15. 1月16日 テクノロジーと規制
目次
序論
高頻度取引
ビットコイン
Libra
結論
レポート課題
自己紹介
本講座の目的
テクノロジーに対する法規制の理解を深める
規制が過剰なのか
規制が不十分なのか
高頻度取引
米国における株式取引の例
https://www.youtube.com/watch?v=rB5jJuMP84E
米国における専門家の取引の例
https://www.youtube.com/watch?v=2u007Msq1qo
米国の専門家の取引の例
Virtu Financial, Inc., Registration Statement(Form S--1)2(Mar. 10, 2014)
The chart below illustrates our daily Adjusted Net Trading Income from January 1, 2009 through December 31, 2013. As a result of our real-time risk management strategy and technology, we had only one losing trading day during the period depicted, a total of 1,238 trading days.https://gyazo.com/f353f175cebf08933c693b075c37bb0e
米国における高頻度取引の株式取引に占める割合
Bradley Hope, High-Frequency Trading's Fight Over Secret Code, Wall St. J., Apr. 2, 2014,
https://gyazo.com/a18ac73bb6b51d0c4cf2d7554afa6bf8
背景
情報通信技術の進展
東京証券取引所の取引に占めるコロケーションエリアからの取引の割合は,注文件数ベースで7割程度,約定件数ベースで4割
コロケーションエリア:注文付け合わせシステムに物理的に近接したエリアを意味し,注文付け合わせシステム等が搭載される取引所の中核的ネットワーク上に,市場参加者のアルゴリズム等を格納できる発注システムを設置することにより,両システム間の物理的距離を最小化する。これにより,取引主体が発注してから市場に注文が届くまでの時間および市場取引情報が取引主体に到来するまでの時間を限界まで短縮しようとするHFT〔編注:高頻度取引〕の要求に応え得るアクセススピードを実現する。中山興=藤井崇史「株式市場における高速・高頻度取引の影響」日銀レビュー6頁注5(2013年1月)。
高速取引について次の指摘
①市場に流動性を供給していると
②市場におけるボラティリティの急激な上昇
③中長期的な投資家の取引ニーズが先回りされることによる取引コストの増大
④中長期的な企業価値に基づく価格形成を阻害
⑤システムの脆弱性等の観点から懸念
高頻度取引に対する規制の導入
平成28年4月の金融審議会において,麻生太郎金融担当大臣からの諮問
「情報技術の進展その他の市場・取引所を取り巻く環境の変化を踏まえ,経済の持続的な成長及び家計の安定的な資産形成を支えるべく,日本の市場・取引所を巡る諸問題について,幅広く検討を行うこと」
金融審議会「市場ワーキング・グループ」が設置
平成28年5月より12回にわたり審議
平成28年12月:報告書(以下「WG報告書」という)を公表
WG報告書
高頻度取引の問題点としてアルゴリズム高速取引の全体像やその取引戦略等を十分に把握できているとは言えない状況となっていることを指摘
①証券会社がアルゴリズム高速取引をチェックしていないこと(証券会社によるチェック機能の問題)
②証券取引所がアルゴリズム高速取引について審査を行うことは,現状,難しくなってきていること(取引所による審査の問題)
③金融当局は,アルゴリズム高速取引について審査を行うことが困難であること(当局による取引動向の確認の問題)
アルゴリズム高速取引
こうしたアルゴリズムを用いた高速取引(以下「アルゴリズム高速取引」という。)には,いわゆる狭義のアルゴリズム高速取引,即ち,受動的マーケットメイク戦略に基づく取引から,投資戦略を限定しない,より広義のアルゴリズム高速取引まで多様なものが存在しており,その内容は一様ではないとされる。(脚注省略)
アルゴリズム高速取引---流動性
アルゴリズム高速取引については,こうした取引の存在により市場に流動性が供給されているとの指摘や,流動性が厚くなることでスプレッドが縮まり一般投資家にもその恩恵が及んでいるとの指摘もあり,市場取引の円滑に資するようなアルゴリズム高速取引までをも一律に日本市場から排除してしまうような対応を行うことは,適当ではないと考えられる。
アルゴリズム高速取引---問題点
市場でのイベントにアルゴリズム高速取引が加速度的に反応し,マーケットが一方向に動くことで,市場を混乱させるおそれがないか
個人や中長期的な視点に立って投資を行う機関投資家に,アルゴリズム高速取引に太刀打ちできないなどといった不公平感を与え,一般投資家を市場から遠ざけてしまうのではないか
アルゴリズム高速取引で用いられる戦略には短期的なものも存在し,アルゴリズム高速取引のシェアが過半を占める株式市場では,中長期的な企業の収益性(本来の企業価値)に着眼した価格形成が阻害されるのではないか
異常な注文・取引やサイバー攻撃など万が一の場合,その影響が瞬時に市場全体に伝播するおそれや,その他システム面でのトラブルが市場に大きな問題を引き起こすおそれがないか
