情報を探しやすくするには
多様な文脈において人間が情報ニーズを生成し,そのニーズを満たすために情報を試行錯誤により探し出し,有用な情報を獲得し,それを利用するという一連のプロセスである探索型検索は,探索者の知識構造を変化させる究極の自律学習である。情報を探しやすくするには,探索的検索をシームレスに実行できるようなシステム環境を整備するとともに,探索者の経験知,領域知識,自己効力感を高める必要がある。インフォプロには,情報システムの整備とともに,情報探索プロセスの理解,情報探索を通じた効率的・効果的な自律学習方法の伝授,情報探索経験知の形式知への変換が求められる。 1990年代初頭に登場したインターネット
それ以前は,情報検索のプロ(サーチャー)が有料の商用データベースを利用者に代わって行う検索代行が主流
うひょーmtane0412.icon
インターネットの登場により利用者が自分で検索することが当たり前になった
「自分のために情報を探す」場合と,「他者のために情報を探す」場合では,探索者にとってそのプロセスが異なる
「自分のために情報を探す」場合には,検索中に試行錯誤する過程で新たな疑問が生じ,その疑問を解消するためにさらに検索を繰り返す
この過程で情報ニーズ(疑問)は変化し,探索者は能動的な学習を積み重ねていく 検索を成功裏に終了した時点では,調査対象に関する探索者の知識構造が一変している
他方「他者のために情報を探す」場合には,サーチャーが顧客から依頼を受けた時点で情報ニーズは明確に定義されるので,サーチャーの情報ニーズは殆ど変わらない
検索結果が顧客に届いた時点で顧客の情報ニーズは変わるのかもしれないが,タイムラグが生じる
自分で情報を探す場合と人のために探す場合では探索者の知識変化のスピードが異なるという違いがほかの人々にも適用できるなら,顧客は仲介者に情報探しの代行を依頼するより自分で情報を探した方が効果的
情報を探すという行為
人間が異なる文脈において,情報ニーズを生成し,そのニーズを満たすために情報を探し,有用な情報を獲得し,それを利用するまでを含んでいる 検索結果のリストをすぐに入手できたとしても,コンテンツや本文を獲得するために余計な手間や時間を要するようでは,このプロセスに障壁が生じてしまう
したがって,「情報を探しやすくする」とは,情報ニーズの生成から情報利用に至る一連のプロセスをシームレスにつなぐこと
情報を探すという行為は,文脈によってかなり違ったもの
情報探索行動の5W1H,つまり,誰が,いつ,どこで,どんな情報を,どんな理由で,どのようにして探すのかを理解しないことには,「情報を探しやすくする」取り組みは成り立たない 探索者の文脈や状況によって,情報探索行動のパターンに違いが生じる 以下は、スマホで簡単に検索できる乗換案内やホテルの予約とは違い,試行錯誤を伴うもの
学生が卒業論文のために先行研究を調べる
病気の診断を受けた患者が治療法を調べる
家族で海外旅行をする旅行計画を立てる
起業に伴う手続きと資金獲得方法を調べる
新入社員が住まいを借りるため物件を探す
https://gyazo.com/365a2c9036187d07a1f2178d16b97bc1
伝統的な文献データベース検索システムやGoogleのような現在のWeb検索システム
明確な情報ニーズを持つ利用者のための事実検索や既知文献の検索を前提とした検索
試行錯誤を伴う情報探索プロセスを支援することも必要
段階的な試行錯誤を経て探索者の情報ニーズや知識構造が変化することを前提とする学習(learn)や調査(investigation)を支援する探索型検索システムが必要であるとマチオニーニは主張している 検索システムの成功要因
インターフェイスの分かりやすさ
どんな操作をすれば検索できるか画面を一目見れば誰もが理解できること
ナビゲーションの適切さ
マニュアルがなくてもどんな操作をすればよいか誰もが分かり,検索結果リストからどうすればコンテンツにたどり着けるのかが一目でわかること
検索対象領域の専門用語を知らないユーザでも求める情報を容易に検索できること
トップ画面から結果画面までの浅さ
なるべく少ないシステムとの相互作用で目的のコンテンツにたどり着けること
ある領域での情報探しの経験知が,別の領域での情報探しに応用できるメタ認知であることは,いくつかの事例からも推測できる インテルのCEOだった故アンドリュー・S・グローブ氏は,前立腺がんの闘病記を公表しているが,その中で,「大学院時代に論文を探した経験が,前立腺がんに関する医療情報を探す際に役に立った」と述べている がん患者の情報探索プロセスにおけるインターネットと公立図書館の利用に関するインタビュー調査では,「タレントの追っかけ経験が,がん情報のWeb検索に役に立った」,「広報担当業務で培った企業調査経験が,Web上の医者探しで得た情報の信頼性評価に有用だった」との発話を得た
