6. 「きく」ことによって態度や意見を探る
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1. 話を「きく」ということ
心理学において、当事者の話を「きく」という行為は最も素朴な方法論のひとつ
ただ、この「きく」ということを掘り下げて考えてみると、それほど単純な行為ではないことに気がつく
聞く(hear)
相手が一方的に話していることを「きく」ことを意味する
聴く(listen)
相手の心情や立場を推し量りながら「深くきく」ことを意味する
訊く(inquire)
疑問に思ったことや、関心のあることを当事者に訪ねてみることを意味する
2. 面接法とは
メディアにおいても、面接法は情報収集の手段として頻繁に用いられている
職員や社員の採用に採用や人事考課、大学などへの推薦入学希望者の選別に、面接が行われてない例はほとんどない
心理学で用いられる面接法
面接者
カウンセラー
被面接者
クライエント
目的と手段
傾聴を基本とする対話的相互作用を通じて、共同しながら来談者の問題解決を促進する 主に用いられる領域
面接者
調査者・研究者
被面接者
インフォーマント
目的と手段
口頭で質問し、調査・研究に必要な情報を収集する
主に用いられる領域
面接者
評価者
被面接者
被評価者
目的と手段
会話や質問を通じて、非面接者の知識・能力・スキル・態度等を査定する
主に用いられる領域
3. 調査的面接法について
調査的面接の基本形
1. 面接者とインフォーマントが1対1で、
2. 直接顔を合わせ、
3. 言語による双方向的なコミュニケーションを行う中で、
4. 面接者がインフォーマントの(に)話を「きく」ことによって情報を得、
5. 得られた定性的、定量的データを記述・分析・解釈すること
あくまでも基本形であって、このほかにもたくさんのバリエーションがある
面接者とインフォーマントが1:1ではない
同質のインフォーマントを集めて情報を得る
面接者とインフォーマントが直接顔を合わさずに情報収集を行う
3-1. 調査的面接法の長所と短所
研究手段として調査的面接法を用いる場合には、以下のことが肝要
1. 研究対象の特徴をよく吟味していること
2. 長所以上に短所を理解した上で使用すること
調査的面接法の長所
柔軟性
臨機応変に質問を投げかけられる
回答の様子を伺いながら、ふさわしい質問をなげかけることもできる
インフォーマントが最も話しやすい場所や時間を選ぶこと
質問の順番を変えること
準備したことすべてが尋ねられること
承諾があればボイス・レコーダーなどを持ち込んで、生の意見や感情を記録することも可能
データの質が豊か
面接中の仕草や声のトーン、視線の動きから、非言語的なメッセージも読み取ることができる
調査的面接法の回答確率は質問紙調査の回答確率よりも高い
インフォーマントを確実に同定できる
調査的面接法の短所
費用
統計的解析に耐えうるだけの量のデータを集めようとする時の人件費
サンプリングの費用、面接者の訓練費と旅費、インフォーマントに支払う謝礼など
時間
面接車の移動、インフォーマントとの面接スケジュールの調整、不在だった場合の再訪問など
インフォーマントを全国から募る国家規模の調査的面接では、準備から終了するまでに最低でも6ヶ月はかかると言われている
十分な訓練を受けていたとしても、面接者とインフォーマントとの関係性によって、得られるデータの質がことなてくるのはよく見られる現象
面接者の疲れ、健康状態、ストレスのほか、面接当日の天候や気温、時間帯などもバイアスを生む原因となる
質問紙調査に比べ、インフォーマントの匿名性が保証されにくい 面接者は、インフォーマントの住所、使命、電話番号、メールアドレス、職業などを事前に知っている場合が多い
個人情報が流出するのではないかという危惧を抱かせ、協力が得にくいという状況も起こりがち
長所でもある柔軟性が短所にもなりうる
質問の不統一を生み出し、その結果、データの解析・解釈段階でインフォーマント間の比較ができないという事態を生み出す場合もある
3-2. 調査的面接法の種類
原則
質問項目に書かれたままを読み上げる
読み上げる順番は決められた順番とする
回答者を誘導しない
質問項目はあらかじめ標準化されており、回答は「はい―いいえ」「賛成―反対」などの選択肢から選んでもらう選択肢法であるのが普通 すべてのインフォーマントに同じ質問を、同じ口調で提示することで、回答バイアスを小さくする
読み上げている途中でインフォーマントから質問があっても、これに答えない
ただし、明らかに質問の意味が理解できていなかったり、もう一度読んで欲しいという要求があった場合には、同じ質問を同じ口調で再度読み上げることは許される
質問は質問票に書かれた順番を忠実に守りながら読み上げられる
インフォーマントが回答を拒否した場合には、当該項目は「無回答」として次の質問に移る
