2.5 あなたの家族は誰? ーー血縁関係を知る方法
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デブラ・リーバーマン(Debra Lieberman)
理学の学士号の後、著名な進化心理学者コスミデスと人類学者トゥービーの指導を得て、2003年に心理学の博士号
主な研究領域は、血縁関係の認識、そして利他行動や、近親交配を回避するための感情と意思決定プロセスといった血縁性と関連する行動など
その他にも、社会的分類や(嫌悪などの)感情の神経的基盤、そして法律と医学における進化心理学と生物学の応用などについて広く興味を持っている
2007年にトゥービー、コスミデスとともに、Natureでヒトの血縁認知の論文を発表
血縁関係を評定するシステムが進化するメカニズムは様々な生物に見られるが、同じメカニズムがヒトに適用されるかは定かではないと主張し、研究を行った
ヒトにも同じような血縁認知のシステムが働いていることが明らかになった
「他の生物に影響を与えている進化の力が、ヒトだけに働きかけないことはない。ダーウィンから始まった進化論は、われわれという生き物の神経的・心理的構造を説明するにあたって重要な役割を果たしている」と論じた(Lieberman, Tooby, & Cosmides, 2007)
研究の概要
血縁関係は生物学や人類学の分野では重要な事項と見なされている
一方、心理学の分野では、心がどのように血縁関係を評価し、どのように血縁者に対する行動を制御しているのかについて、ほとんど関心が払われてこなかった
私はこのギャップを埋めたいと思っている
調査
血縁者と非血縁者を区別するために私達の心が手がかりとしているもの
血縁関係の情報を用いて性行動や利他行動へ動機づけを制御している心理機構の性質
なぜ血縁認知に注目するのか
既知のあらゆる文化において、相手との血縁関係は個人の行動を制御する重要な(たいていは最も支配的な)要因になる
どの地域でも人々は他者を近親者とそうでない親類、そして非血縁者に分類し、それに応じて接し方を変える
実際、進化生物学の最も根本的な諸理論が示唆していることだが、日常的に近親者が接する生物種(ヒトを含む)は、近親者と非血縁者を区別するための計算機構を進化させてきたはず
これらの機構は(少なくとも)二つの、それぞれ違う意思決定ルールと情動反応を持つ動機づけシステムと関連している
血縁者への利他行動を促すもの(Hamilton, 1964)
血縁者との性行為を思いとどまらせて近親交配による害を防ぐためのもの(Bittles & Neel, 1994)
そういったシステムをたくさんの生物種(ジリス、ハタネズミ、ヒヒ、チンパンジー)が持っていることは確認されているが、ヒトの持つシステムについては殆ど知られていない
心はどのように血縁関係を計算するのか
進化によって獲得可能なのは、祖先の時代に血縁度と確実に相関していた手がかりを使って、各個体が血縁度の指標を独自に算出するという機構だろう
血縁者を検知するシステムが自然淘汰の過程で形成されたのであれば、私達の祖先の狩猟採集生活の中で利用可能な手がかりが、私達の認知構造に反映されているはず
さらに、異なる血縁関係(母親、父親、子供など)が異なる手がかりで同定されてきたのであれば、様々な血縁認知機構が存在しそう
私はきょうだいに焦点を当てて研究している
「自然淘汰を通じてきょうだい認識に使われるようになった、きょうだい関係と十分に相関し、世代を超えて安定して見られる手がかり(特定分野の情報)とは、いったいどのようなものなのだろう?」
心が何を手がかりにきょうだいを識別するかをどうやって実証的に調査するか
倫理的な問題があるので、進化生物学者が血縁認知の研究をする際に行っている養子化実験を人間に対して行うわけにはいかない
自然に生じた家族構成や行動、情動反応の違いを使って、心がきょうだい関係を同定するために用いている手がかりに迫ることになる
私はトゥービー、コスミデスと一緒に(Lieberman, Tooby, Cosmides, 2003, Lieberman, Tooby, Cosmides, 2007)、ある人の家族構成や同居年数、家族内の習慣、子供の頃の行動などのデータを、様々な行動に対してその人がどれだけ嫌悪、魅力、または道徳上の問題を感じるかを評価する質問し調査と同時に集めた
目標
きょうだい検知システムの構造を明らかにすること
二つの手法
個々人の近親相姦への抵抗感の強弱と、きょうだい関係を予測する手がかりの強弱(有無)の量的な比較
もしも特定の要因がきょうだい関係の手がかりになっているなら、その要因の有無によって性的忌避の強弱を予測できるはず
上記手がかりの強弱と、利他行動への意欲の強弱との量的比較
もしも単一の血縁者検知システムというものがあって、血縁関係の手がかりが性的忌避と利他行動の両方を制御しているのであれば、きょうだい間の性行為への嫌悪感を予測できる手がかりは、同時にきょうだいに対する利他行動も予測できるはず
よって性的忌避と利他行動に関するデータは、我々が進化の過程で血縁者検知のために用いるようになった手がかりの証拠を提供するはず
きょうだい関係の手がかりは?
