「学力」の経済学
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2015
慶応大学で経済学を学び、日本銀行に入行。米国コロンビア大学に留学し、修士号を取得。日銀を退職後、世界銀行の欧州・中央アジア局で教育セクターの分析に携わる。コロンビア大学に再度留学し、教育経済学の博士号を取った。
2015年6月に出版された中室さんの著書「『学力』の経済学」は30万部を超える異例の売れ行きとなった。
例えば1970年代初期に生まれた子供を30年以上追跡した調査の結果によれば、幼少期に自制心が高いと、32歳時点で健康や経済的状況がよく、犯罪にかかわる確率が低いことが示されています。日本のデータを用いた研究としては、行動経済学者でもある大阪大学の池田新介教授の研究が有名です。 子供のころに夏休みの宿題を終わりのほうにやった人ほど、喫煙、ギャンブル、飲酒の習慣があり、借金もあって、太っている確率が高いことを示しています。つまり、宿題を先送りするような自制心のない子供は、大人になってからもさまざまなことを先送りし、禁煙や貯蓄やダイエットができないというわけです。池田先生の一連の研究をまとめた本は「自滅する選択―先延ばしで後悔しないための新しい経済学」というタイトルで、多くの人が経験的によく理解できる内容を経済学的に説明した良書です。 教育全体の話に戻すと、私は平等な資源配分に固執することはやめたほうがいいと思っています。例えば、埼玉県のデータをみると、約1000校の公立小・中学校のうち、もっとも就学援助率が高い学校では51.4%、およそ2人に1人が就学援助を受けています。逆に援助率の一番低い学校だと0.3%。このように、学校によって家庭の経済環境の異なる子供の割合に大きな差があります。こういう状況下で同じように資源配分をしたら格差は拡大していくだけです。
もくじ
第1章 他人の“成功体験”はわが子にも活かせるのか?―データは個人の経験に勝る
教育は「一億層評論家」
東大生の親の平均年収は約「1000万円」 ほか
第2章 子どもを“ご褒美”で釣ってはいけないのか?―科学的根拠に基づく子育て
目の前ににんじん」作戦を経済学的にひもとく
「テストでよい点を取ればご褒美」と「本を読んだらご褒美」―どちらが効果的? ほか
第3章 “勉強”は本当にそんなに大切なのか?―人生の成功に重要な非認知能力
幼児教育プログラムは子どもの何を変えたのか
第4章 “少人数学級”には効果があるのか?―科学的根拠なき日本の教育政策
35人か、40人か?
第5章 “いい先生”とはどんな先生なのか?―日本の教育に欠けている教員の「質」という概念
「いい先生」に出会うと人生が変わる
教員を「ご褒美」で釣ることに効果はあるのか ほか
補論 なぜ、教育に実験が必要なのか
リンゴとオレンジ:比較できない2つのもの
「反実仮想」を再現する ほか