インフォーマントが面接者の意見を聞きたいと言ってきた場合にも、それには答えないのが原則
インフォーマントはよく、面接者のかすかな目の動き、顔色、口調などを手がかりに、面接者の意見や気持ちを探り出したいという気持ちになるが、面接者はそれらの手がかりを与えず、試験や裁判の場のように、あくまでも中立の立場を堅持する必要がある
このようにして集められた情報は、定量的データとして、回答頻度、平均、分散、相関、回帰などの記述統計量の産出に用いることができる 構造化面接で用いられる手順と同じだが、選択式の質問の中に、自由回答式の質問を混ぜておくことに特徴がある
テーマを提示して自由な回答を求めるもの
e.g. 「ゆとり教育についてどのように思いますか?」
回答の選択肢をあらかじめ用意せず、インフォーマントに選択肢を作ってもらうもの
e.g. 「定年退職後にしたいことを、優先度の高いものから順に5つあげてください」
選択式の質問に対する回答の後に、その選択肢を選んだ理由を答えてもらうもの
e.g. 「前の質問で<賛成>と答えた理由を聞かせてください」
自由回答法に対する回答については、インフォーマントが語ったそのままを、忠実に筆記記録として残しておくことが重要
自由回答によって収集された回答を統計解析にかけることには限界があるが、選択式の質問で得られたデータの解析結果を解釈するとき、これらの回答を参照することで、より深い解釈が可能となる
準構造化面接の自由回答式による質問の仕方を、さらに推し進めたもの
詳細な質問項目はあらかじめ決められておらず、面接者がインフォーマントに対して尋ねたい主要な内容だけが決められている
内容は、面接法を使って追求したいリサーチ・トピックを反映したものである必要がある
そのため①理論的にしっかりとした基盤があり、②かなりの先行研究が蓄積されており、③研究仮説が同定できるリサーチ・トピック、が選ばれる傾向が強い
半構造化面接の面接者は長年にわたりそのリサーチ・トピックを研究してきていたり、少なくともそのトピックに強い興味・関心を持っている研究者や学生、専門家であることが望ましい
構造化面接では面接者は必ずしもリサーチ・トピックや質問内容に精通している必要はない
面接者は尋ねたい内容に沿って、質問を作り出したり、質問の角度を変えてみたり、回答を確認してみたりしながら、質問内容を掘り下げていく
面接記録は、面接者がその場出目もとして残しておき、面接終了後にインフォーマントとのやり取りを思い起こしながら情報を付加して完成させるのが一般的
インフォーマントの承諾があればボイスレコーダーに残しておき、後で文字起こしすることも行われる
半構造化面接で得られる情報は、定量的なものも含まれるが、概して定性的な物が多い
したがって、そのデータを統計解析にかけることは困難であり、内容分析を行ったり、KJ法(→8. 現場から心を探る)などを用いて整理したりして、併行して行われる質問紙調査などを用いた定性的研究を補完するデータとして用いられる事が多い まったく形式化されていない自由な面接
面接者には、インフォーマントが話したいことを自由に話せる雰囲気を作り出すことが求められる
とはいえ、調査的面接の目的は、臨床的面接と違い、研究に必要な情報を収集することにあるので、ある程度の話題やテーマは事前に決めておく必要がある
選ばれる話題やテーマには、①先行研究の蓄積が少なく、②探索的な研究テーマ、に関するものが多い
つまり、非構造化面接は、仮説検証型の研究ではなく、問題発見型の研究に用いられる傾向が強い
非構造化面接は形式に拘束されないので、インフォーマントの本音や深層心理に関する情報が得やすい
はからずも、より重要な研究テーマが浮かび上がってくることもある
その一方で、得られるデータが断片的であったり、特殊であったりして、筆記記録として残しておくのに苦労することも多い
4. 面接法の限界と今後
面接は言語を媒介とした情報収集の方法であると同時に、多くの場合それまで面識のなかった面接者とインフォーマントとが、一定のルールと制限のもとに、社会的相互作用を行う場でもある
社会的相互作用は、それに参加する参加者の属性や特徴によって、ダイナミックに、様々な方向へと展開する
どんなに面接の数を重ねても、ひとつとして同じ相互作用は起こらない
このような面接が持つ状況依存性は、当然のことながら得られる情報の中に、バイアス、非一貫性、不正確さを内包させる
そのような理由で面接法は多くの研究者から、それがどんなに精緻で洗練されていたとしても、社会科学の情報収集法としては問題があると指摘され続けてきた
実際、面接法によって得られたデータの信頼性や妥当性を確認する方法は、質問紙調査法のそれに比べると確立していない 一方で面接法は、未来に向けて豊かな可能性のある心理学研究法ととらえることもできる
情報通信技術(IT)の急速な普及によるところが大きい
時間と場所を選ばないIT技術の特徴を活かせば、面接法は今後大いなる発展を遂げる可能性があると言える