Ethereumの価値は「グローバルな共有メモリ」
from 2026-03-17
2026-03-12 I was recently at Real World Crypto... (Vitalik Buterin) Vitalik Buterin
ぼくらはつい「Ethereumの使い道を探さなきゃ」という発想で動きがちだけど、それは順序が逆。Real World Crypto(暗号学のほうのcrypto)カンファレンスに出て、ブロックチェーンに何の思い入れもない暗号学者たちの視点から「ゼロベースで考えたらEthereumはどこで一番役に立つか?」を再導出してみたという話。
まず出てくる答えは、スマートコントラクトでも決済でもなく「公開掲示板(public bulletin board)」。安全なオンライン投票、ソフトウェアのバージョン管理、証明書の失効リストなど、暗号プロトコルの多くが「誰でも読み書きできるデータ置き場」を必要とする。計算能力は要らない、直接的にはお金すら要らない。必要なのはデータ可用性(data availability)だけ。そしてEthereumは最近PeerDASで容量を2.3倍にし、さらに10〜100倍にするロードマップがある。つまり、ここにドンピシャで刺さる。
Claude Opus 4.6.iconPeerDASのデータサイズ
ざっくり言うと、今のEthereumはブロック12秒ごとに数百KB〜1MB程度のデータを処理できるレベルで、PeerDAS+将来のスケーリングで毎ブロック数十MBまで持っていく、というのがロードマップの絵。
Ethereumのblob(データの塊)は1個あたり約128KBで、これはEIP-4844(Dencun upgrade, 2024年3月)で導入された。
Dencun時点ではブロックあたりのblob数はターゲット3個/最大6個(つまりターゲットで約384KB/最大約768KB)だった。その後Pectraアップグレードに含まれるEIP-7691でターゲット6個/最大9個に引き上げられた。
PeerDASはさらにその先のアップグレードで、Data Availability Sampling(ノードが全データをダウンロードせずにサンプリングで可用性を検証する仕組み)を導入することで、ブロックあたりのblob数を大幅に増やす。Vitalikが「2.3倍」と言っているのはPeerDAS導入時点での容量増加(具体的にはblob数がさらに増える)のことで、ロードマップ上はそこから10〜100倍を目指している。100倍になれば、ブロックあたり数百個のblob=数十MBクラスのデータ可用性を提供できる計算になる。
「ブロックチェーンがデータ置き場として実用的な容量を持つ」ということで、これまで「理論的にはできるけど高すぎる・遅すぎる」と言われていたユースケースが全部テーブルに載ってくる。Vitalikが「世間は2020〜22年のイメージのままだ」と言っているのはまさにこの話で、この方向にロードマップが進めば、ブロックチェーンの使われ方は根本的に変わる。
数十MB/ブロック(12秒ごと)のデータ可用性があると何が変わるかというと、要するにL2(ロールアップ)のコストが劇的に下がって、ブロックチェーンの使い勝手がインターネットサービスに近づく。具体的には:
ロールアップの手数料がほぼゼロに近づく。 今のロールアップ(Arbitrum、Optimism、Baseなど)のコストの大部分は、トランザクションデータをEthereumのL1に投稿する「データ掲載料」。blob容量が10〜100倍になれば、供給が需要を大きく上回るので、1トランザクションあたりのL1データコストは実質的にタダ同然になる。ユーザーから見ると「ガス代がほぼ気にならない」世界。
大量のロールアップが共存できる。 今はblob空間が限られているから、ロールアップ同士でblob枠を奪い合う構造。数十MBあれば、数百〜数千のロールアップが同時にデータを投稿しても余裕がある。アプリケーションごとに専用チェーンを立てる「appchain」モデルが現実的になる。
まさにVitalikが言っていた「公開掲示板」としての用途が爆発する。 安全なオンライン投票の投票データ、ソフトウェアの署名付きバージョン情報、証明書失効リスト、タイムスタンプ証明――これらは全部「データを公開的に置ける場所」が安くて大容量であることが前提。今の数百KBでは実用に足りないケースが多いが、数十MBあれば暗号プロトコルの「掲示板」として本格的に使えるようになる。
