アメリカはパブリックオプションを起点とした包括的医療改革に踏み込むべき(Krugman)
アメリカはパブリックオプションを起点とした包括的医療改革に踏み込むべき(Krugman)
アメリカの医療は先進国中で唯一、全国民への保障がない。しかも金も他国の倍近く使いながら平均寿命は4年以上短いという、金を出して損をする奇跡的な非効率を達成している。
1980年代まではまだマシだったが、以来どんどん悪化。オバマケアで一時改善したものの、トランプ2期政権がメディケイド削減などで台無しにしつつある。
医療制度の類型は3つある。
①政府が直接医療を提供する「社会化医療」(英NHS型)
②政府が保険を一元管理する「シングルペイヤー」(メディケア型)
③民間保険を規制・補助する「規制民間保険」(オバマケア型)。
どれも機能しうるが、アメリカの文脈ではそれぞれに問題がある。
社会化医療は中央集権的がゆえに「上がポンコツだと全部ポンコツ」というリスクがある。RFKジュニアみたいな人物が医療全体を牛耳る悪夢を想像すれば明らか。
規制民間保険は、政治的に金が力を持つアメリカでは保険会社のロビーと不正(メディケア・アドバンテージの「アップコーディング」など)に腐食されやすい。オランダでうまく機能しても、アメリカでは期待できない。
シングルペイヤー(メディケア・フォー・オール)は60年以上の実績があり、コスト抑制効果も立証済み。クルーグマン自身、2009〜10年は政治的現実論から支持しなかったが、今は状況が変わったとして支持に転じた。
政治的に何が変わったか:
①ACAは今や広く支持されており、医療保障は国民の権利だという意識が定着した。
②保険業界への国民的嫌悪感が激増しており、UnitedHealthcare CEOの殺害に「理解できる」と言う人が相当数出るほど業界の評判は地に落ちた。
③トランプによる破壊の後始末として、元に戻すより抜本改革のほうがかえってやりやすい可能性がある。
ただし「民間保険を強制廃止してメディケア一本化」は政治的に難しい。今でも民間保険に「満足している」人は多く、「今あるものを取り上げる」への反発は大きいから。
そこでの現実的な処方箋が「パブリックオプション」——つまり個人や企業が希望すれば政府系の医療保険に加入できるようにする仕組み。行政コストが低く、医療拒否インセンティブもなく、競争すれば民間は自然と負ける。強制せずとも市場で勝って、結果としてシングルペイヤーへの移行を達成するという戦略。
2028年選挙で民主党が統一政府を握った暁には、オバマケアの修復程度で手打ちにせず、パブリックオプションを起点とした包括的医療改革に踏み込むべきだ——というのがクルーグマンの結論。