欧米をはじめ我が国においても,アルゴリズムを用いた相場操縦等の不公正取引の事案等が報告されている中,市場の公正性に影響を与えるおそれはないか
高頻度取引の規制
序論
有価証券の取引
金融商品取引法の改正によって対応
①このような高頻度取引が特別の規制に服するか
②その根拠が何か
規制の必要性---社会的にみて望ましいか
高頻度取引は,社会的にみて望ましい現象であるのか,それとも望ましくない現象であるのか。望ましい現象であるといえる理由がどのようなものであるのか,また,望ましくない現象であるという理由はどのようなものであるのか
社会的な厚生(welfare)は,増加するものなのか,減少するものなのか
社会の厚生の配分は,どのように変化するものなのか
高頻度取引の影響
①価格発見機能に貢献しているという主張
②市場に流動性が供給されているという主張
③市場の価格発見機能を阻害する場合がある
④市場の流動性を消費する場合がある
拙稿「高頻度取引の一考察」成蹊法学86号59頁(2017)
高頻度取引は,取引戦略によって,
①価格発見へ貢献する場合も,価格発見を阻害する場合もある
②市場に流動性を供給する場合も,消費する場合もある
table:高頻度取引の戦略
価格発見への貢献 流動性への貢献
受動的マーケット・メーキング戦略 なし 供給
裁定取引戦略 あり(限定的) 消費
(構造戦略) (なし) (消費)
価格指向性戦略 基礎的価値に基づく取引 あり 消費
注文予測戦略 なし 消費
モメンタム点火戦略 悪化 供給(限定的)
規制の必要性---投資家の不公平感
証券の専門業者が一般投資家よりも情報や設備の面で優位であるというのは,どの時代でも変わらない
①不公正といえない場合でも,不公正だと一般投資家が感じるのであれば,現実には不公正ではなくても規制を導入ことが正当化されるのか
②不公正と感じるという抽象的な根拠は,法による規制を正当化するほど確固たるものといえるのか
③一般投資家は専門家ではないので,不公正感を感じるということが現実にあるのであれば,実際に一般投資家の投資活動に影響を与えてしまうのではないか
高頻度取引を行う者が利益を得るということは,その分,誰かの利益が減っているということを意味する。このような状態は,不公正であるといえるか
例えば,野村ホールディングス株式会社の連結のトレーディング損益は,2015年3月期から2019年3月期までで,それぞれ,5,313億円,3,540億円,4,756億円,4,429億円及び3,430億円であった(出所:野村ホールディングス株式会社の開示資料)
規制の必要性---フラッシュ・クラッシュ
高頻度取引によって株価の暴落がもたらされ,それによって証券市場に悪影響を与えているといえるか。
株価のボラティリティ(=価格の変動率)が上昇し,ひいては,リスクの増加し,ひいては,株式の価値の減少を齎しているといえるか。
2010年5月6日の米国のフラッシュ・クラッシュ
https://gyazo.com/8b7f6d4ae57d0b916646ddfbc9addbe6
FLASH CRASH! Dow Jones drops 560 points in 4 Minutes! May 6th 2010 (4分30秒から5分30秒)
https://www.youtube.com/watch?v=86g4_w4j3jU
The events of May 6 can be separated into 5 phases (shown in Figures 1.1 and 1.2): During the first phase, from the open through about 2:32 p.m., prices were broadly declining across markets, with stock market index products sustaining losses of about 3%. In the second phase, from about 2:32 p.m. through about 2:41 p.m., the broad markets began to lose more ground, declining another 1-2%. Between 2:41 p.m. and 2:45:28 p.m. in the third phase lasting only about four minutes or so, volume spiked upwards and the broad markets plummeted a further 5-6% to reach intra-day lows of 9-10%. In the fourth phase, from 2:45 p.m. to about 3:00 p.m. broad market indices recovered while at the same time many individual securities and ETFs experienced extreme price fluctuations and traded in a disorderly fashion at prices as low as one penny or as high as $100,000. Finally, in the fifth phase starting at about 3:00 p.m., prices of most individual securities significantly recovered and trading resumed in a more orderly fashion.'
