無料の幻想
「○○は無料なのはなぜ?」という人のための文章
結論:別のところで儲けてるからできる
Q. なぜ赤字でもいいのか?
A. いくつかのパターンがある
1. いつか黒字になるのを見込んでいる(投資)
2. それ自体は赤字だが、それが黒地になる別の仕事を呼ぶ宣伝になると信じている(サービス全体で見た時に黒字になる設計)
前提:サービスを提供するにはお金がかかる
働いている人には当たり前のことですが、働くまでは当たり前に思えないのが、企業のお金の使い方です。なので、ここからいきます。
人に何らかのサービスを提供するにはお金がかかります。なぜか考えてみましょう。
いま人間が雇用されている仕事では、まだロボットが人間にとってかわっていないので、裏側に人間が働いています。
その人達はその仕事でご飯を食べていかなければいけませんから、人件費が発生します。
いくらぐらいかかるでしょうか?2018年現在、大卒初任給の給与が額面でだいたい20万円ぐらいです。それに加えて会社は次のような費用を支払っています
その人の働く環境を整えるための費用
光熱費やオフィスの設備(例えばPCとか)を整えるなどの費用
福利厚生
健康保険や年金などの社会保障
社内向けのご飯の割引
ざっくり大卒1人を雇うと、月々60万円程度の費用がかかります。
これは継続してフルタイムで協力してくれる仲間(正社員)を雇うという意味では、会社から見ると一番安い費用で、熟練したプロフェッショナルを雇うと当然ですがもっと高いです。
これらの費用は、企業が収益を出していなくても、なにもしていなくてもかかります
固定で出ていくので「固定費」といったりします
余談ですが、企業は、この人件費を抑えるために機械による自動化をしたり、必要な時以外だけ人を雇うためにバイトを雇ったりします。
ここまでは企業から見た「人」を雇うコストでした。これに加えて、生業としているサービスに必要な費用がかかります
サービスによって異なりますが、次のようなものです
飲食店なら、原材料費、加工費、広告費、施設の維持費など
Webサービスなら、サーバー代、通信費、プラットフォーマー(App StoreやGoogle Playストア)のマージン、広告費など
サービスの例:YouTube、Twitch、AbemaTV、ニコニコ動画、OPENREC、Mirrativなど
小売店なら、仕入れ、在庫管理(倉庫に大量のものを置いていることを想像してください)、配送費など
サービスの例:Amazon、ヨドバシカメラなど
このように、サービスを運営するにはお金がかかります
もちろん、お金がなくなったらサービスを運営することはできません
実際には、後述する先行投資の観点から、借金をして運営することはできます
新興の事業では珍しいことではありません
ずっと赤字のまま採算を取る目算もないという状況は続けられません
人件費が払えなくなったらどうでしょう?給与が払われないのにお仕事を手伝ってくれる人はいませんし、そんな状態は不健全です
こうして会社は潰れ、サービスはなくなります
また、サービスは大きくなるにつれて、人が足りなくなりますから、そうなることを見込んで人を増やさないと困ったことになります
お客さんの要求するスピードについていかなかったり
新規開発が滞ったり
そうすると、固定費は増えていきます。
もっと興味のある人向けのTips
各企業が具体的にこれらにどのようなお金を使っているかを知りたい場合には、上場している場合には財務諸表を見てみるとよいです。企業はこれを開示することが法律で決まっています。
「無料」の作り方
ここまでで、サービスを提供するにはお金がかかることがわかりました。
では、本題。「なぜあのサービスは無料」なんでしょうか?
具体的にいきましょう。Netflixは月額1000円かかるのに、YouTubeやAbemaTVは無料で動画を見ることができます。なぜでしょう?
