく、生木である
p.190
よくある疑問
日本民族に固有の民族宗教は神道であるから、外来の仏教でも道教(陰陽道をふくむ)でもない庶民信仰は、神道ではないか
→ 「日本の庶民信仰すなわち神道」ではない。
日本の原始信仰・庶民信仰は「山の神」「水の神」「田の神」など
「山の神」は特定の神社・神主・祝詞などをもたない
霊魂や妖怪なども信仰の対象となる
神道では『古事記』『日本書紀』に登場する神に限定される 「大山祇神」など
神社では、その神社の神だけをまつる
よって庚申信仰は日本の庶民信仰のほうに含まれるだろう
庚申信仰の三猿:三尸が「さる」ことを願って
鶏:夜明けをつげる鳥、鳴き声で厄を払う鳥
p.204
庶民信仰としての庚申信仰は、神式なら猿田彦大神、仏式(密教系)なら青面金剛を礼拝する。
猿田彦→申、道の神(道祖神につながる)、田の神の要素で豊作祈願
田の神→「山の神・田の神交代説」(稲作シーズン外は、田の神は山の神になるという信仰)
p.223 めずらしい青面金剛の庚申塔:頭上に宇賀神をのせている 王子の金輪寺
宇賀神が豊作の神であるため
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教義に基づく宗教学、文献と物証を重視する考古学、文献による思想史・歴史学、文字をもたない庶民の口伝・祭事・俗信も重視する民俗学で、見え方のちがい・立場の違いがある
p.222
一般庶民は日本人の生活と信仰に則して、外来文化を選択的に、かつ変形して受け容れた。
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本書ならびに五来重民俗学への注意事項
1980年代の素の女性蔑視視点(研究対象である中世〜近世も同様に)
1980年代の日本の高揚感をもとに描かれた書籍である点
民間信仰による現代のスピリチュアリズムが悪徳商法に容易に転化する点にはまったく触れられていない などに注意。
塚田穂高編『徹底検証 日本の右傾化』
https://aki-mmr.hatenablog.com/entry/2017/03/16/231118
孫引きになるがメモのため引用
「1980~90年代ごろから」「日本人論・日本文化論のなかで、日本の『霊性』や宗教的独自性を論じる『霊性知識人』が目立ってきた」
本書はこれの走りでもある思う