例えば,この日,Accenture社の株式は,41ドルで取引を開始し,午後2時48分に39ドルまで値下がりしたが,その後,フラッシュ・クラッシュの最中に1セントの値がついて取引された。
アクセンチュアの株式は、約30ドル程度で取引されていたが、約7秒で1セントまで下落した。その次の瞬間には、30ドル程度まで値を戻した。
高頻度取引の規制---高頻度取引の定義
高頻度取引の定義は,各国で異なるところ,わが国では高頻度取引をどのように定義するのか
規制するとして,どのような規制方法を採用すべきか
市場ワーキンググループ報告
①アルゴリズム高速取引を行う投資家に対する登録制を導入
②必要な体制整備・リスク管理義務を課す
③当局がその取引実態・戦略等を確認する
平成29年金融商品取引法改正
序論
平成29年3月3日:「金融商品取引法の一部を改正する法律案」閣議決定
平成29年3月3日:国会に提出
平成29年4月18日:衆議院本会議において可決
平成29年5月17日:参議院本会議において可決・成立
平成29年5月24日:公布(平成29年法律第37号)
高速取引を行う者に対し登録制を導入し
①体制整備・リスク管理に係る措置として,取引システムの適正な管理・運営,適切な業務運営体制の確保等
②金融当局への情報提供等に係る措置として,高速取引を行うことや取引戦略の届出,取引記録の作成・保存等
証券会社に対し,無登録で高速取引を行う者からの取引の受託を禁止
取引所において,高速取引を行う者の法令等の遵守の状況の調査その他の必要な措置
高速取引行為の定義(金融商品取引法2条41項)
この法律において「高速取引行為」とは,次に掲げる行為であつて,当該行為を行うことについての判断が電子情報処理組織により自動的に行われ,かつ,当該判断に基づく当該有価証券の売買又は市場デリバティブ取引を行うために必要な情報の金融商品取引所その他の内閣府令で定める者に対する伝達が,情報通信の技術を利用する方法であつて,当該伝達に通常要する時間を短縮するための方法として内閣府令で定める方法を用いて行われるもの……をいう。
一 有価証券の売買又は市場デリバティブ取引
二 前号に掲げる行為の委託
三 前号に掲げるもののほか,第1号に掲げる行為に係る行為であつて,前2号に掲げる行為に準ずるものとして政令〔編注:金商令1条の22〕で定めるもの。
高速取引行為を行う者(=高速取引行為者)の登録(金融商品取引法66条の50)
金融商品取引業者等及び取引所取引許可業者(金融商品取引業若しくは登録金融機関業務又は取引所取引業務として高速取引行為を行い,又は行おうとする者に限る。)以外の者は,高速取引行為を行おうとするときは,内閣総理大臣の登録を受けなければならない。
登録申請書(金融商品取引法66条の51第1項)
前条の登録を受けようとする者は,次に掲げる事項を記載した登録申請書を内閣総理大臣に提出しなければならない。
一 商号,名称又は氏名
二 法人であるときは,資本金の額又は出資の総額
三 法人であるときは,役員の氏名又は名称
四 主たる営業所又は事務所の名称及び所在地
五 高速取引行為に係る業務を行う営業所又は事務所の名称及び所在地
六 他に事業を行つているときは,その事業の種類
七 その他内閣府令で定める事項
登録申請書添付書類(金融商品取引法66条の51第2項)
前項の登録申請書には,次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 第66条の53各号〔登録拒否事由〕……のいずれにも該当しないことを誓約する書面
二 高速取引行為に係る業務の内容及び方法として内閣府令で定めるものを記載した書類
三 法人である場合においては,定款及び法人の登記事項証明書……
