イマ×リズみゅーじっく! / 天然水いまり 感想
https://www.youtube.com/watch?v=KzKVQk0gkQg
バーチャル作曲家の天然水いまりさんの1stアルバム「イマ×リズみゅーじっく!」の感想です。乱文何卒ご容赦ください。
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1. ハズム×イマ×リズム
作詞:桜木うみ
作曲:天然水いまり
編曲:Aire
Guitar:安藤河音
Mixing Engineer:Aire
まさにAireサウンド───。
ミドルテンポのやや落ち着いた楽曲だが、ゴリゴリのキックとシンセベース、ハイファイでポンピングが効いたピアノとワウワウなギター。合いの手で入るストリングス。あたりをキラキラ飾るシンセやFX。それぞれエッジが利きつつも素晴らしく調和の取れたプロフェッショナル・サウンドだ。
サビなどのストリングスの半音階アプローチはどうしてもTansa氏を彷彿とした。
歌詞。桜木うみ氏の歌詞は歌ハメが特徴的である。歌詞を見ただけではどう歌うのか一見わからないくらい大胆な歌ハメをしている。
例えばサビの「 目の前に広がってくランドスケープ 」 というフレーズ。このフレーズは後半が8分裏のキメになっており、
/ てく / ラン / ドス / ケープ
という歌ハメになっている。( / が表拍に相当する。) てく を1モーラに省略するなど、私は想像もできなかった。おそらく氏はラップなどにも造形が深く、言葉とリズムについて日頃から相当思慮を巡らせている御仁なのだろう。
ギターソロ。安藤河音氏のギターソロは相変わらずテクニカルで映える。ミュートを利かせた小気味いいフレーズやダブルストップを多用したフレーズが氏の特徴かもしれない。
2. 貧困?!金欠アルバイター
作詞・作曲・編曲:天然水いまり
Guitar&Bass:安藤河音
Horns Programming Assistant:みかんもどき
Drums Programming:みかんもどき
Mixing Engineer:Aire
ブラスサウンドとバキバキのベースとわちゃわちゃした感じの歌詞が持ち味の、ちょっと電波系なかわいいブラス・ポップ。
タイトルの通り、ヤバめの金欠でヤバいと嘆きながらも「 今日が終われば給料日! 」と前向きになっている歌詞内容である。歌詞に妙なくらいのリアリティがあるが、これは天然水いまりさんの生活を歌っているのだろうか…。バーチャルなのでそこはきっと秘密なのだろう。給料日まであと半月の時の歌を作ったら激ヤバになりそうだな…と思いながら聴いていたのも秘密。
楽曲を決定的に特徴づける説得力があり活き活きとしたブラスサウンドはみかんもどき氏が手掛けているようだ。彼の打ち込みの表現力は一線を画するものがあることは誰もが認めるところであろう。
ドラムもサウンドが本格的なだけではなく、そこかしこに細かいフィルインが忍ばせてある。これもドラマーの演奏が分かっていないとできない表現である。流石。
ボーカルもほぼ全編にわたって2声に歌い分けて合わせられており、非常に丁寧に作られている。
ラスト。楽器隊が半音で移動しまくりながらドラムが超絶なフィルを入れてコミカルに曲を締めくくる。
歌詞の内容は若干悲痛にも感じなくもないが、曲調はかなり明るいポップスなので希望を感じる、個人的にも好きな良い曲であった。
3. Lonely AI
作詞・作曲・編曲:中山範一
Mixing Engineer:中山範一
ハイテンポでロックなダンスビート楽曲。イントロのピアノリフも相まって「ボカロっぽい」と私は感じたが、こうした曲をボカロ的と呼んでもいいのだろうか。私はボカロにそこまで詳しくないが、ボカロP的な感性を持った曲作りに感じた。
オケは歪みギター、アコギ、オルガン、ピアノ、ベース、ドラムあたりでほぼバンドで完結するように数を絞られている。どの楽器を見てもひとつひとつ丁寧に作られていて良い。
歌詞。サビの「 ドキドキトキメキ 」が全部同じ「ド (実音D)」で歌われているのがフックが利いていて好き。そのあと1オクターブ跳躍してハイトーンになるので対比が良い。
2サビ後。かなり歪んだギターとピアノでソロバトルになる。複数楽器のソロの掛け合いは大変好物だ。