つまり,研究のための文献検索経験や,趣味を目的とする情報探索経験が,自分の病気に関する情報検索にも応用できることが実証されている
インフォプロの情報探索経験も,他の領域での各人の情報探索に応用されており,気づかぬうちにその人の成功や生活の質向上に貢献しているはずである
各領域に関する基本的な知識
各領域に関する基本的な知識は,検索に使うキーワードの選択と,検索結果を評価して自分の知識構造を変えるために必要となる
こうした知識は,検索経験を積み重ねるうちに,習得できるものである
医療情報や科学技術情報の検索では,専門家の使う語彙を習得するだけでなく,コンテンツの信頼性を判断する基準を習得することも重要である
Web検索では,情報源が信頼できるサイトかどうかも判断する必要がある
自己効力感は,個人の選択する行為やそのために費やす努力の程度,および失敗への抵抗力を調整するもので,教育をはじめとする様々な領域で取り上げられている
検索に対する自己効力感が高ければ,最初の検索で躓いても,そこであきらめずに納得のいくまで探し続けることができる。情報探索は究極の自律学習方法なので,検索経験知を積み重ねて自己効力感を高めることは重要である。 情報の受け手の知識構造に変化をもたらすものが「情報」であり,変化させないメッセージは情報とは言えないと主張するブルックス $ \mathrm{\Delta I+K[S] → K[S+\Delta S]}
この式は,受け手の知識構造$ \mathrm{K[S]} が,情報$ \mathrm{\Delta I} によって$ \Delta という効果を伴う$ \mathrm{K[S+ΔS]} に変化することを示している。
情報探索は1回の検索で完了するものではなく,異なる情報源を対象とする複数回の検索を試みることで,人間は情報ニーズをダイナミックに変化させている https://gyazo.com/5241b45200210b19cbe8d23e2d91aa9d
情報検索システムは,検索結果の適合性に基づく精度と再現率という指標を用いて,検索結果を評価してきた。
これは,ユーザが自分の情報ニーズに適合している情報を求めていることを前提としている
この前提は当然ではあるが,一方で,検索結果が部分的に適合している場合に探索者の知識構造や情報ニーズの変化が生じやすいという研究成果も報告されている
探索者が当面の情報ニーズを満たすために情報探索を進めている最中に,当初は意図していなかった別の関心事に関連する情報に遭遇し,当面の情報ニーズを中断して遭遇した情報を吟味・獲得した後で,元の情報探索に戻るという行動である
戻れるといいなぁ!!!!mtane0412.icon
「偶然に思いがけない発見をする能力,またはその能力を行使すること」と定義されている
セレンディピティは,情報遭遇を生じさせる能力であり,自然科学や医学における偉大な発見をもたらす人間の能力である
一方,情報探索の文脈では,情報源の組織化の方法によって,セレンディピティを高めることができるとされている 情報を探しやすくするには,ユーザが自分の慣れ親しんでいる語彙を使って情報を探せる環境を提供する必要がある
同じ教育領域でも,研究者の使う語彙と実践者である教員の使う語彙が異なること,教員にとって探しやすい情報システムは教員が日常用いる語彙で利用できる必要があること
研究者向けに制作されているERICシソーラスの語彙は教員が日常使用する語彙とは異なる
この種の語彙の違いは,医療やビジネスなどの他領域にも顕在することが想定される
情報を探しやすくするためには,ターゲットとなる利用者の情報探索行動を観察し,情報探しの障壁を明らかにするとともに,その障壁を乗り越える方法を利用者とともに考えるという取り組みが重要である
国立がん研究センターの患者パネルの方たちを対象にした病気に関する情報探索プロセスのインタビュー調査から
分かりやすい日本語の書き方の例を以下に要約する
能動態で書く
肯定文を使う
読み手に負担をかけない
正確な文法を用いる
明快な構文とする
簡潔な表現をする
文は短かくし 1 文を 40 文字以内に収める
並列的内容は箇条書きとする
見出し構成と見出し名に配慮する
主文で要点を明確に述べる
結論を先に述べる
要点や手順が明確な段落を構成する
読み手の視点を主体にした文体で書く
学術用語・専門用語は 1 語を一貫して用いる
情報探しに貢献する個人要因、すなわち情報探索スキルを涵養するという観点では,以下 3 点が重要である。 人々の情報探索プロセスへの理解を深める
利用者に情報探索を通じた効率的・効果的な自律学習方法を伝授する