道徳と倫理の違い
A.訳語としての 「道徳」 と 「倫理」 は語源に遡れば同義なので違いはありません。
思想家がそれぞれ独自の定義をすることによって使い分けたりしています。
例えば、カントは Moral を広い意味の言葉とし、
Moral (=道徳) の中に Recht (=法) と Ethik (=倫理) が含まれると定義しました。
ところが、ほぼ同時代のヘーゲルは逆に Ethik (=倫理) のほうを広い意味の語と定め、
Ethik (=倫理) の中に個人道徳である Moral と客観的な法体系である Recht が含まれる、
というふうにカントとは逆転させて使いました。
「『倫理』 という語の語源は、西洋語では 『習慣、慣習』 であるが、ここでは漢字の 『倫理』 についてのみ確認しておくことにしたい。『倫』 という文字は 『仲間』 とか 『人びとの集まり』 を表している。『絶倫』 というのは、仲間うちでずば抜けてすぐれているという意味である。『理』 という文字は、もともと 『玉石を磨いたときに現れる筋のある模様』 を表していた。そこから、人間関係の中で通すべき 『筋目』、つまり、決まりごと、ルール、義務、といったようなものも意味するようになった。したがって、『倫理』 とは、人びとが集まってきたときに必ずできる決まりやルールのことを意味するのである。習慣とか礼儀作法とか義務とか道徳とか法律とか、そういったものはすべて 『倫理』 である。
(中略)
『倫理』 という語のほかに 『道徳』 という語もある。この2つはほぼ同じ意味のことばである。『道徳』 という語の西洋語の語源もやはり 『習慣、慣習』 であるが、それよりも広く、『人のふみ行うべき道』 全般を指すことばとして使われている。なお現代では、『道徳』 は個人の内面的なものに限定し、『法律』 のように外的強制力をもつものとは区別するような使われ方が増えてきている。思想家によって語の定義の仕方は異なっているのだが、ここでは、習慣や道徳のような内面的なものも、法律のような外面的なものも合わせて、人びとの集まりの中に必ずできる決まりやルールなどをすべて 『倫理』 と呼ぶことにしたい。」