君たちはどう生きるか
#映画 #感想
世論に毒される前に見に行ったらHeron映画だった
ネタバレしかない、鑑賞した人が分かれば良いメモ書きの雑文
世論に侵される前に早く独りで見に行け
優れたエンターテインメントには無駄なシーンが一切なく、パズルのように綿密にシーンが詰め込まれている。しかし、結局のところ人は因果が明らかになることに性的興奮と同程度の興奮を覚えるので(「知的興奮」もまた「性器を触ると気持ち良い」と同程度の快楽だと私は思う。脳を触ると気持ち良い)、たとえば『ズートピア』とかはいま思い出すと「伏線回収ポルノ」(伏線回収による興奮を得るために脳を愛撫するポルノ)だな〜とか思っちゃったりする
一方で自分はとくに小説を読むとき(書くとき)には因果関係の詰め込みパズルにはまったく興味が向かず、むしろ、本筋なのか無駄なのか何なのか分からない、何を読まされているのか分からないものに「知的興奮」(これもまたポルノなのかな)と覚える
作品は、作品鑑賞の時間のなかにしかない。(保坂和志)
たとえば、散歩することは、散歩している間の時間と行為のなかにしかない。
音楽の演奏と鑑賞も、音楽の流れる時間のなかにしかない。
小説は、小説を読んでいる最中の頭の中にしかない。
自分(鑑賞者)がその作品の最中にいるときにしか作品は現れない。そこではパズルのピースのようにプロットのはじめから計算をして要素を詰め込んでいくのではなく、「激流に身を任せ同化する(どうかしている)」ような、ナマの今しかない。(いまにも倒れそうな積み木の塔を積んでいくようだ)
「結局あれは何だったんだよ!?」という未解明の謎がかなり残る作品だと思う。最初にサギが眞人を「母は生きている」と言って連れて行こうとしたのは単なる嘘(詐欺)だったってこと? 大おじ様のところへ連れて行くための嘘? 塔の来歴とかもホントかよって感じだし、夏子さんが弓を射る下りは夢か何かけっこう微妙な描かれ方をしている。(ってことは夏子はアオサギが悪い奴だと知ってたってこと?→じゃあ「眞人さんを歓迎している」と言ったのはなんだったの?)
父親・母親の描写も現代的な視点で、要素だけをあげれば、だいぶ隙があるヤバい描かれ方をしている。
父:妻が死んだからって妻にそっくりな妻の妹に手を出すのってどうなの、金で解決させようとする幼稚さ、結局お前は戦地へ兵隊を送り出すだけで無事じゃん! とか(飛行機乗りの“人殺し”の男たち、『風立ちぬ』『紅の豚』を思い出す)(一方その頃神戸では『火垂るの墓』だった)。でも愚かだけど悪と断じるほどではではないんだよな……
母(ヒミ):自分と同年代だったころの母親と友達になる話とか、母親に「あなたを産みたい(そのためには悲惨な死の運命も受け入れる)」って笑顔で言わせるのって、要素だけを拾ったら超ヤバいよ。「マザコン映画」とぶっ叩かれたりあるいはネタにされるのが察せられる(そのような世論に侵される前に鑑賞できてよかった)
夏子:いま(鑑賞後しばらくたってから)想像すると、死んだ姉の代わりに求められてると分かっていて、連れ子にも好かれないと分かっていて、結婚生活に臨むのって、かなり悲惨である
*前提として、私(筆者)はシスジェンダーではない=生まれたときの性別と自認が一致していない。私は女性ではない(自認が女性ではない)。私が「そう」である以上、私は「多様性は尊重されるべき」とかいう理想論を語りたいのではない。まず私がここにいる。そういう者がすでにこの世にいてしまっているのだから、ただ私(たち)はいるだけだ。「べき」ではない。私はいる。
「多様性は尊重されるべき」というスローガンに対して『君たちはどう生きるか』は、父親・母親の描写のせいでだいぶ脆い。(それに対して、屋敷のお手伝いのおじいちゃんおばあちゃんたち、サギ男、カヨコだっけカヤコだっけ? 漁師として登場するおばあちゃん という家族外から見守ってくれる年長者の友達がいることで、孤独な核家族に陥らないこと)(が、学校の先生・同級生はあんまりにも影が薄いが……眞人は同世代の友達ができるのだろうか)(同世代の友達にこだわる必要はないんだ、というメッセージともとれるかもね)
ただ、(どれだけ私のような少数者がいるとしても)「女体の産道から新しい命が誕生する」ことは生き物である人間にとっては最も巨大で永遠に解かれることのない・揺るがぬ謎のひとつである。
「誕生」の謎の対に「死」の謎がある。
見てはいけない産屋のなかに霊廟があるという、生と死のつながりを示す直球の描写。
というかあの世界が地獄めぐりだったし。
宇宙の誕生の謎、深海の謎、森林の謎、未発見生物の謎、etc. それらは理屈で解明できる。
でも「誕生」と「死」だけは(そのメカニズムがいかに理屈で解明できるとしても)、理屈の埒外にありつづける謎だ。
「なぜ生きるか」は語り得ない。だって、生まれてくることは理屈の埒外にあるから。
だから「どう生きる」しか語れない。
理屈の埒外を語る作品だった。
だから父、ヒミ、夏子との関係は理屈で考えるとヤバいが、作品は理屈でない説得力で鑑賞者を押し流す。わたしはだいぶ涙腺にきた。
