14. 文化と進化
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1. 文化進化
1-1. 文化とは
時代の生業形態や人工物のスタイル
同じ時代に生きる一部のグループの考え方や行動様式
「知識、信仰、芸術、道徳、慣習、その他社会の成員として人間が獲得するあらゆる能力や習慣を含む複合的な総体」
文化の共通する特徴
この共有された価値観や信念は、孤立した情報ではなく知識同士が組織化・構造化されていて、ある程度の社会的来歴を有している(Durham, 1991) 文化的価値観・信念は必然的に考え方や行動に影響する
1-2. 文化の複製子
文化には進化との類似点に基づき理解できる側面がある
社会的に伝達される知識をオリジナルのコピー(複製)とみなすことができるという点 文化の伝達を担う複製子
研究者の間でもミームとは何なのかについて、必ずしも合意が得られていない
1-3. 文化の進化
ミームにより伝達される文化の広がり方は、そのミームの伝達されやすさ(=淘汰)に影響される
ミームが社会の中に広がっていくプロセス
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子どもたちから選ばれやすいデザイン(ミーム)が広がった
1-4. 文化進化の特徴
文化進化と遺伝子に基づく進化ではスピードが決定的に違う
ミームの伝達では同世代の間での水平伝達が起こるから 2. 文化を支える社会的認知
2-1. 動物の文化と社会学習
文化の定義に、言語のようなシンボルを通じて継承されるという内容を含めると、文化はヒトに特有ということになる
動物にも文化がありそうだという最初の科学的発見はニホンザル 宮崎県の幸島で一頭の子ザルが餌付けのために与えられたイモを水で洗って食べていたところ、芋洗いの習慣が幸島のサルに広がっていった(Kawai, 1965) イモを水で洗って食べるというイノベーションがある個体から別の個体に広がった ニホンザルの集団に広がったメカニズムは、ヒトのそれと同じではないかもしれない
すでに芋洗いをしている個体の役割は、別の個体の注意を特定の刺激(水)あるいは場所(水場)に向けさせること
ヒトの複雑な文化が各自の再発見によらないことは自明
三角関数を各自が再発見しているわけではない
ニホンザル以降、様々な種で「文化」が発見されている
系統発生的にヒトときわめて近いチンパンジーと比べてもヒトの社会学習には際立った特徴がありそう
チンパンジーもヒトの幼児も引き寄せるところを見せると道具を使って対象を引き寄せることを学習する
事件者が対象を引き寄せにくい左側の置き方から、隙間がなくて対象を引き寄せやすい右側の置き方に変更してから道具を使うところを何度も見せるとする
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チンパンジーにはみられなかった
ヒトの幼児は手間のかかるやり方でも、それをそっくりそのまま模倣する傾向があった チンパンジーは道具を使って餌を引き寄せることができるということ、道具が目的達成の役に立つことを学習したと考えられる
やり方をそっくりそのまま模倣するのではなく、目的達成の手段を観察から学ぶこと
逆じゃね?って思ったけどそうらしいmtane0412.icon
2-2. ナチュラル・ペダゴジー
ヒトには高度な社会学習を可能にする傾向が備わっているという考え方
幼児は大人が何かを伝えようとしているという伝達意図を読み取って、社会学習の仕方を柔軟に変化させる
大人も自身の伝達意図を明確にして子どもたちの学びを促進する
ヒトの言語コミュニケーションに付いての理解と密接に関係している
語用論では、ヒトのコミュニケーションは相手に対して特定の情報を伝えようとする情報意図だけでなく、自分は何かを伝えようとしている伝達意図も同時に働いていると考えられる ナチュラル・ペダゴジー説は、この意図明示・推論コミュニケーションが言葉を使いこなす前の幼児の社会学習にとっても重要な役割を果たすと考えている
教師役が幼児と目を合わせてから、近くにある玩具に目を移す場合
教師役の目線を追ってその玩具を見る傾向があった
教師役が幼児と目を合わせることなく、近くにある玩具に目を移す場合
2-3. 大型類人猿との比較
ヒトには文化を学習するために自然淘汰により備わった能力があるという考え方
文化を学習するための準備性がヒトを他の動物と分ける特徴 ヒトの2.5歳児、チンパンジー、オランウータンを対象に、物理的知性テスト(場所の記憶テスト、簡単な足し算テスト、物の形状の変化に関するテスト等)と社会的知性テスト(他者を観察して問題解決法を発見するテスト、伝達糸を示す手がかりの読み取りテスト、他者の視線を追うテスト等)を行った
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物理的知性テストの得点分布に大差はない
社会的知性はヒトが飛び抜けて高くなっている
幼児の段階から社会学習への高い準備性を持っていることが示唆される
3. 遺伝子と文化の共進化
3-1. 人種=社会的構築物
世界中に遺伝的な基盤をもたない文化差が存在する
人種間には遺伝的な基盤を持った違いもある
文化差も人種間の遺伝的な違いによって生じる可能性はあるか?
ヒトという朱は遺伝的多様性が低い(99.9%は共通しているという推定もある)
世界中の文化のほとんどは、文化進化によるもの
3-2. 文化が遺伝子の変化を促す
多様な環境に進出した結果として、少ないながらも集団間の遺伝的差異も生じた
太陽の光を浴びてビタミンDを作る
日照時間が短い地域では白い肌のほうが適応的
ある文化的習慣が定着すると、それが新しい適応環境になり遺伝子頻度の変化を生じさせることもある
文化的継承と遺伝的継承を同時に考慮する
酪農が生業であった地域では、遺伝的に成人後も乳糖分解酵素を持ち続ける人が少なくない 3-3. 非適応的な文化―人口転換
先進国では近代化とともに少子化の傾向が現れる
近代化すると社会全体が裕福になり栄養状態はおしなべて改善するので、繁殖のためにも環境はよくなっているはず
繁殖に有利な環境で人々はむしろ子供を産まなくなる
繁殖を通じた遺伝子頻度の上昇が進化なので、環境が良くなると繁殖率が低くなるというパターンは進化論からは説明できない
ミームは水平伝達や斜行伝達もする
社会的成功者のミームを継承し、家庭よりもキャリアを優先しはじめるかもしれない
このミームは遺伝子よりも早く集団に広がり、家庭を優先してキャリアを後回しにする親の子供にも斜行伝達によって広がることができる
このように考えると、生物学的な意味で非適応的な文化が生じ、それが長期間維持され少子化につながるメカニズムの解明につながるかもしれない 人口転換は非常に複雑な現象であり、現時点で完全に理解されているわけではない