移民排斥の問題点
トランプ政権の反移民政策は、経済的にも財政的にも医療的にも在来アメリカ人に害をもたらす
トランプ政権下での雇用増加数が前年比で約90万人も落ち込んでいる。月次の数字は統計ノイズが大きくて信頼性が低いが、年間ベースで見ると雇用市場はほぼ完全停滞状態にある。伸びているのは医療・社会福祉だけで、製造業はむしろ減少。「男らしい仕事を取り戻す」という約束はどこへ行ったのか。
雇用停滞の言い訳としてNEC委員長ハセットとナバロ通商顧問が持ち出したのが「大規模強制送還のせい」という話。これが実は自爆発言で、「移民が仕事を奪っている」という大前提を自分たちで否定してしまっている。移民を排除したら雇用が減ったということは、移民は仕事を奪うのではなく、むしろ雇用を創出していたということだ。
ナバロは「バイデン政権の雇用増はすべて不法移民が取った」とか「数百万人の不法移民を強制送還した」とか言っているが、これはただの嘘。ICEが実際に逮捕したのは約39万人で、ネイティブ生まれのアメリカ人の失業率はバイデン時代には下がっていた事実もある。
移民排除が在来アメリカ人にとって有害な理由の第一は人口動態。アメリカの労働年齢人口は移住者なしだとすでに日本型の減少局面に入っていた。CBO(議会予算局)の最新財政見通しはここ1年で大幅に悪化しており、その一因が移民減少の影響を織り込んだからだ。社会保障・メディケアの財源を誰が担うのかという問題が急浮上する。 第二の理由は補完性。移民労働者はネイティブ労働者の代替ではなく補完。農業・食肉加工・建設・医療といった特定セクターに集中しており、そこではネイティブ労働者との競合ではなく、サービスの供給量増・価格低下に貢献している。特に医療分野では深刻な人手不足の中で移民が不可欠な役割を担っている。 学術研究(Grabowski・Gruber・McGarry)によると、移民1000人が増えると看護師49人・医師補助28人・医師19人が追加雇用される。逆に言えば、ミラーが目標とする年100万人の強制送還ペースでいくと、アメリカのシニアの超過死亡が年間約1万5000人増えるという試算になる。移民排除政策は単なる道徳・人権上の問題ではなく、文字どおりアメリカ人を早死にさせる政策だ。