ウェブ環境における情報検索スキル
本研究では,van Deursen らの「デジタルスキル」を基礎に,従来の情報検索の専門的なスキルを組み込んだウェブ環境における情報検索スキルの現状を明らかにすることを目的とする質問紙調査を行った。2014 年8 月にオンライン調査を実施し,1,551 名から回答を得た。その結果,ウェブ環境で検索を行う人々は,(1)ブール演算子などの高度な情報検索技法は用いない,(2)ウェブ上の情報の形式は理解している,(3)検索語の選定に対する意識は高い,(4)一定の評価方針のもとに複数の検索結果を閲覧する,(5)インターネットから恩恵を受けていると感じている,ことが明らかになった。階層的クラスタリングにより回答者を8 クラスタに分割し,高い情報検索スキルを持つクラスタを特定した。この高能力者群は,比較的若く,男性が多く,学歴が高く,批判的思考能力と自己認識が高かった。高能力者群は全てのスキルの平均得点が最も高いが,検索技法に関するスキルのみ得点は大幅に低かった。 "検索技法に関するスキルのみ得点は大幅に低かった。"ここ面白いなmtane0412.icon
検索サービスが有料で提供されるようになり、検索の費用を抑える必要が生じた結果生まれた
主流がウェブページの検索に移ると情報検索の利用者層は一変
利用者が偏在していることが従来とは大きく異なる(Chowdhury)
それまでの文献検索では、利用者は特定のコミュニティに属していて、共通の関心を有し、同じような探索行動をとっていた
ウェブの検索では、こうしたコミュニティは存在しないという主張
音響カプラと電話機の接続、端末装置の起動、ネットワークへの接続、検索サービスの選択、利用者のIDとパスワードの投入、データベースの選択
主題知識とは別に情報検索に関する専門的な能力が存在することは初期の段階から認識されてきた
検索演算子や部分一致、フィールド指定、シソーラスなどの検索言語、精度や再現率などの検索性能の尺度
逸村と種市は、一連の検索実験の結果から、典型的な情報探索行動のパターンとして以下の点を挙げている
2語程度の検索語を使い、検索結果は最初の1, 2ページしか確認しない
結果の評価の見極めは短時間で、結果の上位に表示されたものを選ぶ
結果の選別は視覚的要素と経験に頼り、コンテンツの質的評価は行わない
これらは他の研究でも指摘されてきた
大学生らはウェブ検索を頻繁に行っていても、適切な情報を入手する情報検索スキルを持たないとされてきた
情報探索行動の特性を特に認知的な観点から研究
Kinleyらは、個人の認知スタイルの傾向による検索行動の違いを4観点からモデル化
他の研究でも、経験者と熟練者では、情報探索行動の認知やメタ認知に差がある 両者にパフォーマンスに差はないが検索戦略を利用するかどうかには有意な差がある
日本でも、情報探索行動時の認知プロセスの特徴を調べた研究や、タスク種別やユーザの違いによって探索行動に変化が現れるのかを見た研究がある
ウェブ検索における情報検索スキルが直接問題にされることはなかった
現在の情報検索に関する教科書や入門書では、キーワードの選択、検索演算子の効果的な利用法、検索戦略、検索結果の評価などが説明されている
これらと現在のウェブ検索の実態との関係は明確とはいえない
コンピュータ利用技術に特化した、どちらかといえば専門的なスキルと捉えられてきた
高度なコンピュータ利用能力ではなく、日常生活において必要な情報を入手したり、各種手続きを行ったりするために誰にとっても身につけていることが必要なスキルとして、その習得が関心の対象となってきている
ウェブを通じて様々な行為を行うのに必要なスキル
6つのスキル
メディア関連スキル
1. 操作スキル (operational)
インターネット、ウェブを使うための基本的操作ができるか
2. ウェブ形式スキル (formal)
ウェブ独自の形式を理解し、使えているか
内容関連スキル
3. 探索スキル (information)
適切な検索後の選択、手法・手順の選択、結果の評価ができるか
4. 戦略スキル (strategy)
インターネットを使うことで、経済的、社会的便益を受けられるか
5. コミュニケーションスキル
電子メール、チャット、ツイッターが使えるか
6. コンテンツ作成スキル
ウェブサイト・ブログを更新したり、音楽や動画などを作成したりしてアップロードすることができるか
5と6は研究の後半に追加された
van Deursenらのデジタルスキルに影響する要因
306名の課題得点と影響すると考えられる性別、年齢、教育レベル、インターネット経験、利用時間という5つの要因との関係を構造方程式モデリングで分析
より多くのデジタルスキルを測定するための質問紙に用いる質問項目20を見出した
日本においては、大規模な実験例は乏しい
福島らは、高校生232名、大学生114名を対象に10問の課題に回答させる実験を行った
優れた情報検索に必要なのは
適切なキーワードを抽出、案出する力
正解にいたる道筋を推測するプランニング能力
結果の検証などの情報検索の心構え
デジタルスキルに影響する要因
年齢
van Deursen
年齢が低くなるほどメディア関連スキルは高くなった
年齢が高くなるほど内容関連スキルは高得点となる傾向
教育レベルと社会的地位
van Deursenらの研究において、上記2つのグループに分けられたスキルのいずれにも影響があったのは教育レベル
本人の教育レベル以外で、社会経済的地位を測定する因子は研究者によって異なっており、その影響がある・なしも一定した傾向は見られない
性別
Bunzは性別に有意な差は存在しないとしている
性別で差があるという研究も多い
GuiとArgentinはインターネットの「理論的」なスキルに関してのみ男性は女性より能力が高いと報告している
福島らの高校生と大学生を対象とした調査では、実験によって示された検索得点は女性が有意に低かった
Harggitaiの大学1年生対象の調査では、女性はスキルのスコアも低く、ウェブの使い方の範囲も狭く、利用時間も少ないという結果だった
インターネットの利用経験、利用時間
Hargittaiはインターネットを使うほど利用法により熟練するとした
van Deursenらの一連の研究によれば経験年数、利用時間はほとんど影響していなかった
福島らの調査では、高校生の場合には、PC利用時間や環境は検索得点に影響したが、大学生ではその影響はなくなっていた
批判的思考能力
van Deursenらの研究で最も強く影響のあった教育レベルは、この批判的思考能力を間接的に反映している可能性が考えられる
高度な情報検索スキルを持つ人々の特徴
年齢、性別、学歴に有意差が見られた
18-29の割合が最も高い
男性の割合が高い
比較的高学歴の集団
インターネットの利用頻度、利用歴、教育経験に関して有意差が見られなかった
自己認識と批判的思考能力に関してはいずれも有意差あり
批判的思考能力を4つの区分に分けた場合でも、「探究心」以外の「客観性」、「証拠の重視」、「論理的思考への自覚」において有意差が見られた 高能力者群は自己認識と批判的思考能力が比較的高い
考察
回答結果から
1. 高度な検索技法を使っていない
2. 多くの回答者がウェブ上の情報の形式や見方を理解している
3. 具体的な語を使ったり、2つ以上の検索語を組み合わせて検索している
4. 検索結果を評価する際には、一定の方針を持った上で、複数の検索結果を閲覧する
5. インターネットで検索を行うことが日常生活における意思決定に繋がりそこから恩恵を受けていると感じる
いずれの情報検索スキルもよく使う高能力者群においても「検索技法」に関しては利用が非常に低かった
これらの技法を使う必要がない