デジタルスキルに影響する要因
2011-2018 年に38 か国で実施された「国際成人力調査(PIAAC)」のオープンデータを用い,デジタルスキルに影響する要因の比較を行った。分析にはデジタルスキルを反映すると考えられるIT を活用した問題解決能力(PSTRE)の課題の正答数(25 か国15,702 件)を用いた。分析手順は以下の通りである。1.各国のPSTRE の課題の正答率比較,2.背景調査から選択した63 設問(日常でのメディア利用等)の因子分析,3.選択された各因子の因子得点と年齢,性別,学歴を説明変数,各回答者のPSTRE 正答数を目的変数とした回帰分析(25 か国全体,日本,北欧3 か国の3 グループに実施)。主な結果として,課題ごとの正答率および課題の正答に影響する要因は国や地域ごとに異なることが明らかになった。ただし,年齢と学歴はいずれの国や地域でも共通してPSTRE に影響を与え,性別は日本,北欧3 か国では有意ではなかった。 UNESCO「スキルそのものだけでなく、行動、専門知識、ノウハウ、労働習慣、性格特性、気質、批判的理解力」を含むもの 1. 情報とデータリテラシー
2. コミュニケーションと協同
3. デジタルコンテンツの制作
これら5領域はさらに3から4項目に細分され、それぞれの項目で8レベルの習熟度に応じて、期待される能力が列挙されている
成人が社会生活で必要とされるスキルをどの程度習熟しているかを把握するために、OECDが行っている国際的な大規模調査 情報を獲得・評価し、他者とコミュニケーションをとり、タスクを遂行するために、デジタル技術、コミュニケーションツールおよびネットワークを活用する能力
EUのデジタル能力の1, 2, 5の領域に相当
成人スキルを3分野で測定する
背景調査も実施
日本はコンピュータによる調査を受けた人々の平均得点は高いが、一定レベル以上のスキルを持つ人々の割合は平均並み
日本は2013年調査時点でPSTREにおけるPV(Plausible Value: 推算値)平均得点で参加国中1位だった
PV平均得点を4段階に分けた回答者の割合で見ると、最上位のレベル3および次点のレベル2をあわせた割合が34.6%に過ぎない
OECD平均の34%と同程度
コンピュータによる調査を受けたなかった人(経験なし、導入試験不合格者、コンピュータ調査拒否者)の割合がOECD平均(24.4)を大きく上回る36.8%だったことの反映と考えられる
コンピュータ調査を受けなかった者の背景要因をPIAACの公開データを用いて検討(吉岡, 2014)
女性はICTに対するモチベーションが低いこと
コンピュータの使用経験には世代による差があるものの、コンピュータ調査の拒否割合と事前のコンピュータ導入試験不合格者の割合については全年代で同程度の高さ
コンピュータ調査を受けなかった者の割合と読解力や数的思考力との相関から、コンピュータ調査を受けなかった回答者も潜在的にはPSTREが低くないのではないかとも指摘している
海外ではPSTREデータの虹分析を行った事例が複数ある
北欧4カ国の40-65のデータを対象に、職業種別、性別、教育経験とPSTREの習熟度およびICT関連スキルの必要性との関係を調査(Tikkanen, Tarja)
職業の種別がいずれにおいても有意
情報集約型の職業に就いている回答者は、全ての年齢層においてPSTREの習熟度が非情報集約型の職業よりも高く、ICT関連スキルの必要性が高かった
教育とPSTREの関係に焦点を当てた一連の研究(Hämäläinen, Raija)
人口統計学的要因、仕事に関連する要因、日常に関連する要因の3グループに分類 欧州13カ国の学士以上を対象にPVに基づくPSTREの習熟度レベルを目的変数、背景小目の3グループを説明変数としてロジスティック回帰 PSTREの習熟度には3グループすべてが影響を与えている
特に強い影響を与えているのは、年齢、性別、親の学歴という人口統計学的要因
PSTREを測定する課題のうち特定の課題への回答に着目した分析(Liao, Dandan)
会議室の予約課題への正答には学歴、年齢、月収、仕事における裁量の程度、仕事において他人への働きかけを行う頻度、仕事における読解スキルとライティングスキルの使用頻度が有意な影響を与えていた