ゲームやソーシャルなどリアルタイム系のアプリが載る。 オンチェーンゲームの状態更新やソーシャルメディアの投稿データなど、「1件あたりは小さいが数が膨大」なユースケースは、データ可用性がボトルネックで今は実用的でない。数十MBクラスになるとこの制約が外れる。
L1自体がロールアップ化できる。 さっきのethresear.chの記事にもあったが、将来的にはEthereum L1の実行レイヤー自体をblob内に置いて、L1をvalidity rollup(ZK証明で正しさを保証するロールアップ)として動かす構想がある。これには大量のblob空間が必要で、数十MBクラスの可用性はその前提条件。
次に決済。スパム防止やAPIの利用料など、パーミッションレスなシステムには支払い機能がどうしても要る。Ethereum+ZK決済チャネルはAPI課金の仕組みとしてかなり優秀。
「ZK決済チャネル」や「ZK-SNARKs」はZero-Knowledge Proofの応用で、要するに「計算を正しくやりました」というのをコンパクトな証明1個で検証可能にする仕組み。これのおかげで、チェーン上にデカいデータを載せなくても「この処理は正しい」と第三者が確認できるようになる。ブロックチェーンのスケーリングやプライバシー保護の核心技術。
プライベートなメッセンジャーなどで「百万アカウント作ってスパム」を防ぐシビル耐性にも、電話番号に依存しないETH支払いは自然なバックストップになる。
最後にスマートコントラクト。セキュリティデポジット(ルール違反の証明が出たらETHが焼かれるロックボックス)、ZK決済チャネルの実装、デジタルオブジェクトへのポインタと相互運用、などが主な用途。
理論的にはスマートコントラクトなしでもZK-SNARKsと掲示板だけで全部できるが、実際には標準化と相互運用性の面でスマートコントラクトという「共有プログラミングレイヤー」を使うほうがはるかに楽。そこからDeFi等の巨大な応用が広がる。
まとめ
第一原理 「信頼不要なグローバル共有インフラが必要」
↓ 分解すると3つの問題が出る
1. データを置く場所が必要 → blob(掲示板)
2. 価値を送る手段が必要 → ETH(資産/決済)
3. 処理ロジックを共有したい → スマートコントラクト
この3層を積むと「分散・プライベート・安全なOSSスタック」が完成する
ただし世間はまだ「2020〜22年の手数料が高かった時代」のイメージを引きずっていて、今のEthereumの手数料が激安になっている現実にアップデートできていない。ここが普及のボトルネックだろう、と。
Sonnet 4.6.icon
https://gyazo.com/713f4702e7d832c25803cfaf8b8fe97e
大きく2つの変化がある。
① L1自体の値下がり 2021年2月の平均 $24.25 → 2025年2月は $0.76 と、96%超の下落。2026年3月現在はさらに下がり、ERC-20転送で $0.01〜0.02、Uniswap swapでも ~$0.14 程度。
② L2への活動移行 Dencun (EIP-4844) で "blob" が導入され、L2のデータ掲載コストが50〜90%削減。現在、L2がEthereum全トランザクション量の60%以上を処理。Fusaka (2025年11月) 後は、ArbitrumやOptimismなどのL2手数料が $0.005〜0.01 程度に安定。
現在の数字 (2026年3月)
table:_
操作 費用
ETH転送 (L1) ~$0.01–0.02
Uniswap swap (L1) ~$0.14
一般的なL2 tx < $0.01
Solana (比較) ~$0.00025
それでもSolanaには勝てない
L2の $0.005〜0.02 vs Solanaの $0.0001〜0.001 で、まだ5〜20倍の差がある。ただしEthereumのセキュリティ・流動性・EVM開発者数を考えれば「prohibitiveな差ではない」という見方も出てきている。
主要アップグレード
Aug 2021 EIP-1559 — base fee + burn導入
Sep 2022 The Merge — PoW→PoS
Mar 2024 Dencun (EIP-4844) — blob導入、L2コスト 50〜90%削減
May 2025 Pectra — gas limit 30M→60M
Nov 2025 Fusaka — blob拡張 + PeerDAS
H1 2026 Glamsterdam — gas limit 200M予定
gas limitを200Mまで引き上げ、並列処理を導入し、さらに〜78%の削減を目指している。