考える力学
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兵頭 俊夫
本書で学ぶ力学は,身近な物体や遥かな天体の運動を,ニュートンの運動方程式を基礎として理解する学問である.
ニュートンの運動方程式は単純な微分方程式であるが,その理解と応用のためには何段ものステップを踏まなければならないと思われている.しかし実際はそうでなく,力学はもっと単純な構造をしている.そのことを示すことが,本書の執筆の主な動機であった.あたかもニュートンの運動方程式に軸足を置いたままで,片足を半歩あるいは一歩だけ,いろいろな方向に踏み出すことによって,物体の運動をさまざまな切り口から見る視界が開けることを示したい.
すべての章の記述を,ニュートンの運動方程式との関係を明確にしながら,初学者でも無理なく読み進むことができるように,丁寧に書いた.必要な数学も本書の中で解説した.書名を「考える力学」としたが,これは,本書の記述を苦労して考えながら読んで欲しいという意味ではない.学問をするために必要な最小限の努力と忍耐力以上のものは要求していない.むしろ,本書の論理をスムーズに理解しながら,ふと生じる疑問を,基本法則に基づいた自らの思考で解決する意欲と力を養って欲しいという意味である.そのような疑問は,読者各自の経験に基づいた個人的な疑問のはずである.その疑問を大切にし,無理にわかったことにしたり妥協したりせず,時間をかけて考え,心から納得する喜びを味わって欲しい.
読者の便利のために,表記の工夫をした.
重要な式には網掛けをした.
その式が法則であるか定義であるかを区別した.
物理学で用いられる式に現れる等号=には,大ざっぱにいって4つの種類がある
この場合,その左辺と右辺が等しいことは実験によってしか証明できない.とくに基本法則はそうである
第2は定義の等号である.これは,理論の展開の中で生じてくる物理学上有用な新しい概念を表す等号である. 通常,右辺は2つ以上の概念の演算の形で書かれ,左辺はそれをまとめて表す記号(通常アルファベット)が書かれる.
:=みたいなものか
関係式とも呼ばれる.
数値計算の途中の等号もこれに含まれる.
本書では,基本法則はニュートンの3法則のみであることを強調しつつ,基本法則から直接導かれる法則も式に(法則)の文字を付し,定義式には(定義)の文字を付した.
また,重要な概念は初出の場所で強調文字にした.重要な結論も強調文字にしたが,結論のすべてをそうしたわけではない.さらに,説明の途中で,見落とすとわけがわからなくなる条件やただし書きに,アンダーラインをつけて注意を喚起した.
囲み記事は本文に関連する話題について書いた.題材は,学生諸君からの質問や,著者がスポーツをしたり見たりしているときに考えたことから選んだ.本文とは独立に読むこともできるが,本文に密着した部分も多いので,本文の理解が進んでから再度読まれることをおすすめする.
1. 運動の法則と基本概念
§1.1 はじめに
§1.2 力学で使う数学の基礎 (1) ベクトル
§1.3 座標
§1.4 力学で使う数学の基礎 (2) 微分
§1.5 運動の法則
演習問題1
2. 力と運動
§2.1 慣性質量
§2.2 等加速度運動
§2.3 物理量の次元と単位
§2.4 力の合成
§2.5 地表付近での物体の運動
§2.6 地表付近の重力と万有引力
演習問題2
3. 運動量と力積
§3.1 力学で使う数学の基礎 (3) 積分
§3.2 運動量
§3.3 力積
§3.4 種々の力
演習問題3
4. 運動方程式の解法
§4.2 力学で使う数学の基礎 (4) 指数関数と線形常微分方程式の解法
§4.3 等加速度運動と単振動への応用
§4.4 速度に比例する抵抗がある場合の落下運動
演習問題4
5. 仕事とエネルギー
§5.1 仕事と仕事率
§5.2 運動エネルギー
§5.3 保存力とポテンシャルエネルギー
§5.4 保存力の例
§5.5 力学的エネルギーの保存則
§5.6 保存力とポテンシャルエネルギーの微分関係
§5.7 ポテンシャルから保存力を求める
油習問題5
6. 極座標による記述
§6.1 極座標
§6.2 2次元ベクトルの極座標成分
§6.3 2次元極座標による運動の記述
§6.4 万有引力のポテンシャル
§6.5 球対称の質量分布からの万有引力
演習問題6
7. 角運動量
§7.1 力学で使う数学の基礎 (6) ベクトルの外積(ベクトル積)
§7.2 角運動量
§7.3 中心力と面積速度一定の法則
演習問題7
8. 座標系の相対運動 (1)-並進運動
§8.1 座標系とその相対運動
§8.2 慣性系に対して等速直線運動をしている座標系
§8.3 運動の軌跡・運動量・運動エネルギー
§8.4 投げ技とリフト
§8.5 慣性系に対して並進加速度運動をしている座標系
§8.6 重力の不思議
演習問題8
9. 座標系の相対運動 (2)-回転運動
§9.1 角速度を表すベクトル
§9.2 ベクトルの回転
§9.3 慣性系に対して回転している座標系
§9.4 遠心力とコリオリ力
§9.5 遠心力とコリオリ力の座標表示
§9.6 回転座標系での運動の記述の例
演習問題9
10. 2体問題
§10.1 2体系の全質量と換算質量
§10.2 2体系の運動量,運動エネルギー,角運動量
§10.3 惑星の運動
§10.4 衝突現象
§10.5 実験室系と重心系
§10.6 2個のコインの衝突
演習問題10
11. 質点系と剛体
§11.1 質量中心の運動
§11.2 質点系の全運動量
§11.3 質点系の全角運動量
§11.4 質点系の全運動エネルギー
§11.5 2体問題の扱いとの比較
§11.6 連続体
§11.7 連続体に対する表式
§11.8 剛体の運動
§11.9 力のモーメント
§11.10 固定軸をもつ剛体の運動
§11.11 慣性モーメントと回転半径
§11.12 慣性モーメントの例
演習間題11
12. 剛体の運動の例
§12.1 実体振り子
§12.2 剛体の平面運動
§12.3 打撃の中心
§12.4 バットを振る
§12.5 回転体の運動
§12.6 剛体の一般的な回転運動について
§12.7 応用上の注意
演習問題12
13. 解析力学
この章はしかたのないことだがかけあしらしい
§13.1 仮想仕事の原理
§13.2 ダランベールの原理
§13.3 ラグランジュの運動方程式の導出 その1
§13.4 変分原理
§13.5 ハミルトンの原理
§13.6 ラグランジュの運動方程式の導出 その2
§13.7 一般化座標と一般化力
§13.8 一般化座標で表したラグランジュの運動方程式
§13.9 ラグランジュの運動方程式の応用
§13.10 ハミルトンの正準方程式
演習問題13
付録A 角度と三角関数
付録B 指数関数と対数関数
付録C ギリシャ文字
演習問題の解答
索引