ヒトの祖先の社会環境構造を考えれば、きょうだい関係を知るための非常に信頼できる手がかりの一つは、自分の母親が新生児を世話(例えば授乳)するところを見ることだっただろう
実際、自分の母親と乳児が継続的に出産直後の期間をともに過ごしているのを目撃すれば、ほぼ確実にその乳児は自分のきょうだいだっただろう
MPA(maternal perinatal association: 周産期の母親との近接)と呼ばれるこの手がかりは、さらに、自分が3歳であっても10歳であっても13歳であっても、つまり対象のきょうだいとの同居時間に関係なく、血縁度の指標になったはず
しかし、MPAは年上のきょうだいしか使うことができない
年下のきょうだいの手がかり
一つの説は、子供時代に親による育児投資を分け合った時間、つまり子供時代の同居期間の長さが、血縁度に関する信号を発し、きょうだい関係を推定するための次善の手がかりになっただろうというもの
Westermarck, 1891によって提唱された、この「子ども時代の同居期間の長さ」には実際に性的関心を抑止する効果があることが、遺伝的に無関係な子どもたちを同居させる文化的制度を通して行われてきた、様々な自然実験の中でわかっている(イスラエルのキブツ(Shepher, 1983), 台湾のシンプア(Wolf, 1995))
心が年上のきょうだいと年下のきょうだいを同定する際に、上記二つの独立した手がかりを用いているのだとすれば、以下の予想が成り立つ
弟妹が兄姉を知る時のようにMPAがない場合は、子ども時代の同居期間の長さがきょうだい関係の手がかりになり、それによって利他行動の度合いやきょうだい間の性行為への抵抗感を予測できるはず
兄姉が弟妹を知る時のようにMPAがある場合は、MPAによって同様に利他行動の度合いやきょうだい間の性行為への抵抗感を予測できるはず
MPAがある場合はさらに、MPAは同居期間の長さとは無関係に使える手がかりなので、同居期間の長さは利他的ふるあいや性的忌避に関する予測因子にならないはずだ
実証的証拠
トゥービー、コスミデスと共同で始めた研究の結果は、きょうだいを検知するために心が実際に二通りの手がかりを用いていることを示している(Lieberman et al., 2007)
MPAがある場合は、下のきょうだいとの同居期間の長さは、そのきょうだいに対しての性的忌避や利他行動の予測因子にはなっていない
さらに異性弟妹との総同居期間は、第三者であるきょうだい間の性行為に対する道徳的態度の予測因子になっていない
MPAがない場合は、同居期間の長さが、上のきょうだいに対する性的忌避や利他行動、さらには第三者によるきょうだい間の性行為に対する道徳感情の予測因子になっていた
これらのデータから以下のことが言える
他者を年下、年上のきょうだいと認識する際に用いられる手がかりは別々のものであり、それぞれの手がかりが性的忌避や利他行動への意欲の発達に関与している
第三者のきょうだい間の性行為に対する道徳観の個人差は、自分のきょうだいに対する性的忌避の強弱を予測する因子によって説明可能で、このことは私達の近親相姦に関する道徳感情の起源についての知見を提供している(Liberman et al,m 2003 参照)
遺伝的に無関係な子どもたちを一緒に育てる文化的制度の二つの有名な自然実験の研究から、他者をきょうだいと認識する際に、複数の手がかりが用いられていることを示すさらなる証拠が見つかった
台湾のシンプア(幼い女の子が許嫁の家の養女となり、許嫁と一緒に育てられる制度)の文書記録
夫婦のうち年下のほうの同居開始時の年齢、すなわち同居期間の長さが、その夫婦から生まれるこの数の減少の予測因子であることが示された(年上のほうの同居開始時の年齢は予測因子ではない)
