ダーク・ミューズ オカルトスター列伝
『ダーク・ミューズ オカルトスター列伝』ゲイリー・ラックマン 著, 谷川和 訳, 伊泉龍一 解説, 国書刊行会, 2023
啓蒙時代から第二次世界大戦頃までをめぐる哲学史・芸術史として一読の価値があった。
ペソア自身はアレイスター・クロウリーとも直接の関係を築いていたオカルティストだが、異名によってはオカルトに懐疑的な態度を取っているのが面白い。例えばソアレスは懐疑的な態度を記している。 アレイスター・クロウリーの顔が広いというか、界隈が狭いと言うべきか……
オカルティズムは当時の科学の進歩に対する期待や幻滅に並走している。同時に社会不安などにも。
変な期待を抜きにして、文学史のおさらいに良かった。(近世〜世紀末文学の知識が薄すぎる)
オカルト面の多少の前知識があったほうが読みやすいと思われる。
そういえば人物列伝は、私が初めて読んだのはロベルト・ボラーニョ『アメリカ大陸のナチ文学』だった。『アメリカ大陸のナチ文学』は完全なフィクションなので、史実にもとづく列伝を読んだのはこれが初めてになる。しかしフィクションである「架空の極右詩人まとめ」と史実に基づく「オカルティズムに関連する詩人まとめ」の読み味がぜんぜん変わらないな……
ナチズムがオカルティズムの一部を吸収しているせいもありそう(ただし『アメリカ大陸のナチ文学』の登場作家にはオカルト要素は無かったはず)
参考文献に上げられた書籍、学芸文庫の合間にちょいちょいスピリチュアル系の出版社が入ってくるのが愉快。国書刊行会は学芸文庫系の出版とスピのちょうど間というか、スピだけどなぜか学芸という他に類を見ない立場で居続けていると思う。『法の書』も国書刊行会が出してるし……
特筆すべきは作者の属性で、1970年代なかばのニューヨークのパンクシーン(当時パンクという呼び名で一括りにされる前のアンダーグラウンドシーン、アート的な実践としての音楽)出身の元ミュージシャンで、オカルティズムの実践経験もある点。
思想の継承について考える。そうとは自覚がなくても多くの作者・読者がオカルティズムのフォロワー(追従者)だし、私の作品はオカルティズムの影響下にある(のを私は自覚しており本書を通じて一層確信したが、私の作品とオカルティズムの関連を指摘する批評に出会ったことがない。まあ、作品への批評じたいがめったにないのだが)
次に読みたい
解説の伊泉龍一の他の翻訳書籍も興味深い。
ピーター・ビーバガル 著, 伊泉 龍一 訳, 駒草出版, 2022
ポピュラー・ミュージックの超有名人たちが、いかにこの精神的な反逆に加わり、そうすることでロックの神秘的な魂を作り上げてきたかを説明しています。(中略)自分たちの音楽的新機軸でロックを変容させただけでなく、いつ終わるともしれない冗長なコードを引き延ばし続ける一連のラジオ向きの45回転盤からロックを救済したのです。
→ビートルズあたりの終止がフェードアウトばっかりなのはラジオ向きの編曲だからってことですか?
関連動画
きりたんと学ぶスピリチュアルの精神史 vol.1 神智学
→ ちゃんとした入門。シリーズすべて見る価値がある。
世界の奇書をゆっくり解説 第17回 「知覚の扉」
→ 本書で書かれた以降の時代(第二次世界大戦後)のオカルト・ドラッグ・ヒッピーカルチャーの歩み。
書籍について:クロウリーの弟子フラター・エイカド(チャールズ・スタンスフェルド・ジョーンズ)の気が触れて露出狂活動をしている(p.450)が一番のオモシロポイントかな
しかもそのあと精神状態から回復してクロウリーとは袂を分かっている