四 その他内閣府令で定める書類
「高速取引行為に係る業務の内容及び方法として内閣府令で定めるものを記載した書類」(金融商品取引業等に関する内閣府令328条)
法第66条の51第2項第2号に規定する内閣府令で定めるものは,次に掲げるものとする。
一 業務運営に関する基本原則
二 業務執行の方法
三 業務分掌の方法
四 取引戦略ごとに,当該取引戦略の概要(次に掲げる事項を含む。)
イ 取引戦略の類型
ロ 高速取引行為に係る金融商品取引所等の名称又は商号
ハ 高速取引行為の対象とする有価証券又は市場デリバティブ取引の種類
五 高速取引行為に係る業務に関し,法令等を遵守させるための指導に関する業務を統括する者の氏名及び役職名
六 高速取引行為に係る業務を管理する責任者の氏名及び役職名
七 高速取引行為に係る電子情報処理組織その他の設備の概要,設置場所及び保守の方法
八 高速取引行為に係る電子情報処理組織その他の設備の管理を十分に行うための措置の内容
登録拒否事由(金融商品取引法66条の53)
① 過去5年間に法の定める登録,許可等の取消し等を受けるなど,金商法29条の4第1項1号イ〜ハ〔金融商品取引業の登録拒否事由〕のいずれかの不適格事由に該当する者
②他に行う事業が公益に反すると認められる者
③高速取引行為に係る業務を適確に遂行するに足りる人的構成を有しない者
④高速取引行為に係る業務を適確に遂行するための必要な体制が整備されていると認められない者
⑤法人である場合においては,次のいずれかに該当する者
役員のうちに,過去5年間に禁錮以上の刑に処せられたなど,金融商品取引法29条の4第1項2号イ〜リのいずれかの不適格事由のある者のある者
資本金の額または出資の総額が,公益または投資者保護のため必要かつ適当なものとして政令で定める金額に満たない者(最低資本金要件)
最低資本金額は,1,000万円と規定してされている(金融商品取引法施行令18条の4の9第1項
外国法人であって国内における代表者または国内における代理人を定めていない者……
外国法人であってその主たる営業所もしくは事務所または高速取引行為に係る業務を行う営業所もしくは事務所の所在するいずれかの外国の金融商品取引法189条1項に規定する外国金融商品取引規制当局の同条2項1号の保証がない者
⑥個人である場合においては,次のいずれかに該当する者
過去5年間に禁錮以上の刑に処せられたなど,金融商品取引法29条の4第1項2号イ〜チまたはリ……のいずれかの不適格事由に該当する者
外国に住所を有する個人であって国内における代理人を定めていない者
外国に住所を有する個人であってその主たる営業所もしくは事務所または高速取引行為に係る業務を行う営業所もしくは事務所の所在するいずれかの外国の金融商品取引法189条1項に規定する外国金融商品取引規制当局の同条2項1号の保証がない者
⑦純財産額(内閣府令で定めるところにより,資産の合計金額から負債の合計金額を控除して算出した額をいう)が,公益または投資者保護のため必要かつ適当なものとして政令で定める金額に満たない者(最低純財産額要件)
最低純財産額は,零と規定してされている(金融商品取引法施行令18条の4の10)
その他の規制
登録取消・業務停止命令
業務管理体制の整備および業務の運営に関する規制
高速取引行為者に対し,高速取引行為に係る業務を適確に遂行するための業務管理体制の整備を義務づけ(金商法66条の55)
高速取引行為に係る業務を適確に遂行するための社内規則等を整備し,それを遵守するための措置がとられていること,および高速取引行為に係る電子情報処理組織その他の設備の管理を十分に行うための措置がとられていること(業府令336条)
取引記録の作成および保存
