4. ウイルス感染と免疫応答
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1. 概要
宿主の生細胞内でゲノム核酸を複製し、必要なタンパク質を合成して粒子を再生産する ウイルスの分類
ゲノム核酸の性質および類似度、ならびに複製方法に従って分類されている
table: 表4-1 ウイルスとその他の微生物の性質の比較
例えば、細菌のように栄養分のある液体の中で単独で増殖することはできない
侵入ウイルスは血流を通して体中を巡ることもできるし、細胞内で増殖することもできるし、細胞内に潜んで寄生状態で存在することもできる 様々な状態の侵入ウイルスを排除する生体防御機能が備わっている
2. ウイルスの構造と分類
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ビリオンの形はウイルスの科ごとにさまざま
コアを取り囲む殻状のタンパク質構造物
非エンベロープウイルスでは、アルコール消毒で病原性が減らないことがある
エンベロープウイルスでは、エンベロープを内部から裏打ちするタンパク質やエンベロープに突き刺さるように存在するエンベロープタンパク質がある その他、ビリオン内にウイルス複製に必要な酵素が存在することもある 一本鎖RNAのウイルス
mRNAとして機能しない場合
ウイルス核酸はヒトや細菌と比べるてはるかにサイズが小さく、したがってコードしている遺伝子数も少ない ヒトの遺伝子が2万超あるのに対して、ウイルスではせいぜい100個程度
ウイルス遺伝子には自分の核酸を複製するための酵素のほか、宿主細胞に吸着・侵入したり、あるいは宿主の持つ免疫機構から逃れたりするのに必要なタンパク質などがコードされている 3. ウイルスの複製
ウイルスは、宿主細胞の持つタンパク質合成機構や宿主細胞が代謝によって生み出すエネルギーを利用して、自分自身の複製を行う
ウイルスゲノム核酸の種類とその複製の様式から、ウイルスは7つのグループに分類される
table: 表4-2 ウイルスのボルティモア分類
グループ ウイルス核酸の状態 複製様式
第1群 二本鎖DNA DNA複製
第2群 一本鎖DNA DNA複製
第3群 二本鎖RNA RNA複製
第4群 一本鎖RNA(+)鎖 RNA複製
第5群 一本鎖RNA(-)鎖 RNA複製
ボルティモアのウイルス分類では、ウイルス核酸の性状でまずグループ分類され、その中で塩基配列の相同性等で再分類される RNAウイルスはゲノムRNAを様々な手段で複製する
しかし、この複製はDNAウイルスのDNA複製に比べて正確性で劣る
これによって、ウイルスのゲノムに破綻が生じて複製できなくなるおそれもある
その一方で、ウイルス変異に宿主の免疫反応が追いつけず、ウイルスの増殖を抑えられない事態も生ずる
一般なウイルスの増殖の過程
1) 細胞へのウイルスの吸着
2) 細胞内に侵入
3) 細胞内でウイルス粒子からウイルス核酸が放出(脱殻) 4) ウイルス核酸の複製
5) ウイルス構成タンパク質などに必要な分子の合成
6) 集合
7) 成熟・放出
一般に感染細胞は最後に死滅する
4. ウイルスの病原性・症候
ヒト個体がウイルス感染によって病気を起こすまでの3ステップ 1) ウイルスと出会う
2) そのウイルスが個体に侵入し個体内で標的組織・臓器に移動する
3) ウイルスが標的組織で増殖して組織を阻害する(=発病)
感染経路は大まかに4種類に分類される
ウイルスと感染経路の組み合わせが正しいときだけ病気が起こる
例えば、C型肝炎ウイルスは「性行為感染・血液感染」でのみ感染が成立し、もしウイルスが食物に混入していたとしても感染は成立しない 一方、A型肝炎ウイルスは汚染された水や食物を介して感染が成立するので、食物を加熱することで感染を防ぐことができる 日本脳炎や黄熱は蚊が媒介するので、ヒトからヒトに直接にウイルスが伝播することはない ウイルス病では、ウイルスによって侵された臓器の症状と一般的な炎症症状(発熱など)が併せて生じる ウイルスは化学的性質で分類されていて、感染に伴って生ずる症候によって分類されているわけではない
それゆえ、分類上全く異なる種類のウイルスが同じような症候を起こしたり、分類上同じ仲間のウイルスがまったく異なる感染経路・伝播を示したりする
5. 持続感染と潜伏感染
身体にウイルスが存在して増殖しているにもかかわらず免疫システムがウイルスを排除できない状態 完全に排除できない原因(どちらのメカニズムもまだ解明できていない)
ウイルス側の要因
ウイルスが持続的に変異を起こしていると、免疫システムから常に逃避できるので、感染が持続しやすい
宿主側の要因
免疫細胞の機能不全が起こるとウイルスを排除できないので、感染は持続する ウイルスが存在しているけれども、複製や遺伝子発現をほとんどしていない状態 ウイルスの遺伝子発現をウイルス自身の持つタンパク質が抑制しているので、ウイルス粒子の産生はない
