旅行記:2018年2月長崎5
# 赤い光
18時半を回ったころ、夕食を探して、思案橋から観光通りまでアーケードを歩いた。長崎ランタンフェスティバルのさなか、アーケードも赤い提灯飾りで賑わっている。母は酒飲みではない。酒飲みではない人とちょっと良い食事処を探すのは意外と難しい。旅行前か佐世保にいるときに五島うどんを食べたがっていたのを思い出して、その日の夕食はうどんにした。
長崎真鯛のうどんと、赤マテガイのバター焼きを食べた。うどんは薄味で、おそらく柚子胡椒で味を足すことを意図しているのではないかと思った。
一番美味しかったのはマテガイだった。今まで食べた貝のなかで一番の味かもしれない。東京の魚屋では見たことがないが、西日本ではよく食べられているらしい。英語では Razor Cram, Jackknife Clam と呼ばれている、細長い形の二枚貝で、長い入水管・出水管がやわらかくもしっかりとした噛みごたえの独特な食感だった。味はアサリに似ているがもっと濃厚な感じがする。とにかくマテガイがこの旅行で一番美味かった。母も舌鼓を打った。
食後一息ついてから、中華街のランタンフェスティバルを観に行った。
長崎新地中華街の春節祭は1859年から行われていた。それを、長崎市が「長崎ランタンフェスティバル」という市全体のイベントに取り込んだのが1994年。夜になると桃色・赤色の灯りが街を染め、とても華やかである。
会場中央の湊公園には特設ステージが設置され、その夜は琉球エイサーが演じられていた。その場の暖かな光の色と、「みんな春節を祝って楽しみましょう!」という明るい気持ちを浴びて、私は本当に泣けてしまった。私は浦上天主堂の単色の青い光を思い出した。
左右にはランタンによる大きな人形が飾られている。骨組みの上に布を張って作られたランタンの人形は、布の色やテクスチャによって、同じ赤色でも光の表情やヴァリエーションに富み、お祭りに集まった人々の顔ぶれのように光のなかにざわめきも聞こえそうだった。その日の昼に浦上天主堂で見た、青い沈黙を思い出さずにいられない。
温かいものを飲みたくなり、ホットワインを買った。母が角煮まんじゅうを買ってくれた。