それは、「トータルで見て黒字になればいい」という考え方で見ていくと理解しやすいです
その企業は一体何で利益をあげているかみていきましょう
Netflix:月額課金モデル
まずわかりやすく有料のサービスからみていきましょう。
Netflixの主な収益源は月額のサブスクリプションです。これはわかりすいでしょう。
Netflixは、集めたお金で、コンテンツを配給している会社から配信する権利を買ったり、自社でコンテンツを作成してコンテンツを全世界に届けています。これが結構な割合を占めています。
また、インターネットを経由して動画の配信を行っているので、通信費も馬鹿になりません。
2018年のSandvineの調査によれば、Netflixは全世界の下りのトラフィックのうち15%を占めています。
https://gyazo.com/efe47cc09682875c440bf85c4281a8dc
Netflixは独自でこの配信インフラを持っているわけではなく、AmazonのAWSを利用しています。この利用料もかさんでいるはずです。
余談。とはいえNetflixはテック企業であり、大量のエンジニアを雇用しています。動画配信の最適化(やればやるほど配信コストを下げられる)や、機械学習によるレコメンデーションなどにも取り組んでいます
Youtube:広告、低いコンテンツ制作費、自社のつよつよインフラ
Netflixは月額課金でした。YouTubeはなぜ無料で動画を配信できているのでしょうか?
YouTubeの主な収益源は広告です。あなたが動画を再生するときに入るあの広告は、広告主がYouTubeの経営母体であるGoogleにお金を払って出しています。
Googleの親会社のAlphabetの収入の9割は広告です。Googleは広告が得意です。
余談:広告モデルをとるということは、収益化できるコンテンツにある程度制約がかかるということです(広告主の考えを想像してみるとわかる)
例えばあなたのGmailに広告が掲載されていますが、それが自分の興味があったり、自分が受け取ったメールの内容に近かったりするはずです。
あなたの検索履歴などからあなたの興味がわかります。あなたがどのような人なのかわかれば、どのような広告が効果があるのかもわかります。Googleはメールも、検索履歴も、位置情報も知っています。そのような情報を利用して、多数の広告主が出す広告から、最も適切なものをあなたに提示します。
YouTubeの場合、Netflixとは違って映画が無料で配信されているわけではありません(なかにはそういうものもあるでしょうけど)。
YouTubeは動画を作りたい人がアップロードするサイトです。クリエイターにお金を渡す仕組みもありますが、ハリウッドからコンテンツの配信権を買っているわけではありません。なので、コンテンツの制作費が比較的安いことは明白です。
一方で不特定多数の人が見るので、配信コストは高くついているでしょう。ここにもインターネットの巨人であるGoogleが運営するメリットがあります。
上述のSandvineの調査によれば、APACでのGoogleのトラフィックは40%を占めています。これだけのトラフィックをさばける異次元のインフラを持っているため、YouTubeのような大規模サービスを自社でもてるのです。
そんなYouTubeも現時点でどれ位黒なのかはよくわかりません。少なくとも始めてから十年弱の間は赤字で運営していたと言われています。
どうしてそんなことをしたのでしょうか?それは、投資です。
動画サイトがもしYouTubeだけになれば、Googleはもっと広告をのせて、そもそも選択肢がないのでYouTubeを見るほかなくなります(独占状態)。現に、もう動画といえばYouTubeというパブリックイメージはかなり固いものになっていると個人的には思います。
AbemaTV:先行投資
現在進行系で投資をしている例があります。AbemaTVです。
前の2つの例と比べるとスケールがだいぶ小さいですが、国内では野心的なプロジェクトです。
AbemaTVは自体はいまは年に200億円程度赤字です。その赤字をソーシャルゲームや広告の利益で補填しています
余談。200億円という数字はどのようなものかというと、地上波が1000億円ぐらいなので1/5ぐらい。ただしAbemaTVはチャンネルが複数個あるので、一つの番組制作費ではもっと小さくなるという感じです。
どうしてこんなことをするのでしょうか?それは、前述の通り先行投資です。つまり、今は稼げないけれど、未来には稼げるという考えがあります。
もしみんながAbemaTVを見るようになれば、プレミアム会員費やCMで黒字になるかもしれません。
ネットサービスは、受け手が多ければ多いほど一人当たりにかかるコストを削れる(スケールメリットがある)ように設計できます。たくさんの人を集めれば、お金を稼ぐチャンスです。そのためにはもっと多くの人に見て貰う必要があります。
広告主としてみれば、人々にみてもらえないメディアに高い広告費はだせません
なので、今後人を集められる自信があり、あとから回収できるので、いまは赤字垂れ流しでもいいと判断しているのです。これが投資という意味です。
一方で、いつまでも赤字というわけにもいかないので、投資期がおわり、回収期に入ったら、利用者から見ると「無料だったのに有料化した」「広告が増えた」というふうな施策がどんどん出てきます
YouTubeも一昔前より広告が多いと感じます