情動的なメッセージは行動を促す
情動的なメッセージは行動を促す
研究は,情動的メッセージと反すう思考による説得プロセスを検証した。大学生 277 名が
情動的なエピ ソードによって死刑制度の必要性を訴える情動的メッセージ,
あるいは客観的な報告によってこれを訴える 客観的メッセージ
を提示された。その後,実験参加者は態度評定に先立って,
死刑制度に対する考えを記述 するか(反すう思考群), 死刑制度と無関連な事柄について記述するか(反すう妨害群),
あるいは直ちに態 度評定を行った(直後評定群)。
その結果,死刑制度に関する反すう思考は,情動的メッセージ群においての み,態度変化を促進した。
さらに,パス解析によると,
情動的メッセージ群では情動的な思考によって態度 変化が媒介されていたのに対し,
客観的メッセージ群では認知的な思考によって媒介されていた。
情動的メッ セージの内容に関する反すう思考が態度変化を促進するメカニズムが議論された。
本研究では情動的メッセージのもたらす情動が,活発な思考活動を通じて,情動を帯びた情動的な思考をもた らすことによって態度を導くプロセスが明らかになった。
感情の最も重要な機能は人を動機づけることに ある(Frijda, 1986) 本研究では実験参加者に思考課題を 与えることによって反すう思考を促したが,我々は現実 の説得事態において,しばしば自発的な反すうを行う。 感情にはこのような思考活動を動機づける働きがあると考えられる(Frijda & Mesquita, 2000)。 それは例えば,人 と言い争いをして腹立たしい思いをした後,そのことを 幾度も思い返すといった事態に認めることができる。
これと同じように,情動的メッセージがもたらす情動は説 得話題に対する受け手の注意や関心を呼び起こし,持続 的な思考を展開することを促すのではないかと考えられ る。
このような情動の機能を踏まえると,情動的メッセー ジによる説得プロセスには,
感情が思考を促し,色づけ,
その思考がさらに感情に働きかける
といった相互作用的 な構造(唐沢,2001)を見出すことができよう。
私たち が保持する考えの中には,およそ信じて疑うことがなく, 反論があればそれに論駁し,時には他者と争ってまで守 ろうとするほどの強固な態度(Kronsnick & Petty, 1995) となっているものがあるが,そこには多くの場合,感情 的な要素が深く与ると考えられている(e.g., Frijda & Mesquita, 2000)。情
動的メッセージと反すう的思考によ る相互作用には,このような感情的な信念を生み出す力 があるのかもしれない。