変わる寿命・変わらない寿命
遺伝子や細胞や組織の様々な部位に様々なエラーが生じ、年齢とともに次第に老化が進むが、そういうエラーにもとづく老化の結果としての寿命 変わる寿命
エラーの抑制/促進で変わる
遺伝的に決められた種としての寿命
変わらない寿命
最適の環境で実現しうる最大寿命に対応
(1) 生存曲線から見た変わる寿命・変わらない寿命
https://gyazo.com/883a5bf23d19111af2fc5883443ca062
大量の卵を産みっぱなしで世話をしない
出生後まもなく死滅しごくわずかだけが生き残って生涯を終える
産卵数が比較的少なく孵化するまで親が世話をするが、どの年齢でも死亡率がほぼ一定という直線を描くパターン
大部分の個体が生存限界まで生きて、老齢になってから急速に死滅するパターン
生存曲線の違いは人間の手が入ると白矢印のように変化する
ヒトという動物自身が石器時代から現在まで、若齢期・青年期・高齢期の生存率を引き上げてII型に近いパターンからIII型に近いパターンへと変化してきたと考えられる
黒矢印の変化は最大寿命がプログラム寿命に近づいていくことを示している
現実の生存曲線はこの白黒両矢印が混じった形になるので二つの意味が両方とも含まれる
https://gyazo.com/3608f4f9d7dfffa2d970980ab4fb4f02
マウスは世界中の研究室で最もよく飼育され研究されてきた動物の一つ
→C57BL系統が描く生存曲線の最大寿命900日(2歳半)はMus musculusという種のプログラム寿命とほぼ一致するだろうと考えられる
AKR/J系統は種のプログラム寿命に達するはるか前に白血病にかかって約600日という最大寿命で死ぬ この系統に遺伝子治療をほどこし白血病の発症を抑えると、寿命が1.5倍延びて900日生きられるようになるということは十分考えられる
それは最大寿命をプログラム寿命に近づけるという操作であって、種の寿命を1.5倍延ばすというのとは話が違う
日本で作り出された系統
プログラム寿命に達するはるか以前に、エラー寿命すなわち老化の結果としての寿命を迎える
この系統の生存曲線は極端に左側にシフトするので、老化を早める要因を研究するモデル動物として使われている ゾウリムシの寿命は分裂回数で表す
不死=無限の分裂能
有性生殖なしに衰えることのない分裂能を示した実験があったが、実際には分裂限界をもつ 約300回
高木らによってセルフィングが見逃されていた可能性が指摘された 約600回
ソネボーン以降、ゾウリムシは寿命研究のモデル動物として世界中で使われるようになった 60回分裂のときに3つのグループに分けて生存曲線を比較
正常なコントロール
UV+PRグループは紫外線の影響を消し去っただけでなく、コントロールよりもさらに長生きした
https://gyazo.com/39ad68bee61615ea29a3ec6cbcdc4fa3
この図では、筆者らのコントロールの野生型が、UV+PR処理グループよりもさらに長寿命になった
違う実験群の比較は難しいので、UV+PR処理による寿命延長効果を否定したとは思っていない
ただ、彼女らの生存曲線の形が、III型に相似する我々のデータとは違って、エラー寿命を反映するII型に相似するのが気にかかっていた
我々のグループでは330回
その後、Smith-Sonnebornらのグループが、III型の生存曲線を描くデータを出すy9魚になり、メラトニン添加により、コントロールの325回分裂より20.9%長寿の393回分裂という最大寿命を報告 したがって、最大寿命はプログラム寿命に向かってまだ延びる可能性が残っている
寿命の遺伝解析が最も進んでいる生物
野生型(30日)
ただし、age-1/daf-2の二重突然変異体の寿命はdaf-2突然変異体と変わらない
正常な遺伝子が突然変異で異常になることで寿命が延びる仕組み 寿命が延びるのに実質的に効いている
野生型では寿命延長遺伝子の活動を抑える働きをしているために、正常レベルの寿命にとどまっている
これらに突然変異が起こるとこの抑制作用が弱まる
これらの遺伝子の本体もわかっていて、いずれもインスリンをリガンドとする情報伝達系ネットワーク上に位置するタンパク質を指令する https://gyazo.com/8461b47337c760931c89de6ff2a0f1e7
したがってPIP3に対する抑制効果を持つことにいなり、age-1突然変異体と同じ効果を示すことになる
問題は正常なdaf-16遺伝子のつくる転写因子が、具体的にどの細胞でどのように働いて最大寿命を延ばすか
