遺伝と環境
この遺伝と環境,言い換えれば氏か育ちかnature versus nurtureという問題についての論争は,容易に決着がつくということはなく,現在ではこれらの要因がどの程度,どのくらいの割合で寄与しているかに論点が移っている。 プロミンPlomin,R.(1990)を旗頭とする行動遺伝学behavioral geneticsは,双生児法twin studiesや養子法adoption studiesを用いて遺伝の影響を推定してきた。その結果,知能指数やパーソナリティの心理尺度での遺伝率heritability coefficientは,いずれも40~50%程度であることを示してきた。このことは同時に,環境要因の寄与も50%程度であることを示している。そのうち,性格に及ぼす家庭環境のうちで兄弟姉妹が共有する共有環境shared environmentsの要因は概して小さく,個人個人で異なるランダムな影響として非共有環境nonshared environmentsが大きいことがわかっている(図1)。 https://gyazo.com/cd58276465bd227d6d2bab52f0597cc2
わが国では,安藤寿康(2011)を中心に双生児研究が行なわれており,パーソナリティ特性を表わすビッグ・ファイブBig Five(性格の5大因子)で,五つのいずれの次元でも一卵性双生児monozygotic twins(MZ)間の相関が二卵性双生児dizygotic twins(DZ)間よりも高く,遺伝の影響があることが示されている(416ページ図2)。 https://gyazo.com/2e1191cbe9004057a3b026506bfaa73e
近年では,分子遺伝学molecular geneticsの分野で,遺伝的多型genetic polymorphismとよばれる共通の遺伝子の変動を明らかにする試みもなされている(Canli,T.,2008)。パービンPervin,L.A.(2003)は,環境の中でも文化の影響が大きいことを指摘している。「文化はパーソナリティのさまざまな側面に影響を与えている。たとえば,あることを成し遂げるのに,個人の努力が大切か集団の協力が大事か,成功を仕事の目標として見るか家族の目標として見るか,などは文化によって異なっている。文化は,われわれが許容でき適切であると考える社会的行動についての基準standardを通して,他者と相互作用する方法に影響している」と述べている。 心は, からだと違って, 遺伝的基盤によって形成されているのではなく, 文化や学習によって, すなわち環境によって形成されるのだという強い主張が存在する
一方の極の人々は, ヒトの心の働きのほとんどは遺伝的に決まっており、後天的な影響は非常に少ないと考えています.
このことは, 特に知能に関して顕著で, ヒトの知能がどれほど遺伝的に固定されているかを示そうとした研究がたくさんなされてきた.
確かに知能は遺伝的要素が強く働いているようだが、それらの人々の中には政治的な立場による意図を持ってそのような研究を発表している人達がいる
もう一方の極の人々は、ヒトの心の働きのほとんどは文化や学習によって後天的に決まると考えている
極端な考えはどちらも誤り
心に限らず、どんな生物でも、遺伝情報のみで作られることもなければ(種子が発芽するにはそのための環境が必要)、環境のみによって作り上げられるような性質も存在しない(発芽環境が整っていても、そもそも種子がなければ発芽しようがない)