トランプはトランプ・ファミリーのために政治をしている
「3000〜5000万バレルの石油を手に入れた」とか言ってるが、市場価値にして約20億ドル、米国GDPの0.01%以下、国内消費量たったの2日分。「大勝利」と騒ぐような話じゃない。そもそもトランプの「外国政府が約束してくれた」系の話は、後で蒸発することで定評がある。
問題は「誰のカネになるか」だ。 トランプ本人が「その売却益は俺がコントロールする」と言い放った。国家にとっちゃ端金でも、特定の人間の懐に入るなら十分でかい。これが本質。
政治学者の分析が鋭い。 GoddardとNewmanという研究者が「ネオ王政論」を提唱。トランプ外交は「米国の国益」なんかとは無関係で、16世紀のハプスブルク家やヴァロワ朝みたいな王朝間の権力・利益争いに先祖返りしているという話。現代の国民国家的な外交観で読もうとするから意味不明になる。
Sonnet 4.6.icon一言で言えば: トランプ外交を「壊れた国益外交」として嘆くのは見当違いで、あれは16世紀型の王朝外交として完璧に機能しているのだという、よくできた理論枠組みの論文。政策担当者から見れば「なんと不愉快な話だ」だが、説明力は高い。 論文の問題意識
トランプ外交はウェストファリア体制への回帰(主権国家同士のリアルポリティクス)で説明しようとする議論が多いが、それじゃ全然説明できないことだらけだ。なぜ長年の同盟国カナダやデンマークをいじめ、ロシアや中国とは取引しようとするのか? 国益ベースの論理で読もうとするから訳がわからなくなる。
ネオ王政論の核心:行為者が「国家」ではなく「クリーク」だ
国際関係の主役は「ウェストファリア的な主権国家」ではなく、絶対的支配者を中心とした小規模・排他的な個人ネットワーク=**クリーク(royalist clique)**だという話。チンギス・ハンの秩序、ヨーロッパ王朝体制、ムガル帝国など、歴史を見ればむしろ「国家」が例外で、こういうクリーク支配の方が普通だった。
ウェストファリア国家が「領土に基づく水平的な権力集中」なのに対し、クリークは「個人的忠誠と人脈に基づく垂直的な権力集中」。ハプスブルク家とフッガー家(銀行)の関係がその典型。トランプ一族、マスク、サウジ王家、プーチンの仲間たち……これが現代版クリークだ。
目的:「主権平等」を捨てて「恒久的ヒエラルキー」を作る
ウェストファリア体制もリベラル国際秩序(LIO)も、建前上は国家の主権平等を認めている。ネオ王政秩序はこれを根底から否定する。秩序の目的はクリークが物質的・象徴的支配を維持し続けることであり、対等な主権国家などというフィクションは邪魔なだけだ。
「大クリーク」同士はピアとして認め合うが、それ以外は不平等な下位存在扱い。カナダやEUが冷遇されて、プーチンやサウジ王家が優遇される理由はここにある。
手段:ルールではなく「レント(貢物)と賄賂」で秩序を維持する
LIOは国際制度とルールで協調を図ったが、ネオ王政秩序における国際協調はマフィアの用心棒代や保護料に近い。威圧・インナーサークルへのアクセス約束・ステータス承認を使って服従を引き出す。
重要なのは「自己利益のための搾取」にとどまらず、クリークの政治的支配を永続させるために国内外の周縁から富を吸い上げるという点。欧州の王朝も国際的な取引でクリークを太らせた結果、自国民が貧しくなることは気にしなかった。まったく同じ構造だ。
正統性:「公共財の提供」ではなく「例外性の物語」で支配を正当化する
ウェストファリア/LIOは「安全保障・繁栄という公共財を提供するから支配者たる資格がある」という論理で正統性を調達する。ネオ王政は違う。自分たちが特別な存在だから支配する権利がある、という「例外性の物語」で正統化する。
歴史的には「神聖な血統=王権神授説」だったが、現代版は複数ある。トランプは「神に救われた指導者」という宗教的言語を使い、マスクら「テクノ楽観主義者」は「テクノロジーと資本を支配する俺たちは神に近い存在だ」という言説を使う。方向性は違っても「俺たちは普通の人間とは違う」という構造は同じ。
批判への応答と論文の射程
「ネオ王政秩序は必然ではない」と著者たちも認めている。秩序は歴史的な競争を通じて生まれるものであり、LIOに代わる秩序として定着するかどうかはまだ分からない。
ただし、これを「トランプ個人の気まぐれ」や「普通の大国政治の取引」として処理し続けると政策的に大きく見誤る。プーチンやサウジ王家の優遇、EUやカナダの冷遇は「個性的な外交スタイル」ではなく、ネオ王政秩序の論理として一貫している。
著者たちの主張は「IR(国際関係論)はウェストファリア的な眼鏡を外して、ネオ王政的秩序を正面から研究する議題を持つべきだ」というものだ。国家は比較的新しい政治形態に過ぎず、利益は「国益」ではなく「一派の利益」でありうり、ヒエラルキーはアナーキーと同じくらい普遍的でありうる、という当たり前のことを直視しろ、と。
カナダやデンマークをいじめる理由がこれで説明できる。 長年の忠実な同盟国をなぜ罵倒し、グリーンランドを奪おうとするのか?民主主義国家はトランプ一族に「みかじめ料」を払わないから。トランプが求めているのは対等な同盟国ではなく、クリークに朝貢する属国。
ベネズエラ冒険の収支が終わってる。 空母打撃群の展開で約6億ドル、1日650万ドルの継続コスト、消耗した軍事費を足せばすでに10億ドル超え。石油で得られる20億ドルとの差引きはほぼゼロ。しかも軍隊を撤収できないから毎日赤字が積み上がる。ただし軍事費は「庶民の税金」なのでトランプは気にしない。
トランプの外交を「米国の国益」というレンズで読もうとしているうちは永遠に理解できない。あれは全部、自分の自尊心を満たし、身内クリークを太らせるための私的事業だ。それ以上でも以下でもない。