免疫システムはウイルスの存在を感知できないので、免疫系はそのような眠った状態の細胞内ウイルスを排除できない
何らかの原因でウイルスの複製が起こる(ウイルスの賦活化)ことがある 初感染時には全身に水疱ができる水痘(みずぼうそう)の臨床症状が現れるものの、獲得免疫によって治癒に至る しかし多くの場合、ウイルスは体内から完全に排除されず神経節に潜伏感染をする ときどきウイルスの賦活化が起こる
その際、全身症状は現れず、ごく限局された部分に水疱が現れる(帯状疱疹) 持続感染や潜伏感染をするウイルスの中には、長期に亘る感染過程で腫瘍を作るウイルスがある 6. ウイルス免疫
侵入局所で増殖するウイルスを水際で制御する役割
獲得免疫系に侵入ウイルスの情報を伝達し起動する役割 2つに大別
主に血液等の細胞外に存在するウイルスを抗体で排除する系 ウイルスに感染してしまった細胞をウイルスごと破壊・排除する系
6-1. 自然免疫
多くの細胞にはウイルスの侵入を非特異的に感知するセンサー分子の総称
ウイルスの構成成分やウイルス感染細胞内に存在する分子のうち、そもそもヒト細胞には存在しない性状の分子
PRRsによって感知される
PRRsがウイルス関連PAMPsを感知すると、ウイルスの増殖を抑制するための様々な反応が一気に惹起され、侵入ウイルスの増殖は抑制され排除される
周囲のウイルス感染を受けていない細胞に抗ウイルス状態を誘導し、ウイルス感染が拡大しないように働く
さらにその場でNK細胞を活性化し、NK細胞によるウイルス感染細胞の破壊を促す マクロファージや樹状細胞は、ウイルスが侵入してくるとウイルスPAMPs等に応答して、インターフェロンを含む様々な情報伝達タンパク質(サイトカイン)を分泌する 分泌されたサイトカインに応じて末梢血から様々な免疫細胞や白血球がその局所に遊走し、ウイルス除去を促すとともに、自らの機能がさらに高まって増殖が活発になる これを抗原提示と言い、獲得免疫系起動の最初のステップ 一方、一般にマクロファージは感染局所にとどまる
樹状細胞は外から取り込んだウイルス関連抗原をMHC-II分子に結合させて細胞表面に据え置く 一方、ウイルスが感染した樹状細胞はウイルス抗原をMHC-I分子に結合させて細胞表面に据え置く この2つに加えて、樹状細胞は外から取り込んだウイルス関連抗原をMHC-I分子に結合させて細胞表面に据え置くこともできる
いずれの場合も、細胞表面にMHC分子と結合した複合体として据え置かれたウイルス抗原は、T細胞上のT細胞受容体(TCR)を介してT細胞に認識される その提示抗原を認識できるT細胞クローンだけが活性化される
細胞内に取り込まれた外来性抗原と結合して他の細胞のに提示する 6-2. 獲得免疫
BCR分子もTCR分子も、抗原に結合する領域は抗体分子の可変領域と同じように極めて多様 それゆえ、多様な抗原認識能を有するB細胞とT細胞が存在し、事実上あらゆる非自己抗原を認識できる T細胞全体のおよそ75%を占める
形質細胞から分泌された抗体分子は細胞外のウイルス粒子に特異的に結合して感染性を失わせ、ウイルスを身体から排除する 抗体のカルボキシル端側の定常領域の構造等の違いから、抗体は5種類(A, D, E, G, M)のクラスに分類される 一般にウイルスの初感染時には血中にまずIgMが出現し、やがて回復期にはIgGが優位になる
2度目以降の感染時には、最初からIgGが専ら中和反応に関わる
それゆえ、外来診療において、血液検査によるウイルス特異的IgM・IgGの検出が有益な場合になる
巧妙なことにB細胞自身も抗原提示を行って自らを活性化させる
B細胞はBCRに結合するウイルス関連抗原を細胞内に取り込み、MHC-II分子を介する抗原提示を行って、その抗原に特異的なTh細胞クローンを活性化する この活性化Th細胞は、そのB細胞クローンの分化と抗体産生を強化する
こうして、侵入したウイルスに特異的なT細胞とB細胞のクローンが協働的に活性化される
活性化の強化には、上述の活性化Th細胞からの刺激も重要
こうして強く活性化されたCTLは感染の場に移動し、ウイルスに感染して犠牲になった細胞を攻撃し破壊する
ウイルス感染細胞は、ウイルス抗原をMHC-I分子上に提示している
その提示抗原に特地役な活性化CTLクローンは、感染細胞に結合してパーフォリン分子を分泌し、標的感染細胞膜に孔穴を開け、この孔穴を通してグランザイム等の細胞傷害物質を感染細胞に注入する これによって標的細胞は膨化し、融解する
7. 免疫学的記憶
抗体を産生する形質細胞は一般的には数週間で死滅するが、一部は骨髄の中で長寿命な形質細胞として生存し続ける 同じウイルスが再び侵入してきた場合は、このメモリーリンパ球と長寿命形質細胞が迅速に活動し、効率的にウイルスを排除する 8. まとめ