高速取引行為者に対し,業務に関する帳簿書類の作成・保存を義務づけ(金商法66条の58)
その種類,記載事項,作成・保存方法,保存期間(業府令338条)
事業報告書の作成および提出
高速取引行為者に対し,事業年度ごとに,事業報告書を作成し,毎事業年度経過後3月以内に,これを内閣総理大臣に提出することを義務づけ(金商法66条の59)
業務開始の届出その他の監督に関する規定
高速取引行為に係る業務を開始したときや休止したときなど,その業務または財産の状況が変化する一定の事由が生じた場合に届出(金融商品取引法66条の60,66条の61)
無登録者等からの高速取引行為の受託の禁止
高速取引行為者等以外の者が行う高速取引行為に係る有価証券の売買または市場デリバティブ取引の委託を受ける行為の禁止(金融商品取引法38条8号,60条の13)
小括
平成29年の金融商品取引法改正は,高頻度取引自体を禁止するという強い規制ではない
登録→行政機関に高頻度取引を行う業者を監督させる
①業規制の対象となる高頻度取引を「高速取引行為」として定義
②高速取引行為を行う者に,登録の義務
③登録に際して高速取引行為に係る業務の内容及び方法を提出
④業務管理体制の整備等
①高頻度取引という技術や金融の発展を阻害するものか
②高頻度取引による弊害を適切に防止するものか
③市場で(2010年のフラッシュ・クラッシュのような)問題が生じた場合に問題の原因を突き止め,解決するための情報を当局に提供するものといえるか
ビットコイン
序論
ビットコイン(Bitcoin):電子的な支払手段として開発された技術
ビットコインネットワークの参加者の間で,価値の保有と輸送がbitcoinという名の単位で行われる
物理的な硬貨(coin)は存在せず,またデジタルコイン自体が存在するわけでもない
(ビット)コインは「送信者から受信者へある一定量の額面を移動させる」という取引の中で暗に示されるもの
暗号資産(仮想通貨)
ある支払いについて,暗号技術を応用して,支払いの記録をし,また,改竄を防止している
分散型
支払いの記録を中央に置かれたサーバーで記録するのではなく,多数の分散したサーバーに記録する
分散型台帳技術(distributed ledger technology)
通貨の裏付けとなる資産
存在しない
名目貨幣
ビットコインの規制
ビットコイン認容
問題がないと考える
任意の取引
自己責任
ビットコイン規制
①一律禁止
売買
取引所(交換所)
マイニング
②消費者保護及び投資家保護
証券詐欺
③業務の規制
④資本規制(取引所・交換所の資本規制)
⑤資金洗浄(anti-money laundering)
⑥法貨(シニョリッジ)
c.f. Starbucks --- Stored value card liability
https://gyazo.com/bd3bb60e064e920fd1ef6f0a55720425
⑦銀行業務(為替取引)
⑧電力消費
https://gyazo.com/fabd428ef4b7450d67719cd09af74f86
⑨個人情報保護
⑩租税(脱税の防止)
資金決済法
背景
銀行法2条2項2号
2 この法律において「銀行業」とは、次に掲げる行為のいずれかを行う営業をいう。
一 預金又は定期積金の受入れと資金の貸付け又は手形の割引とを併せ行うこと。
二 為替取引を行うこと。
銀行法4条1項
銀行業は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、営むことができない。
為替取引とはどのような概念か
=どのような取引が銀行業(ひいては,銀行法の対象)となるのか
「為替取引」は、「決済」ということか?
