考察と今後の展望
本研究で提案した気合インターフェース、実装した気合いボタンについて、試験的運用を行なったことによる考察を述べる。
考察
①送信前に気合を入れる段階を挟むことについて
敢えて面倒と思えるようなステップを最終操作実行前に挟むことは、ミスがないかを確認するための操作であるものの、単にその時間を確保するだけではユーザーに「手間が増えて面倒」という印象を強く持ってしまうような機能であった。
また、本論文の実装では送信ボタンの上のレイヤーに気合ボタンを挿入し、さらにそのボタンを押した際に表示されるHTMLにも宣誓ボタンを配置したため、結果的に気合いを入れるために二回もボタンを押さなければならなかった。気合を入れるためのアクションが「発声」を重視しているため、ボタンイベント増やしてユーザーの手間をも増やすことは気合に関係のない部分で不要な操作をユーザーにさせてしまっているため有効ではないと考えられる。
さらに気合にフォーカスしたインターフェースを実現するためには、不要なイベントは極力避けるべきである。
②発声によって気合を入れる手法
気合ボタンは発声というユーザーのアクションからユーザーの気合を生み出す。ただ発声はインターフェースを操作する上で普段私たちが行わない行為であるため、声を出すことに羞恥心を感じることがある。しかし、その恥ずかしさのあまり声が出せないような集中力の低い状態では、かえってミスが生まれてしまうのではないだろうか。大きな声を出せるほどユーザーに気合が入っている状態、もしくは大きな声を出してユーザーが気合を入れたい状態であれば、この機能はご送信などのミスを減少させる役割を十分に果たしていると言えるだろう。
この発声という手法は声の大きさという面に限らず、様々な応用ができると考える。
③宣誓機能
側から見れば宣誓機能は人間がコンピューターに宣誓するという非常に見慣れないかつコンピューターが人間を試すような構図に見えるかもしれない。しかし、実際はメールを送る相手でも仕様しているコンピューターに宣誓をしているわけではなく、メールを送信しようとしている自分自身に対して宣誓しているのである。自信があれば張り切って宣誓すれば良い、自信がなければ再度確認して間違いがないと自信がついてから宣誓すれば良い、宣誓機能はユーザー自らに自信を生み出すための有効な手段であり、音量とともに気合を出す手助けをしてくれると考える。
本研究では宣誓を、「決まった宣誓文を読み上げる」というアクションとしたが、実際のメール本文を読み上げさせたり、メール以外のアプリケーションで利用規約を全て読ませたりと宣誓の幅を変えて調査することも一考の価値があると考える。
④発声以外の気合インターフェース
本研究では実装に至らなかったが、気合インターフェースの提案で例に挙げた、昔のオープンリールレコーダーや手動裁断機のように片手で操作できないようなシステムも気合インターフェースで気合を入れるための手段として強く作用すると考える。 オープンリールで録音する時のように両手を別々に動かす様々な操作や、手動裁断機のように両手を使うほど力強く使用しなければいけない操作を、ユーザーにとって特に重要で特に気合が欲しい際にさせることで、発声以外の手段でも気合を入れることができるかもしれない。
今後の展望
本研究では気合インターフェースを「メールを送信する」というシンプルな目的の操作において実装した。
しかし、ミスを減らすために気合が必要な操作は様々である。ここでは今後のために考えられる気合インターフェースの応用とさらなる可能性を考えていく。
気合を量的に捉える
本研究ではユーザーに気合を出させ、「気合が入っている」と「気合が入っていない」という2つの状態でのみ判断した。しかし、気合は出ているけどまだまだ出せる状態や十分というほど気合が出ている状態は明らかに異なる。気合を量的に捉えることでその量に応じた機能制限の解放などを行うことができるのではないだろうか。例えば、私たちがキーボードで文字入力する際に変換キーを押して最適な漢字を選択することができるが、その際の発声によって気合を入れるアクションの声量や宣誓のミスの少なさを事細かく判定し、それら応じて変換できる候補の数が限られるなどの機能である。
毎日同じ気合を常に保つことはできないため、同じ気合アクションを毎日しても体調や精神的な要因によってユーザーに入る気合の大きさは日によって異なると考える。
そのため、気合を量的に捉えることができれば、自分自身の最適な気合の入れ方を探るための一種の手段にもなり得るのではないだろうか。気合は日常においても仕事においてもスポーツにおいても応用する可能性を大いに秘めている。
発声と宣誓
