カオス理論
カオス理論(カオスりろん、英: chaos theory、独: Chaosforschung、仏: Théorie du chaos)とは、力学系の一部に見られる、数的誤差により予測できないとされている複雑な様子を示す現象を扱う理論である。カオス力学ともいう。 ここで言う予測できないとは、決してランダムということではない。その振る舞いは決定論的法則に従うものの、積分法による解が得られないため、その未来(および過去)の振る舞いを知るには数値解析を用いざるを得ない。しかし、初期値鋭敏性ゆえに、ある時点における無限の精度の情報が必要であるうえ、(コンピューターでは無限桁を扱えないため必然的に発生する)数値解析の過程での誤差によっても、得られる値と真の値とのずれが増幅される。そのため予測が事実上不可能という意味である。 19世紀末、かのポアンカレから始めるべきかもしれない。多体問題と言われる、三体以上の物体の運動は、その軌跡の厳密解を計算することができない。そこで、例えば、太陽系の問題を考える際に、太陽と惑星と小惑星の関係を見るには、まず、二体の関係を解き、そこから三体目の関係を加えて、補正して行く。しかし、彼は、そこで、その補正をして行くと、軌跡が、不安定になることがあり得ることを示したのである。ここにカオスの萌芽があったのだが、しかし、それはまだ前史である。つまり、このことが人の注目を集めるには至らない。 具体的に、カオスが解明されたのは、1961年、気象学者ローレンツが、大気の熱対流運動を微分方程式で表現し、その方程式に基づいてシミュレーションをしていたときのことである。初期値のほんのわずかな値が、結果の大きな違いをもたらすことに気付いたのである。これが、カオスの特徴である、初期条件に対する鋭敏な依存性の、最初の発見である。 すぐに続けて、1973年、数学者のヨークと、当時の大学院生リーが、いわゆる「リー・ヨークの定理」を発見する。これは、先のローレンツの論文に、ヨークが着目して、それに数学的な定式化を施したものである。
さらに、1975年には、生態学者のメイが、繁殖集団をモデルにした数値実験をし、離散力学系のモデルを提出する。これが、先の「リー・ヨークの定理」の具体例となっていた。この発表を、リーとヨークが聞き、自らすでになし得ていた証明に、補足を付けて発表する。 ここでは、私は、これらのことを、数式は出さずに説明をしたい。大気の流れや、生物の個体数の増減の運動を示す方程式が、そのパラメーターの値によって、単調に増加したり、減少したりするほか、増減の振動を示す場合もあり、さらに、動きの予測がまったく付かない、カオス的な変動をする場合がある。カオスはまずは、そういう方程式が定式化され、その証明がなされたことに始まる。カオスが、注目されるのは、ここからである。以来、わずか数十年で、カオスは、研究者の数も膨大に増えて、今日を迎えている。現在では、カオスは、決定的な系において起こる確率的なふるまいと定義されている。