ゲバ棒、ペンラ、木魚撥
アイドルとファンの関係性はどのようなモデルで捉えられているか。
ファンを”信者”、ファンによる宣伝活動を”布教”と呼ぶことから「カルトの教祖と信者」とも表現されるし、「慰問団と軍人または囚人」の図式に準えられることもある。このようなアナロジーはアイドル文化の圏内からの自己批評としても、圏外からのスティグマ化としてもありうる。(推し文化が一般化した現在にあっては、文化圏の内外という区別がどれほどの有効性を持つか疑問の余地はあるにせよ。)
慰問には”受刑者のアイドル”Paix2のプリズン・コンサートの例があるし、(※本人たちは「慰問」と言わないそうだが)遡れば戦時下のアイドルは慰問そのものだった。
以下は「歴史探偵」:戦争とアイドル. NHK. 2022-8-10.(テレビ番組)からの引用。
アナウンサー「どうしてこの本(慰問雑誌)を兵士たちに届ける必要があったんでしょうか」
押田信子「軍部としてはやはり戦力が落ちるのが一番怖い。戦力が落ちないためにどうしたらいいのかと。なにしろ兵士たちは若い青年。彼らの心を一番つかむこと、それがアイドルの写真だったり、娯楽ですよね。そして彼らに(戦争に対する)疑問を持たせないため」
慰問雑誌にはアイドルの写真とともに兵士をケアする「慰問文」が載っているが、これはアイドルではなくライターが書いたものだろうと推測されている。だとすれば露骨な情報の非対称性で、触媒のアイドルと読者の兵士にたいする軍部の徹底した道具視を感じる。
宝塚歌劇団は軍需工場などへの慰問活動も積極的におこなっていった
押田信子「特に宝塚が行くともう、うわーっと人気になっちゃうんですね。(中略)その時の新聞を見てみると、慰問隊が来たあとは青年工たちがピンピンとやる気を起こしていく。「労働力が上がるので本当にありがたい」みたいなことが記事になって出ているんですね」
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「軍隊への慰問」で私が連想するヴィジュアルはモーニング娘。コンサートツアー2013秋 〜CHANCE!〜だ。
当時はアイドル戦国時代で、モーニング娘。は再ブレイクもあって戦闘的なイメージを押し出していた。衣装デザインも振り切って(吹っ切れて?)いて、「What is LOVE?」は戦隊もののようだし、「愛の軍団」は曲名から予想されるように愚直にミリタリーで、赤い光沢の生地に金具がぎらついている。(MVの衣装も赤を基調とするが光沢はない。こちらはややプレッピーに調整されて士官学校生のような雰囲気がある。)
DVDに収録されているのは日本武道館での千秋楽公演で、天井から垂れる日の丸が映ると「君の代わりは居やしない」(ソチオリンピック日本代表選手団公式応援ソングで、ニッポンニッポンと連呼するコールが入っている)をセットリストに入れなかったのは賢明だったと思う。(書いてて気付いたけどこの曲名、「君が代」を入れ込んでいるのか?)
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君さえ居なければ何も要らない
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Hello! Project 2012 WINTER ハロ☆プロ天国~ロックちゃん・ファンキーちゃん~完全版
(なんだろうこの、目にしただけで疲れるコンサートタイトルは)
公演のMCに「ハロプロ川柳のコーナー」というものがある。残念ながらある。
2句抜粋しよう。
ハロヲタを続けるために仕事する/はにまる
イベの為必死に仕事し定時帰り/愛車は1ヶ月2千キロ
サラ川だ。ハロヲタという属性が加味されているだけで、至極正統なサラ川だ。
剥き出しの経済基盤を見せつけられている、とともに、ここにはやっぱり根源的な疑問を霧散させるだけの力が働いているんだよな、と思う。
直近で、これは田中れいなが詠んだ川柳。
https://scrapbox.io/files/6694bb3192051d001cfcb682.png
AbemaTV(2024年7月10日放送)「チャンス学校チェンジ科#2」
豪速で踏み込んでいて脱帽した。「凍」のさんずいがすれすれの外し方なのも面白い。
この放送の5日後に結婚、妊娠報告をしたのは周到な流れだった。
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オムニバス映画『真・女立喰師列伝』(2007年)には陰謀史観を交えてアイドル史を解釈した短編作品「歌謡の天使 クレープのマミ」が収録されている。
「3R5D3S政策って聞いたことある?」
(中略)
「じつはこれがプロパガンダの基本的なテクニックである”平凡化”という方法で、メディアの発信側が受け手側と同列に立っているように錯覚させ、親近感を植え付けるという手法なの。その結果、テレビにアイドルを出演させていくと、まるでそれと入れ替わるように学生運動は鎮静化して人々の興味から遠ざかっていったの。」
ゲバ棒からペンライトまでの史観を小倉優子に説かせるメタ批評性。
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『エトセトラ VOL.8』(エトセトラブックス、2022年)の読者アンケートに「Q8.アイドルとファンはどんな関係でいるべきだと思いますか?」という質問があり、「戦友」という回答があった。
一方向的にチア/ケアしてくれる存在としてではなく、同じ世界を生きる人間として―親近感よりは重い連帯感を見出しているだろうか。人権意識が高まるにつれアイドルという虚構からあらかじめ抽き取られた人間性が還元されていく。
それでもなお宗教的崇拝のモデルを温存しているのがアイドルというジャンルのもつ矛盾で、そこに私はカルトのパロディ的魅力を感じているんだけど……
まぁパロディであってほしさからパロディとして見ている―と思おうとしている―だけで、ソフトなカルトでないとは言い切れないあたり正常性バイアスに嵌まってるんだろう。
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心臓がポクポクしてきた/佐藤優樹
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