ドル体制の崩壊
これで、いくつかの対米依存度の高い国々は、通貨切り下げに少しずつ動くのではなかろうか。自国通貨を切り下げれば、関税率の負担をいくらか軽減できる。代償として、輸入価格が上昇することは甘受する。こうした流れは、日本にも、緩和的な金融環境を強める圧力になっていく。例えば、A国が通貨を切り下げると、日本の円は対A国通貨で円高になる。もしも、A国、B国、C国と次々に通貨切り下げを行うと、日本も同調して通貨切り下げに動く圧力が生じる。
筆者は、今まで「第二のプラザ合意プラザ合意2.0」という噂は全く現実味のないものだと思ってきた。しかし、相互関税を見て、その可能性は決してゼロではないと考えるように変わった。貿易赤字を強制的にリセットするために、高すぎるドル価値を一気に切り下げて、貿易収支の均衡を図るような荒技も、各国が次々に通貨安誘導に動いていく反応を米国がみたならば、内々に検討していく可能性もあることを警戒しておく方がよいだろう。 万一、米国がドル切り下げを実施したときは、各国は通貨高に向かい、それこそ対米輸出価格の引き上げを一気に進めることを強いられる。米国は輸入物価が相互関税分以外の要因で上がることになる。米国にはインフレ要因だ。そして、各国がドルを保有する誘因を失い、その代わりにドル保有リスクを意識するようになる。これこそ、米国のドル体制が崩壊する悪魔的な選択になる。