前述の血縁認知モデルで考えれば、これは年上の方が同居期間の長さでない手がかりを持っているからであり、私達の血縁認知も出るによって長年の謎が説明されることになる(Liberman, 2009)
イスラエルのキブツ(血のつながらない子どもたちが一緒に育てられる)で集めたデータ
同居期間が長ければ長いほど、互いに対する性的忌避は強くなり、利他行動の度合いは高くなっている
また、異性の同輩との同居期間の長さによって、自分以外の同輩間の性的行為を不道徳と思う度合いを予測することができ、性に関する道徳感情が自分自身の性的忌避に根ざしていることの新たな証拠が提供された(Lieberman & Lobel, 2012)
嫌悪感ーー性的忌避を制御する感情の再考
きょうだいに対する性的忌避の研究は、嫌悪感(近親相姦に類する行動への応答としてわき起こる感情)の研究へとつながっていった
進化学的視点からは、嫌悪感は病原体を持つものを避けるために進化し、それが配偶行動の意思決定(その一例が、近親相姦の回避)の制御、やがてはその他の社会的逸脱(つまり性に関係のない不道徳行為)に対しても用いられるようになったことが示唆されている
一連の行動研究によって、ジョシュ・タイバー(Joshua Tybur)、ヴラド・グリスケヴィシウス(Vlad Griskevicius)と私は、嫌悪感が実際に3個の機能的ドメインに分割されていることの証拠を見つけた
私達はこの理論的枠組を用いて、3つのドメインそれぞれへの嫌悪感受性の個人差を数値化する嫌悪感尺度を開発した(Tybur, Lieberman, & Griskevicious, 2009)
嫌悪感が3つの独立したドメインに分割されることの証拠は、fMRIを用いてケント・キール(Kent Kiehl)、ヤナ・シャイヒ・ボーグ(Jana Schaich Borg)とともに行った研究からも得られた(Schaich Borg, Lieberman, & Kiehl, 2008)
手短にまとめると、私達は病原体、近親相姦、非性的な道徳的嫌悪がそれぞれ異なる脳領域(と三者に共通する領域)を活性化することを発見した
私の行動研究データに加えてfMRIのデータは嫌悪感の3領域説を支持し、様々な疾患によってこれらの領域の一つまたは複数に選択的機能低下が起きる可能性が示唆される
別の研究では、嫌悪感が持つ病原体忌避機能に注目した
嫌悪感が病原体忌避システムとして機能するためには、病原体の有無を評価する方法が必要
祖先の環境において病原体の存在と相関していた手がかりがなければならない
嫌悪感を研究する人々は、病原体の有無についての視覚的・嗅覚的手がかりに注目してきた
例えば、流れる血や嘔吐物、排泄物を見ることや、腐敗臭をかぐこと
私の研究チームでは、それらに加えて触覚が病原体の有無に関する情報を提供するかという問いを立て、参加者に様々なものを触らせて嫌悪感を点数化してもらう実験を行った
その結果、湿り気と生物的特性という、病原体の存在と関連する2要因が実際に嫌悪反応の引き金となっていることがわかった(詳細はOum, Lieberman, & Aylward, 2010参照)
今後の方向性
血縁認知については手つかずの領域がまだまだたくさんある
私の研究で母子の結びつきが血縁関係の手がかりとなることがわかったが、父子の結びつきはどうか
近年の研究によると、他にも顔の類似性や、ひょっとしたらMHCなども、血縁関係を知る手がかりとして使われているようだ
これらの手がかりと同居期間の長さおよびMPAとの関係はどのようになっているのか
家族を構成する二者関係は他にもある
きょうだい以外の近親者を検知するためにどんな手がかりが使われているのか
#進化心理学