いま私はこの曲を椅子に座って聴いて感想を書いているが、何も考えず大音量で聴いてピョンピョン跳ねて頭を振りながら聴きたい系の楽曲だった。
4. Dear myself
作詞:桜木うみ
作曲・編曲:Tansa
Guitar:かに
Bass:原一生
Mixing Engineer:Tansa
…
はぁ…
はぁ〜〜〜
はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜。
思わずため息の三段活用をしてしまうほどに心に響いた。手放しで素晴らしい楽曲だ。
こうした曲をなんと表現すればよいだろう。素直な気持ちを歌っているような曲。心を開いてあなたに届けているような歌。そう、歌なのだ。「音楽」というよりも、「歌」が何よりも身体に心に響いてくる。こうした気持ちになる音楽は数少ない。
そして、作編曲のTansa氏の楽曲である、MOタクコンピvol.2に収録されている「リトル・フューチャー・ファンファーレ」を想起せずにはいられない。(作詞:ふぁんしーめいど、作曲:まくら、Tansa、編曲:Tansa)
特にコロコロと上空で動き回っているように聴こえるピアノのサウンドや1Aの前のフレーズあたりからリトル・フューチャー・ファンファーレの残り香を感じる。
キー。in C。どストレート。最も素直なキー。大好き。
以前掛川さん( https://twitter.com/eomg_ )とアツく語り合ったが、やはりキーというものは楽曲において非常に重要な意味を持つと思っている。in Cは最強のエース。しかしその分奇をてらったことがしづらいので、まさに直球勝負となる。 コード進行についてもひと言触れたい。サビは 17654325のカノン進行 、超絶ありふれた進行を使っている。この進行は非常にありふれているので、私は正直なところ音楽のテクニカルな実力がないとこの進行で「良い曲」を作ることは難しいと思っている。しかしこの曲は非常に美しくサウンドしており、全く陳腐さを感じさせない。これはひとえに作編曲のTansa氏、それからプレイヤーの両人の実力が魅せるワザであると言えよう。おそらくこの進行を使うことは彼らにとってもひとつのチャレンジだったのではないかと私は邪推する。
Bメロ。ハーフテンポに一度落ち着き、そこから部分転調(モーダル)になる。こうした曲の作りもまさしくポップスの王道なのだが、王道をしっかりとやってのけることは並大抵のことではない。
サビ。サビ終わり「駆け抜ける姿」のハイトーン!!!これを聴きたかった!!!実は1曲目の段階からハイトーンをずっと聴きたかったのだ。
「追いかけていたい」のロングトーンで初見時、震えた。真っ直ぐで力強い意志を感じる言葉。音選びも言葉選びも完璧だ。
2A。弦がピチカートになるのが愛らしい。
歌詞の「 世界は今日も数多の夢と 素敵・不思議で満ち溢れている」。1番では自分の胸中を語っていたのが、2番で外の世界に目を向けて花開いていく。これも王道の作りと私は思うが、曲中で視線が変わっていく歌詞が私はたまらなく好きだ。初見時でも「 世界は 」のあたりはハッキリと耳に残った。桜木うみ氏、恐るべし。
間奏。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおギターソロ!!!!!
これだよこれ、コレが欲しかった…!!!!!
名曲に名ギターソロあり。かに氏の起承転結を的確に把握して構成された上品かつ堂々としたギターソロが楽曲をグッと華やかにしている。
落ちサビ。コレですコレ…
ウユニ塩湖でヒロインがうつむいて歌っていて、涙が落ちて波紋が広がっていく、そんなMV映像が見えた。
ベースのハイトーンからのアプローチも素晴らしい…打ち込みでは出せない説得力のある表現。
ラスサビ。半音転調。どこまでも王道を踏襲してゆく。ラスサビはベースラインが高音域まで広く使った動きを見せるのが非常に秀逸だ。
この転調によってボーカルのハイトーンが更に上がり、より切なく、よりクライマックス感を醸成する鍵になっていることは言うまでもないだろうか。
アウトロ。かに氏のギターリフが2声で重なったあと短いソロになり、1の終止で曲が終わる。
…間違いない、この曲は あえてすべてを王道を狙って作られているに違いない 。先述したが王道を征くと陳腐さを感じやすいので実力が求められるはずだが、この曲は陳腐さをカケラも感じることがない大名曲であった!