自分の母親から、「たとえ自分は悲惨な死を迎えるとしても、あなたのような素敵な子供を産みたい。あなたに出会いたい」と言ってもらえるなんて。マザコンだと罵られようが、まだ子供の眞人には絶対に必要な承認だ。
そして私達はみな、すでに死んだ人も今生きている人もこれから生まれてくる人も、(今のところは皆全員)女体の産道を通ってこの世にやってくるわけで、ろくでもない母親の下の生まれた人、母親と絶縁した人、母親を知らない人にとっても、生みの親本人ではなくても物語(宗教を含む)で描かれる創造主に、理屈ではなく承認をされてしかるべき。この承認を抱いたうえで(内なる「マザコン」に各々向き合ったうえで)「どう生きるか」
*自分は本当に涙腺に来るんだけど、自分自身と母親の関係によってこのへんの鑑賞態度は変わりそう
「マザコンだと罵られようが、まだ子供の眞人には絶対に必要な承認だ。」
やっぱりこれから子供が見るべき作品だと思う。
宮崎駿の遺作がどうとか、過去作がどうとか知ったことではない。これがはじめてのスタジオジブリ作品、どころかはじめて見たアニメ映画になるような子供たちへ。
人間関係の描写の問題点もまた、これからの世代が引き継ぐ問題として残されている。
描写についていくつか
光沢物のぬめっとしたテクスチャが怖いなと思った。帆船の帆のハイライトとか。絢爛豪華な洋間も悪夢的だ(『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』)。夢の中の物語というよりは、悪夢である。美しい海にも魚はいない。
あと、飯が、今回美味しそうじゃないんですよ 飯がグロテスク。まあ食べることは死への前進だからな。
鳥好きとして、鳥の描写は本当に良かった。鳥の眼差しの気持ち悪さ・不気味さがとても説得力をもって描かれている。
理屈ではない。説得力。
サギ男がペリカンに哀悼の意を示してるのは、サギもペリカン目だからかな
トリ臭そう(インコ臭すごそう) 戦後日本のペットブームを思わせる。肉食の敵役としてセキセイインコを選ぶの、ほんとすげえな。うっかりドバトとか選んじゃいそうなところだ
アオサギの文化的特徴(エジプトでは死と再生の神として描かれ、日本では妖怪っぽく描かれる)もあるけど、それ以前にアオサギがそういう文化的特徴を与えられてしまう見た目の動物であることが重要なんじゃないか。後付のメタファーなんかしらねえよ。バードウォッチングしていると、けっこう異様な存在感を放つ身近な野鳥で(色が独特だしなにしろデカい)、たしかに異界への入り口っぽいなあと思う
カラスなんか後付の文化的特徴でもう滅茶苦茶になってますからね 私もやりました
アオサギ、ペリカン、セキセイインコのチョイスは、そういうメタファーにまだ侵されていない、イメージの未踏の領域から選ばれたんじゃないかなと今思った
本当にワラワラで「かわいい」の手垢がつくまえに鑑賞できてよかった
上映始まる前の予告編で『ゴジラ -1.0』の予告が流れる 鑑賞後に思い出すとタイミング最悪で笑ってしまった 戦後の焼け野原で君たちはどう生きるか→そこには超巨大生物が!! じゃないんだよ
テーマソングはどうでもいい。ぜんぜん聴いてなかったので頭に入ってない
作品は鑑賞中の鑑賞者の頭の中にしかない。作品が終わったら、鑑賞者は作品のことをゆっくりと忘れていくけれど、
作品を通じてよくわからないサギ男と友達になれた。
無理に例えるなら『よだかの星』で、ヨタカが天に昇らずにカブトムシなどを喰らい続ける業を背負ったまま生きていくような作品。
夏子が産んだ眞人の弟?がぜんぜん可愛げのない(『となりのトトロ』のメイのようには愛らしくない、キャラクター性のない本当にただの他人)さらっとした描かれ方をして終わったのが良かった。あれだけの冒険をしてもただ life goes on だ。
7/20追記
「宮崎駿にしては飛行の描写が味気ない」とかいう感想も見たが、
人の飛翔の夢(飛行機)は戦争につながってしまう=空を飛びたいという人の欲望はいずれ必ず戦争につながるし、すでにそうなってきた歴史を踏まえると、
今作は「飛翔」の神秘を人から鳥に返したんじゃないか。
そういう意味付けをするなら、本作はとても反戦映画である。
他の人の感想
・サギについて
https://twitter.com/numagasa/status/1679685755365654529
https://twitter.com/numagasa/status/1680432523304927238
・マザコンについて/創作者としての態度
https://twitter.com/makunegao/status/1679833677726093312
https://twitter.com/makunegao/status/1680361616880320512
https://twitter.com/sssugita/status/1679679000971710464
https://twitter.com/kurageru/status/1680152236306100224
・主観視点
https://note.com/kazeto/n/nca1be7cd479c