ファイナンス思考
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ファイナンス思考――日本企業を蝕む病と、再生の戦略論
2018
本書の特徴と伝えたいこと
両者は投資家(会社に投資をして、リターンを得る立場)と企業(投資家からの資金を受けて、リターンを返す立場)という、立場の異なるプレーヤーからの視点で会社の活動をとらえるものであり、表裏一体の関係にあります。
本書で述べる「ファイナンス」とは、後者の「corporate finance」を指します。主に会社側の立ち位置からファイナンス的なモノの見方を提示するのが、本書の特徴です。 また本書の目的は、ファイナンスの「理論」や「知識」を事細かく解説することではありません。 ファイナンスを扱う土台となる「思考」を紐解くことに力点を置いています。 財務の担当者でもない一般のビジネスパーソンにとっては、詳細なテクニックよりも、実務に反映し得る考え方こそが重要であると思うからです。
この点で本書は、ファイナンスにまったく縁のなかった初心者、一定のファイナンス知識を有する中級者の双方にとって、意味のある内容となることを心がけています。
本文の内容自体は最低限のファイナンスの予備知識を有していることを前提に書かれていますが、初心者の方は、巻末の特別付録「会計とファイナンスの基礎とポイント」を先にお読みいただくことで、理解を進められるでしょう。また、ややもすると曖昧で多義的な アイナンス」という言葉を、本書では以下の4点に分類し、構造化して定義づけています。
会社の企業価値を最大化するために、
A 事業に必要なお金を外部から最適なバランスと条件で調達し、外部からの資金調達)
B 既存の事業・資産から最大限にお金を創出し、資金の創出)
C 築いた資産 (お金を含む)を事業構築のための新規投資や株主・債権者への還元に最適に分配し、(資産の最適配分)
D その経緯の合理性と意思をステークホルダーに説明する(ステークホルダー・コミュニケーション)
という一連の活動
金融業界のプロフェッショナルの方々やアカデミックな観点からすれば、単純化しすぎた乱暴な整理に思われるかもしれません。しかしながら、ファイナンスの初心者・中級者が、「ファイナンス思考」のエッセンスをつかむうえでは、この水準の整理が必要十分であり、これ以上の情報量はノイズになると思います。
よりファイナンスの知識、理論について理解を深めたい読者の方には、本書中でご紹介する関連書にあたっていただければ幸いです。
目次
はじめに
目次
第1章 PL脳に侵された日本の会社とビジネスパーソン
日本に巣食う 「PL脳」とは何か
PL脳に代わって身につけたい発想法
プロジェクト的な発想で生まれた 「会社」
一転、上場会社が求められる「永続性」
会社は3つの市場に評価される
ヒト・モノも「お金」で測られる
会社の戦略の組み立て方を知る
米国のGAFA成功の裏には共通項がある
成長を阻むPL脳の弊害
PLは「作れる」
売上を多く見せる
利益をかさ上げする
各社の判断に委ねられるグレーゾーン
PL脳の行動パターン① 黒字事業の売却をためらう
PL脳の行動パターン② 時間的価値を加味しない
PL脳の行動パターン④ 事業特有の時間感覚を勘案しない
PL脳の行動パターン ⑤ 事業特有のリスクを勘案しない
第2章 ファイナンス思考なくして日本からアマゾンは生まれない
「ファイナンス思考」とは何か
ファイナンス思考の特徴① 評価軸
ファイナンス思考の特徴 ② 時間軸
ファイナンス思考の特徴③ 経営アプローチ
ファイナンスの4つの側面
ファイナンスは全業務に紐づく
経営の3段階に応じたファイナンス
低成長時代にこそ必要なファイナンス思考
変化に対応する不確実性のマネジメント
「現在地」でなく「目的地」を知るための考え方
第3章 ファイナンス思考を活かした経営
Amazon: 赤字、無配続きでも、積極投資を可能にしたIR 資金調達の絶妙な使い分け
果敢な投資実績
海外展開を見すえ、ガバナンスを改革
過去には失敗も多かったM&A歴
目利き力と長期的な視点で、実現したインディード買収
カニバリズムを恐れぬ姿勢
ユニット経営を買収先にも活用
M&A、成長投資で海外事業も順調に拡大
資源配分や管理手法も見直し
事業の合理化も断行
関西ペイント: 資本力と地道なIRで、自動車1本足打法から脱却 BtoBとBtoC両立への挑戦
脱フィルム事業の苦難
日立製作所: "ラストマン" の下、不退転の構造改革を断行 グループ経営最適化を模索してきた歴史
史上最大の赤字から、聖域なき改革へ
バトンタッチした中西社長が進めたグループ内外の再編
第4章 PL脳に侵された会社の症例と末路
売上至上主義の3つの原因
携帯端末競争で総崩れとなった日本勢
ダイエーの「売上はすべてを癒す」は今は昔か?
「営業利益」をかさ上げする
日本企業が買収先を探すときの悪いクセ
日本企業で珍しくのれん償却を恐れないサントリー
なんとしても守りたくなる 「最終利益」
column 伊藤忠vs グラウカス
運転資本の増加は黄信号
子会社管理が甘くなる
その事業は自社の価値向上に貢献するのか?
シャープの液晶テレビ関連事業の過大投資
日立のハードディスク事業売却
5 つい目の前の見栄えが気になる「短期主義」
東芝のPC事業にみる不正会計問題
短期主義を避けるためのMBO
事業ポートフォリオ再編をめざすデル
大型設備投資のため実施したUSJ
第5章 なぜPL脳に陥ってしまうのか
1. 高度経済成長期の成功体験が染みついている
ネズミ講に似た日本的経営
バブル崩壊で迎えた行き詰まり
4 PLのシンプルなわかりやすさ
5 企業情報の開示ルール
6 メディアがあおる影響
おわりに
特別付録 これだけは押さえておきたい! 会計とファイナンスの基礎とポイント
1 会計の基礎
2 ファイナンスの基礎