「為替取引」と「決済」は異なる
①決済には(金銭)債権・債務の清算が必ず伴うが,為替取引にはそれらを目的としない単なる送金も含まれる
②決済には資金移動を伴わない(金銭)債権・債務の相殺及等も含まれる
例えば、次のような業務(サービス)は、為替取引に該当するのか
収納代行
電子マネー
資金決済法制定経緯
平成19年7月:決済に関する研究会を設置
平成20年5月:金融審議会金融分科会第二部会
「決済に関するワーキング・グループ」(決済WG)
平成21年3月6日:「資金決済に関する法律案」閣議決定・国会提出
平成21年6月17日 :成立
平成21年6月24日:公布
①前払式支払手段(例えば,SuicaやPASMO)
②資金移動
③資金清算
資金決済法による資金移動業
資金決済法2条2項:「この法律において「資金移動業」とは、銀行等以外の者が為替取引(少額の取引として政令で定めるものに限る。)を業として営むことをいう。」
資金決済法37条:「内閣総理大臣の登録を受けた者は、銀行法第4条第1項……の規定にかかわらず、資金移動業を営むことができる。」
資金決済法2条3項:「この法律において「資金移動業者」とは、〔資金決済法〕第37条の登録を受けた者をいう。」
登録の要件、資金移動業を適正かつ確実に遂行する体制の整備の義務付け、などを定める。
平成28年資金決済法改正
資金決済法改正経緯
平成26年9月:金融担当大臣からの諮問「決済サービスの高度化に対する要請の高まり等を踏まえ,決済及び関連する金融業務のあり方並びにそれらを支える基盤整備のあり方等について多角的に検討する」
「決済業務の高度化に関するスタディ・グループ」(以下「決済スタディ・グループ」という)設置
平成27年7月:「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」
平成28年3月4日:「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律案」閣議決定・国会提出
平成28年5月25日:成立(平成28年6月3日法律第62号)
平成28年6月3日:公布
資金決済法3章「資金移動」の後ろに3章の2として「仮想通貨」を新設
63条の2から63条の22までを新設
仮想通貨の定義
資金決済法2条5項:この法律において「仮想通貨」とは、次に掲げるものをいう。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
資金決済法2条7項:この法律において「仮想通貨交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「仮想通貨の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいう。
一 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること。
①登録
資金決済法63条の2:仮想通貨交換業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行ってはならない。
登録申請に当たっては、仮想通貨交換業者の商号・住所、資本金額、営業所の所在地、取締役・監査役等の氏名、取り扱う仮想通貨の名称、仮想通貨の交換業の内容および方法、仮想通貨交換業の一部を第三者に委託する場合にはその委託先、他に事業を行っている場合はその事業の種類、その他内閣府令で定める事項を記載した登録申請書を内閣総理大臣に提出しなければならない(資金決済法63条の3)
②登録拒否要件(資金決済法63条の5)
登録申請書・添付書類の重要な事項について虚偽の記載があり、もしくは重要な記載が欠けているとき(資金決済法63条の5柱書)
株式会社または外国仮想通貨交換業者でないもの(資金決済法63条の5第1号)
外国仮想通貨交換業者にあっては、国内代表者のない法人(資金決済法63条の5第2号)
仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行するために必要と認められる内閣府令で定める基準に適合する財産的基礎を有しない法人(資金決済法63条の5第3号)
仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていない法人(資金決済法63条の5第4号)
法令遵守体制の整備が行われていない法人(資金決済法63条の5第5号)
他の仮想通貨交換業者と同一または類似の商号を用いようとする法人(資金決済法63条の5第6号)
