旅行記:2018年1月いわき2
いわき市泉駅が最寄りの水族館「ふくしま海洋科学館 アクアマリンふくしま」を訪問した感想です。 https://gyazo.com/c53abd393e0108b130f5635764767407
(ブログにupするつもりがいろいろあって1年お蔵入りしていたのをサルベージした記事です。)
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【アクアマリンふくしま 端的な感想】
不満点・注意点
アクセスが悪い
泉駅からの直行バスが廃止され、公共交通機関は1時間1本の路線バスのみ(駐車場はとても広いです)
帰りのバス時刻を気にしてゆっくり滞在できなかったのが残念
訪問した時(2018年1月末)は常設展の一部「ふくしまの海」が改装中だった。
良いところ
それ以外!
一般入館料1800円も、この展示の質なら割安(参考:新江ノ島水族館は2100円)
「動物を見て楽しむ」だけに終わらず、教育普及活動も精力的な博物館だった。
生体展示は水槽の設計が工夫され、活き活きとしたアングルで動物を見ることができる。生態展示だけでなく、パネルや食品サンプルを使った日本の魚食文化の解説や、古生物の模型展示も見応えがあった。水族館近辺のサケ・マス・ウナギなどの繁殖状況や、放射線被害と回復についてなど、社会問題とのつながりも明確にしている。
屋内の水槽展示だけでなく、ビオトープ、広場、砂浜、温室など、博物館として展示環境がたいへん充実している。
水槽のアングルも良かった。「潮目の海」では、黒潮と親潮の境目を表現するために、環境の異なる2つの水槽が衝突しているようなレイアウトをとっている。
水鳥(エトピリカ・ウミガラス)の水槽は、水槽の隣に下り階段を置くことで、水面に浮かぶ水鳥を、水上・水中両方のアングルから観察することができる。
https://gyazo.com/b64d5b0c4c1b7174be96820082cfc890
「北の海の海獣・水鳥」エトピリカ水槽図説
水上と水中の両方のアングルで生物を観察できる(写真うつりが悪いためイラストで失礼)
敷地も膨大で、いずれの水槽も大きく、展示されている生物も幅広い。
https://gyazo.com/7f8b20fc0ee045f115abf34ab0d119c6
バブル崩壊以前の日本では、博物館・美術館などの「箱物」をやたらに建築するのがブームだった【注】。
【注】それらの施設は、そもそも長期的な運用に耐えられない建築になっていたので、現在すでに様々な館で綻びが発生している
福島県に海洋博物館を建設する計画は1978年に立ち上がっているが、基本計画の策定はバブル崩壊後の1994年、開館は2000年なので、バブル景気に関わらず長期的な運営を目指していたことがわかる。
(お金がかかってそうな)ガラス張りの建築は、建物の外と中の区分をぼかし、水族館内の展示物と外の自然が連続した「同じもの」であることを表現しているように感じられた。
https://gyazo.com/4b453f2017b1217117b3255682bc3941
館内から見るビオトープ「BIOBIOかっぱの里」「蛇の目ビーチ」
野生動物を観察できるビオトープ。この日はとても寒く、ビオトープまで歩く気にはなれなかった。
水族館外壁のガラスが屋外に飛び出していることで、館内と屋外が連続しているような効果を与えている。
見た目にはきれいだし意味付けも良いと思うが、「冬は風が吹き抜けて寒く、夏は直射日光で暑い」設計でもある。展示の動線にはガラス張りの温室もあるので、夏は大変そうだ。そして冬は寒い。
https://gyazo.com/446ffc8451a0a4ecd7d64cc0a89f6621
「熱帯アジアの水辺」
館内には、福島県の環境を再現した温室と、熱帯アジアのマングローブ林を再現した温室がある。
https://gyazo.com/a773002db74c8e50eb9e055fb5ea526f
「熱帯アジアの水辺」
たぶんベニスズメ(東南アジア出身の外来種)
「熱帯アジアの水辺」温室内では、サクラブンチョウ、ベニスズメ、コウラウンなどの鳥を放し飼いにしている。
https://gyazo.com/82a35733fa16965a3464a14a591a4a12
「サンゴ礁の海」キンメモドキ
https://gyazo.com/527f020860fb73805bfd464562177695
「潮目の海」水槽
https://gyazo.com/d1769b5b49d8d1ae5505f8cfee83a141
なぜか枯山水もある
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同館のWikipedia記事を読むと、開館時(2000年)の年間来場者数は115万8770人だった。その後はゆるやかに下降するも、2011年は25万8244人に下落する。翌2012年には52万2269人に回復するも、2016年は51万2894人【注】と、入場者数最高時の半分に達していない。
水族館としての質は相当高いので、公共交通機関でのアクセスの悪さが入館者数減少の原因ではないかと思う。
津波被害をうけた沿岸部は再開発が進んでいるが、電車を利用する場合、最寄り駅の泉に観光資源がほぼなく、泉駅からの直行バスや東京駅発の高速バスも運休している。2018年1月では、水族館から徒歩10分の停留所に停車する泉駅発着の路線バスしか公共交通機関の選択肢はなかった。
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展示はとにかく充実している。ただ水槽を見学するだけでなく、屋外に出れば里山・磯・干潟・砂浜を再現した野生環境で生物を観察することができる。また様々な体験学習・ワークショップも開催している。
