00_出国まで
2018年の東京の夏は例年にも増して暑かった。暑さは、日差しを避ければどうにかなるかもしれないが、不快なのは湿度の方だった。暑さで何もできないので朝から晩まで冷房を回し続けるが、冷房のおかげで気分が悪くなる。部屋にこもる熱を冷房をつかって屋外へ押し付ける。排熱の行き場をなくした屋外はますます暑くなる。ベランダの室外機の下の、乾かない水たまりを眺めて、足踏みしていた海外旅行の計画をさっさと実行に移そうと誓った。
参考にした旅行記はみなバックパックスタイルだったので、私も右に習うことにした。ロストバゲージが怖いのでぎりぎり機内持ち込み可の40Lサイズのカバンを購入した。ほかの生活必需品は百均と無印良品でだいたい揃える。
旅券はWEBで買おうとしたが(日本からの到着地と、日本へ帰る出発地が違う都合で)良い乗り継ぎを自分で見つけられなかったので旅行会社へ相談に行き、ついでに海外保険に加入。陸路は自分で予約をする。出発直前までだらだらしていたのでユーレイルパス(ヨーロッパの長距離鉄道の共通券)の購入は間に合わなかったが、乗り鉄旅行でもない限り、都度個別に買うほうが得だとわかった。(実際今回の旅程で、大陸ではアムステルダム→ベルリン、ベルリン→プラハ、プラハ→クラクフの昼行便三便とクラクフ→ウィーンの寝台特急しか利用していない。)陸路の便は都度買うことにしたが、たまたまプラハ発クラクフ行きの€8ぐらいの破格の昼行バスを見つけ、怪しく思いつつも購入する。これであとでひどい目に遭う。
かかりつけ医に行き、はしかと破傷風のワクチンをもう一度受けた。「なにか常備薬ください」と言ったら「いきなり数ヶ月の旅行に行くのではなく、まずは数日・数週間と体を慣らしていくものだ」と怒られ納得がいかない。急な転勤や留学に行く人はどうするというのだろう。四種類ぐらい薬をもらったが、結局、痛み止め・いつも飲んでいる漢方薬・口内炎の薬しか持っていかなかった。
宿泊先はすべてオンライン(ほぼ hostelworld.com)で予約した。
旅程はイギリスから始まるが、移民問題でイギリスの空港は入国審査が厳しいらしい(ふとしたこういう瞬間から、「国際問題」に接する入り口は開いている)。語学の自信はまったくないので、英語の旅程表を作り、イギリス国内で宿泊する宿をすべて記載した。「私は不当に長期間滞在しませんよ、ただの観光です、一ヶ月で出ていきますよ」という証明になる。そのために、イギリスの宿だけは先にすべて抑えておいた。
だが出発二日前ごろだったか、最初に泊まるロンドンのユースホステルから「あなたが予約されたSt.Pauls店はシステムトラブルにより予約できただけで、本当は満室でした。代わりにSt.Pancras店の同クラスのベッドを開けておきました。ごめんね」というメールが届く。初手先行き不安。大丈夫かよ、と思いつつ出発。