ヒトにもこのdaf-16に相同な遺伝子が複数発見されていて(FOXO群)、センチュウ同様に寿命を2倍に伸ばせるのではないかという楽観論も センチュウで最大寿命を延ばせたからといって、ヒトで延ばせるとは限らない
センチュウでは70~80日で2倍に延ばせたと言えるが、ヒトでは200年以上を達成しないといけない
ヒトの122歳という最大寿命はプログラム寿命に限りなく近く、センチュウの70数日という最大寿命はプログラム寿命から遠く隔たっているということも考えられる
マウス同様、世界中の研究室で飼育・研究されてきた動物なので、最大寿命とプログラム寿命がほぼ等しいという見方もできる
しかし、センチュウは成体のすべての体細胞が非分裂性の細胞のみからなるため、代謝速度を落として休眠状態にすれば、何日と数える寿命はまだまだ延びる可能性がある 体の作りが全く異なるセンチュウとヒトでは、同じ長寿遺伝子をもっていてもその働き方がまるで違う可能性が大きい
ヒトは成体の体細胞が非分裂性の細胞と分裂性細胞が混在する
(2) アロメトリー則からみた変わる寿命・変わらない寿命
$ \mathrm{T=a\times W^{1/4}}
生物の時間は体重の4分の1乗に比例するという法則がよく知られている
一般に生物の法則は物理や化学の法則とは違って例外を許すゆるやかな関係を表面するものでしかない
この式のWは個体の体重を表す
1個のゾウリムシは細胞か個体か
ゾウリムシの寿命は細胞分裂回数で測定されるので、ヘイフリック限界で個体の寿命を規定するのと同じ要領でいけば、ゾウリムシの個体はクローンに相当するとみなすべきことになる 体重をクローンサイズとした場合、例えばヨツヒメゾウリムシの最大寿命を400回分裂とすると$ 2^{400}という天文学的な数字を考えなければならなくなり、その体重は太陽のサイズもはるかに超えてしまう 1個のゾウリムシは細胞相当と考えるべき
ゾウリムシ属では種の違いによってサイズが異なるが、我々はゾウリムシのサイズと、DNA量との間に比例関係が成立することを実験により確かめた
一般に細胞のサイズはDNA量に比例するが、個体のサイズはDNA量とは無関係ということがわかっている
寿命と性成熟齢の相関性
Wを含む式をゾウリムシに適用する難しさから逃れる道がある
Tが寿命$ \mathrm{T_L}にも性成熟齢$ \mathrm{T_M}にも適用できるなら、$ \mathrm{T_L/T_M}から$ \mathrm W^{1/4}を消去することによって、$ T_L=c\times T_Mが得られる
生物の寿命$ \mathrm{T_L}が性成熟齢$ \mathrm{T_M}に比例するということは広く認識されていて、例えば哺乳類でも線虫類でも、そのように見えなくもない緩やかな比例関係が報告されている
筆者は、ヨツヒメゾウリムシで短寿命のjumyo mutantを分離したとき、性成熟齢に相当するオートガミー未熟期の長さも短縮していることに気づいた オートガミー未熟期の長さに関しては25℃と32℃で異なる振る舞いを示したのに、寿命の長さに関しては25℃と32℃で同じ振る舞いを示したことから、性成熟齢と寿命が比例関係を示さなかったことと合わせて、両者はお互いに独立な、無関係な現象であることが示された
rie-2 mutantについても、温度感受性の内容は違ったが、同様の結論
この結果は$ \mathrm{T_L=c\times T_M}式、ひいては$ \mathrm{T=k\times W^{1/4}}式というのは種間の関係式であって、種内の個体間の変異に当てはめることはできないということを示唆する
実際ヒトという種内の個体に注目すると、体重の増大は寿命の延長ではなく短縮をもたらすという経験的事実とも符合する
種間の変更不能なプログラム寿命と、種内の変更可能なエラー寿命とは、まったく違った観点で見る必要がある
(3) 進化的観点から見た変わる寿命・変わらない寿命
生物は寿命を持たないのが本来の姿であった
真核生物の中にも寿命をもたない(無性生殖で永続できる)生物がたくさん含まれる 寿命は進化の産物として様々な様態を持つように変化してきた
いったん寿命を獲得した生物にとって、寿命はその生物の種としての特性の一部となった=プログラム寿命 一方、生物はおかれた環境の中で環境と相互作用しながら種の枠内で変化できる柔軟さをもっている
エラーを抑制し老化を遅らせることはできるが、環境との相互作用に伴うエラーを完全に排除することはできないので、エラー寿命は不可避
プログラム寿命はそれぞれの生物の種としてのデザイン
仮に遺伝子操作や人工臓器で200歳のロボット的人間が実現したとしても、それをホモ・サピエンスと呼べるか