ユーザーに気合を入れるために発声と宣誓をさせることはとても有効であった。発声に関しては、大きい声を出せば出すほど気合十分と判断できるものの宣誓の内容や宣誓させる文量やさらに機能を加えることによってさらにユーザーに緊張感を持たせることも可能であると考える。
それは宣誓録音機能である。メールなどでは送信するたびに宣誓しその音源を録音することは非常に非効率的であるが、仕事に使用するファイルで絶対にミスがあってはいけないようなものを確認する際に、宣誓して気合を入れることはもちろん、宣誓した内容を録音することで、もし小さなものでもミスがあった場合にも言質を取られていることから、自分自身の責任となることは免れなくなる。どんな言い訳もできないような状態を作り出すことでさらなる気合を生み出すことができるのではないかと考える。
日常生活への応用
本論文での内容はコンピューターを使用するユーザーに焦点を当てていたが、気合インターフェースはその枠さえも越えていける可能性を秘めていると考える。
目覚まし時計に気合を応用することで朝大きな声を出さなければ永遠に目覚まし時計が鳴り続けれる仕様になれば、大きな声を出すことで頭も体も目覚め、気合に満ちた朝を迎えることができる。
また、家を出るときに持っていかなければいけない物を玄関で気合インターフェースを用いて確認することで忘れ物を取りに帰ってくることも忘れ物に気づいて落ち込むこともなくなり、気合十分な外出をすることだってできると考える。
発声以外の気合
本研究では発声という方法で気合を入れることを主としたが、非常に重要な場面ではあるもののその場面で発声をすることが良しとされない場合、発声以外の気合の方法を考える必要が生まれるだろう。その可能性として考えられる方法をまとめる。
1.姿勢
声を出すためには背中が猫背のように曲がっていては大きな声は出せない。そのため背筋を正しくすることで気合を入れるための発声、掛け声はさらに強くユーザーに気合を入れてくれる。もし、声が出せない場面だとしてもユーザーの姿勢を良くさせることを気合を入れるためのアクションとして利用することができるのではないだろうか。
私たちの姿勢を計測する方法は様々である。PCの操作においては内蔵のwebカメラを用いてユーザーとカメラの距離から姿勢を推測することができる。また、椅子に座って入れば圧力センサを敷き、座面の力のかかっている位置から姿勢の良さを推測することもできる。スマートフォンに内蔵されている加速度センサーを用いることもできるだろう。
このように今までになかった使いやすさを単に享受するよりも、その中の技術を上手く使うことでこれらの問題は簡単に解決することができると考える。
2.表情
ハキハキと声を出すには口を大きく開けなければならず、暗い表情ではそんなことは不可能である。そのため、声を出さずともユーザーの表情の明るさで気合を入れることができるのではないだろうか。表情の判定はカメラと公開されている表情判定APIを組合わせて用いることで実現することができる。
例えば、朝起きて顔を洗って歯を磨くとき、いざ家を出るとき、私たちは鏡を見るだろう。鏡にカメラを設置し、そのカメラによって表情判定をすることで、「今日は気合いが十分です、いってらっしゃい」や「表情が暗いですよ、一日笑顔で頑張ってください」と送り出してくれる機能とともに気合を測ってくれる、入れてくれる機能があれば、私たちの生活を豊かにしてくれる気合インターフェースとして面白いのではないかと考える。
3.両手、身体
指先だけで様々な操作を実行することができる中で、両手で操作することはもちろん未だに存在するが、減少してきていることは確かである。そのため、両手操作でさえも気合を入れるためのアクションとして利用することができるかもしれないと考える。身体もまた同様である。
両手操作は左右別々に操作させる方法や両手とも同じ操作をさせるが強く力を入れないと動かない、実行できないなどの方法がある。特にわざわざ力を入れないと操作できないという方法自体、誰もが面倒であり極力避けたいと感じるものであるだろう。しかし、逆にその点が気合インターフェースの目指すところに非常に近いのである。面倒と思うようなことでもやらなければいけない操作なのであれば、誰もがその操作をしようとするだろう。
その考えを利用してダンベルを30回挙げないとPCを開くことができなくすれば、否応無しに筋力トレーニングに励んでからPCを開くであろう、10分走ってからでないとスマホのロックが解除されないとしたら、誰もが走りに行くだろう。
私たちがしたいけどやらないこと、すべきであるのにできないことと気合インターフェースを組み合わせることで、気合が入り、ミスが減り、自分に甘えてできなかった運動、食事などの生活管理にまで良い影響を及ぼすことも可能ではないだろうか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
以下メモ・コメント