この課題に正答する確率が高い回答者は、課題を解決するために必要な手順のみを的確に行うことを明らかにした
国によって課題の正答傾向は異なっていた
日本の各課題の正答率は全14問中13問において25カ国平均よりもた回
課題3「会議室」の正答率は32.6%と25カ国中最も高い
2番目はフィンランドで22.7
課題6「足首の捻ねんざ(サイトの評価)」
25カ国の平均19を下回る16.6
年齢、性別、学齢以外の背景調査63項目を対象とした因子分析
第1因子「仕事における情報メディア全般の利用」
「仕事で手紙、メモ、電子メールを書く頻度」(0.811)
第2因子「日常における図表の作成と数的処理」
「日常でグラフ、図式、表を作成する頻度」(0.713)
「日常で分数、小数、百分率を使う頻度」(0.679)
第3因子「日常におけるコミュニケーション」
「日常で電子メールを使う頻度」(0.796)
「日常で手紙、メモ、電子メールを読む頻度」(0.749)
「日常で健康、病気、家計、環境などの理解を深めるためにインターネットを使う頻度」(0.518)
他の因子は特定カテゴリのみで構成され居てるが、第3因子には因子負荷量が小さいものの以下も含まれている
家庭環境に関する項目
「家にある本の冊数」(0.295)「父親の学歴」(0.186)
社会的・心理的姿勢に関する項目
「気をつけないと他人は私を利用する」(0.193)
第4因子「社会的・心理的態度」
「異なる意見をどのようにまとめるかを考えるのが好きだ」(0.79)
「母親の学歴」はいずれの因子についても因子負荷量が非常に小さかった
PSTREに影響する要因の回帰分析
25カ国全体、日本、北欧3カ国を対象とした重回帰分析
説明変数
4因子の因子得点、年齢、性別、学歴
目的変数
PSTRE全14課題への正答数
25カ国を対象とする回帰分析
説明変数の全てが1%水準で有意
日常におけるコミュニケーションの頻度が高いほど、年齢が低いほど、学歴が高いほどPSTREの課題正答数が増える傾向にある
第3因子が0.302
年齢 -0.277
学歴 0.148
日本を対象とした回帰分析
説明変数のうち性別と第1因子、第2因子、第4因子は有意とはならなかった
年齢が低いほど、学歴が高いほど、日常におけるコミュニケーションの頻度が高いほどPSTREの課題正答数が増える傾向
年齢 -0.438
学歴 0.258
第3因子 0.246
北欧3カ国を対象とした回帰分析
説明変数のうち性別と第4因子が1%水準で有意でなかった
年齢が低いほど、仕事におけるメディア全般の利用頻度が高いほど、学歴が高いほどPSTREの課題正答数が増える傾向
年齢 -0.446
第1因子 0.212
学歴 0.205
対象範囲の違いによる影響要因
第3因子は25カ国では最大、日本では3番目、北欧3カ国では4番目
第1因子は日本では有意ではない
年齢と学歴は対象範囲に関係なく、PSTREに比較的大きな影響を与えている
影響の与え方には違いがある
年齢と学歴に関してPSTRE課題の平均正答数との関係を、回帰分析の対象範囲別に比較
https://gyazo.com/c67a9051cbe558f3236f8e473e311516
年齢の下がり方が25カ国全体ではなだらか、日本と北欧3カ国ではより急激
25~34歳のグループが最も平均得点が高く、25カ国全体との差が大きい
学歴
日本は後期中等教育未修了と修了の差がほとんどなく、高等教育修了者との差が大きい
全体としては、25カ国全体、日本、北欧3カ国との間に大きな傾向の差は見られない
Hämäläinenらは欧州13カ国を対象として学歴を中心にPSTREと要因の関係を分析しているが、年齢、親の教育とともに性別はデジタルスキルと関連している
吉岡はコンピュータ調査を受けなかった者の分析の結果、「女性よりも男性の方がコンピュータの使用経験率は高く、CBAへの参加率も高く、またICTに対するモチベーションも高かった」
分析はCBAを受けていない参加者に限られていて、直接デジタルスキルを分析しているわけではない
本研究と先行研究で性別の影響に異なった分析結果が示されたのは、調査対象の違い
デジタルスキルが高い集団を対象とすると性別が影響していない可能性が示唆される
年齢はデジタルスキルが高い集団を対象とした差異に、特に強く影響する要因だった