過去5年間に仮想通貨交換業者の登録を取り消された法人(資金決済法63条の5第7号)
過去5年間に資金決済法・出資法等に違反し、罰金刑に処せられた法人(資金決済法63条の5第8号)
他に行う事業が公益に反すると認められる法人(資金決済法63条の5第9号)
取締役等が、過去5年間に禁錮以上の刑に処せられるなど、資金決済法63条の5第1項10号に規定する不適格事由に該当する者のある法人(資金決済法63条の5第10号)
業務継続要件(資金決済法63条の17)
③システムの安全管理
資金決済法63条の8:仮想通貨交換業者は、内閣府令で定めるところにより、仮想通貨交換業に係る情報の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の当該情報の安全管理のために必要な措置を講じなければならない。
仮想通貨交換業者に関する内閣府令12条:仮想通貨交換業者は,その行う仮想通貨交換業の業務の内容及び方法に応じ,仮想通貨交換業に係る電子情報処理組織の管理を十分に行うための措置を講じなければならない。
仮想通貨交換業者に関する内閣府令13条:仮想通貨交換業者は,その取り扱う個人である仮想通貨交換業の利用者に関する情報の安全管理,従業者の監督及び当該情報の取扱いを委託する場合にはその委託先の監督について,当該情報の漏えい,滅失又は毀損の防止を図るために必要かつ適切な措置を講じなければならない。
仮想通貨交換業者に関する内閣府令14条:仮想通貨交換業者は,その取り扱う個人である仮想通貨交換業の利用者に関する人種,信条,門地,本籍地,保健医療又は犯罪経歴についての情報その他の特別の非公開情報(その行う仮想通貨交換業の業務上知り得た公表されていない情報をいう。)を取り扱うときは,適切な業務の運営の確保その他必要と認められる目的以外の目的のために利用しないことを確保するための措置を講じなければならない。
④利用者への情報提供等
資金決済法63条の10:仮想通貨交換業者は、内閣府令で定めるところにより、その取り扱う仮想通貨と本邦通貨又は外国通貨との誤認を防止するための説明、手数料その他の仮想通貨交換業に係る契約の内容についての情報の提供その他の仮想通貨交換業の利用者の保護を図り、及び仮想通貨交換業の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な措置を講じなければならない。
仮想通貨交換業者に関する内閣府令16条(仮想通貨と本邦通貨又は外国通貨との誤認防止):仮想通貨交換業者は,仮想通貨交換業の利用者との間で仮想通貨の交換等を行うときは,あらかじめ,当該利用者に対し,書面の交付その他の適切な方法により,取り扱う仮想通貨と本邦通貨又は外国通貨との誤認を防止するための説明を行わなければならない。……
仮想通貨交換業者に関する内閣府令17条(利用者に対する情報の提供):仮想通貨交換業者は,仮想通貨交換業の利用者との間で仮想通貨交換業に係る取引を行うときは,あらかじめ,当該利用者に対し,書面の交付その他の適切な方法により,次に掲げる事項についての情報を提供しなければならない。
⑤利用者財産の管理
資金決済法63条の11:仮想通貨交換業者は、その行う仮想通貨交換業に関して、内閣府令で定めるところにより、仮想通貨交換業の利用者の金銭又は仮想通貨を自己の金銭又は仮想通貨と分別して管理しなければならない。
⑥外部監査
資金決済法63条の14:仮想通貨交換業者は、事業年度ごとに、内閣府令で定めるところにより、仮想通貨交換業に関する報告書を作成し、内閣総理大臣に提出しなければならない。……
3 第一項の報告書には、財務に関する書類、当該書類についての公認会計士又は監査法人の監査報告書その他の内閣府令で定める書類を添付しなければならない。
検討
仮想通貨の取引自体を禁止してはいない
仮想通貨の取引(交換)を業として規制
特に、資金移動(為替取引)の観点からの法規制である
行政(金融庁)の監督に服させる
登録だけでなく、業務内容や体制についても規制を及ぼす
例:資産の分別管理
個人情報の保護を考慮に入れている
消費者保護、資本規制、電力消費の観点からの規制はなされていない
ビットコインに対する規制として、平成28年資金決済法改正は十分であるといえるか、それとも逆に過剰規制であるといえるか
ビットコイン以外の仮想通貨が取引され、いわゆるイニシアル・コイン・オファリング(ICO:initial coin offering)などが生じる中で、十分な規制を提供しているといえるか?