これだけ精力的に活動しているアクアマリンふくしまに足りないものがもしあるとすれば、「観賞者が見たい見世物がない」ということではないだろうか。
アクアマリンふくしまの展示は充実している。敷地は広大だし、動植物の種類もとても多い。webサイトの「常設展示紹介」にある通り、さまざまな地域・種類の生物を展示している。しかし言い換えれば、展示が広範すぎて、観賞者にとっての分かりやすい「目玉商品」がないのではないかと思った。
動物園が見世物小屋に陥ることには反対だ。だが、「見世物」としての分かりやすいフックがないために、客足が遠のいているのかもしれない。海遊館・美ら海水族館はジンベエザメ、葛西臨海公園はマグロ、新江ノ島水族館・加茂水族館はクラゲを目玉にしている。
対してアクアマリンふくしまは、シーラカンス研究、広大なビオトープ、トドやゴマフアザラシなど、抱える展示が多すぎるため、宣伝活動で特定の見せ場(イメージ)を絞れないのではないかと思った。そしてイルカショーのような分かりやすい「見世物」はアクアマリンふくしまに無い。
どんなに博物館側が「もっと海のことを知ってほしい」「生物について楽しく学んでほしい」と願っても、残念ながら、訪問者が見たいものは「見世物小屋」らしい。
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動物園・水族館・植物園(生物)、美術館(美術品)、プラネタリウム(自然科学)などは、分野は違うがいずれも「博物館」という区分をされる。 「博物館」は近代に生まれた施設である。最初は遠征先の戦勝品として持ち帰った珍品(宝物や動植物)や財宝を陳列するために生まれたが、近代の市民革命で王家が倒されてから、じょじょに研究・教育・保護の役割を担うようになった。
動物園と見世物小屋の関係については、下記の旭山動物園館長のインタビューが詳しい。
「年間300万人の大ブームは本当に辛かった」旭山動物園の園長がいま語る真実(取材:徳谷柿次郎) – Yorimichi AIRDO|旅のよりみちをお手伝い
坂東園長:そうですね。いまの時代って、命に対する価値観が良くない方向に行っている。それをうちの動物園で少しでも変えていけたらと思っています。 例えば数年前にデング熱が流行したとき、媒介になる蚊が一斉に駆除されました。でも、蚊がいなくなったら小鳥が生きていけない……そんな事実を自然に連想できる大人が増えるといいですよね。
柿次郎:自然界の中で、命が循環していることをイメージできるということですか?
坂東園長:それもありますし、「他者の命」をもっと尊重すべきだと思います。動物や虫だけでなくで、他の人間の命も。他者の命を感じさせる場所が動物園であってほしいんですが……。安全を確保した環境かつ、人間が都合良く動物を見る仕組みなのでなかなか難しいですね。
柿次郎:坂東園長が連載しているコラムでも「命のつまみ食い」と書かれてましたね。
(強調は原文ママ)
旭山動物園はとくに、動物園が「見世物小屋」に陥らないように積極的に活動している。旭山動物園には特別に珍しい動物はいないが、動物をただ陳列するだけではなく、野生に近い動きを観察できるような「行動展示」を行った。するとメディアは旭山動物園の「行動展示」を宣伝のフックにし、「行動展示」が「見世物」になってしまった。結果、TVCMで放映された「水に飛び込むホッキョクグマのシーン」を見るために、ホッキョクグマの水槽に1時間の列ができるという本末転倒に陥った。入館者数は増えても、動物園のキャパシティを越える混雑になれば、来場者にとっても動物園にとっても損である。
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ごく正直に、一来場者として言えば、博物館を訪れた時に会場がすいていたら嬉しい。訪問者としては混雑に邪魔されることなく、一人でゆっくりと展示に向き合いたい。
訪問者が増えなければ、博物館の経営は成り立たない。利益を上げるためには見世物小屋にならなければならない。ただ、「教育活動」と「経済活動」は絶対に一致しないだろう。教育は賭けや投資のように見返りを期待できるものではなく、無償の活動だ。
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小名浜沿岸は津波被害に遭い、現在は再開発が行われている。
アクアマリンふくしまの向かいの空地に、新しくショッピングモール(イオンモールいわき小名浜)が建設されている途中だった。2018年3月現在 Google Maps の航空写真は空地だ。そして、整備される前の古道が航空写真の上に浮かんでいる。
2018年3月のスクリーンショット
https://gyazo.com/9442110bf819c8d7e4803f0b513c76ed
アーティストが祈った通りの「復興」は成功したんだろうか?
https://gyazo.com/0eda7180f13294b02ccb7a7cfce0ab6d
地福院外観
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参考
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【そして、ごくささいなこと】
アクアマリンふくしまを出て、泉駅で東京へ帰る電車を探していると、大学でお世話になった教授とばったり出会った。(大学を定年後に美学校の講師に就任されていた)
その年の初夢が「教授に叱咤激励される夢」だったので、偶然にしても感慨深く、「初夢の通りになりました」と教授に伝えた。