加藤直人氏の考え方
加藤:「cluster」でもこれまで音楽コンサートや握手会など、さまざまなイベントを催してきましたが、人が集まる場所には、どうしてそこに集まるのかという「ストーリー」が重要になってきます。
その意味で「渋谷」という街のもつ歴史や背景のインパクトは大きく、人が集まるためのワードとしてはものすごく強い。つまり、「ストーリー」が連なることで「ヒストリー」になっている。
たとえば音楽イベントをやるにしても「渋谷のスクランブル交差点でゲリラライブをやるぞ」となれば、まったくの仮想空間よりも興味を惹かれる度合いが違います。
基素.iconこの感覚が自分には全然ない。渋谷という街、あるいは街そのものに愛着がある人間以外にはわからないのではないか?
加藤:興味深いのが、私どももこれまでさまざまなバーチャルコンサートを行って来ましたが、普通の動画配信よりもアイテム課金のパーセンテージがはるかに高いんです。
これはリアル空間でコンサートに行くとなぜか気持ちが高まって3,000円のタオルや5,000円のTシャツを買ってしまうように、バーチャル空間でも同じような現象が起きていると言えます。
インターネットにおいて購買活動というものは抽象化されているのですごく難しいのですが、バーチャル空間がそのブーストになり得ると私どもは考えています。
やっぱり人は「体験」を求めてどこかに集まるでしょう。そんなとき、バーチャル空間において必要になっていくのは「インタラクティブ性」といかに「他者」を感じられるかどうか。
体験がインタラクティブ性と他者性に還元されている
インタラクティブ性も他者性もない体験もある(窓辺で雨を見ながらコーヒーを飲みつつ音楽を聞く体験とか)が、そういうのはあまり関係ないという考え方?
加藤:ええ(笑)。たとえばcluster(クラスター)で昨年行ったあるコンサートでは、時間の経過とともに足元から水がせり上がって海のなかに沈みながら音楽を聴くという演出を行い、多くのユーザーに楽しんでいただきました。
これは現実世界で味わうことがまず不可能な体験であり、その意味で未来のエンターテイメントにおいて必要なものは、全身で感じられる「体感性」と、それをみんなで楽しめる「一体感」だと思うんです。
もうひとつ重要になっていくのが、「個人」で作れるエンターテイメントの存在です。
今までは「妄想」として片づけられていた個人のアイデアも、テクノロジーの発達によってデジタル上で実現出来るようになりつつあります。そんな流れのなか、ひとりひとりのユーザーやクリエイターが担う役割はもっと大きくなっていくでしょうし、そこから生まれるものもきっとある。