批判理論
批判理論(critical theory)とは、社会の中にある(あるいは「そう考えられる」)権力構造に着目して、それを暴き、それに対して挑戦していく内省的態度と社会実践がセットになった社会哲学(social philosophy)のことである。社会哲学(social philosophy)とは、社会と社会制度に対して批判的態度をもって、経験主義と倫理的な概念をつかって社会のなかに埋め込まれた行動(=社会行動)について考える学問である。批判理論は、文学などの芸術のなかに、社会階級や権力性があることを指摘する(=発見する)文芸批評や、マルクス主義の階級意識への発見と、それに対して自覚的になろうとする、マルクス主義、とりわけフランクフルト学派のヘルベルト・マルクーゼ(Herbert Marcuse,1898-1979)、テオドール・アドルノ(Theodor Ludwig Adorno-Wiesengrund,1903-1969)、マックス・ホルクハイマー(Max Horkheimer,1895-1973)、エーリッヒ・フロム(Erich Seligmann Fromm,1900-1980)、ヴァルター・ベンヤミン(Walter Benjamin,1892-1940)らの主張に由来する。しかし、それらの理論家たちの批判理論は、非常に多様性を帯びており、使う理論もさまざまなことろから恣意的に流用したり、いわゆる独自解釈をしているために、批判理論一般や、批判理論の体系などというまとめ方は不可能に近い。それにも関わらず、彼ら——女性の理論家がここにみられないのは批判理論のジェンダー論的限界を図らずしも示している——の間に、共通点があり、それは人間主体の階級意識や権力構造、あるいは、理解や実践、さらには実践の解釈などについての関心を持ち続けていることにある。