令和元年資金決済法改正
改正経緯
平成30年1月:コインチェック事件
立入検査→仮想通貨交換業者において,内部管理態勢等の不備
平成30年3月:金融庁に「仮想通貨交換業等に関する研究会」
平成31年3月15日:「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」閣議決定+国会提出
令和元年5月31日:国会可決・成立
令和元年6月7日:公布(令和元年法律第28号)
2020年1月13日現在,政令及び府令は,公表されていない。
2020年1月13日現在,施行日は明らかではない。
概要
この法案は、おおむね、資金決済法、金融商品取引法、銀行法及び一括精算法を改正する。
①国際的な動向等を踏まえ,法令上の「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」に変更するとともに,暗号資産の流出リスクヘの対応等,暗号資産交換業に関する制度の整備(資金決済法関連の改正部分)
②暗号資産を用いた証拠金取引やICO(initial coin offering)と呼ばれる資金調達等の新たな取引や不公正な行為に関する制度の整備(金融商品取引法関連の改正部分)
③金融機関の業務に,顧客に関する情報をその同意を得て第三者に提供する業務等の追加(銀行法関連の改正部分)
④店頭デリバティブ取引における証拠金の清算に関し,国際的な取引慣行に対応するための規制の整備(一括清算法関連の改正部分)
①「暗号資産」への呼称変更
国際的な議論の場において, "crypto-asset"' (暗号資産)との表現が用いられている
「仮想通貨」の呼称はなお法定通貨との誤認を生みやすい
「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」に変更(改正資金決済法2条5項・7項・8項)
「仮想通貨」であった定義をおおむね変更するものではない
ただし,マイナーな点で,修正が加わっている(改正資金決済法2条5項ただし書)
②他人のために行う暗号資産の管理(暗号資産カストディヘの対応)
暗号資産の売買・交換やそれらの媒介.取次ぎ・代理(以下「暗号資産の売買等」という)は行わないが,利用者の暗号資産を管理し,利用者の指図に基づき利用者が指定する先に暗号資産を移転させる業務(以下「暗号資産カストディ」という)への対応
現行資金決済法上,暗号資産交換業に該当しない
暗号資産カストディを暗号資産交換業の業務類型に加えて規制対象に
資金決済法2条7項(暗号資産交換業の定義)に4号を追加。
資金決済法2条7項4号:他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。
③問題のある暗号資産への対応
暗号資産の設計・仕様は様々
マネーロンダリング等に利用されるおそれが高い追跡困難なもの
暗号資産交換業の内容及び方法の変更についても,上記と同様の観点から,事前届出(改正資金決済法63条の6第1項(変更の届出))
④過度な広告等への対応
暗号資産交換業者による積極的な広告等により,投機的な取引が助長
暗号資産交換業者に対し,暗号資産交換業に関する広告において,①暗号資産は法定通貨ではないことや②暗号資産の性質のうち利用者の判断に影響を及ぼすこととなる重要事項等を表示させる
虚偽の表示,暗号資産の性質等について人を誤認させるような表示,専ら利益を図る目的で暗号資産の売買・交換を行うことを助長するような表示を禁止(改正資金決済法63条の9の2,63条の9の3)。
資金決済法63条の9の2:暗号資産交換業者は,その行う暗号資産交換業に関して広告をするときは,内閣府令で定めるところにより〔編注:府令案17条参照〕,次に掲げる事項を表示しなければならない。
一 暗号資産交換業者の商号
二 暗号資産交換業者である旨及びその登録番号
三 暗号資産は本邦通貨又は外国通貨ではないこと。
四 暗号資産の性質であって,利用者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして内閣府令〔編注:府令案18条参照〕で定めるもの
暗号資産交換業者に関する内閣府令改正案17条:暗号資産交換業者がその行う暗号資産交換業に関して広告をするときは、法第63条の9の2各号に掲げる事項(暗号資産の交換等を行わない暗号資産交換業者にあっては、同条第1号及び第2号に掲げる事項に限る。)について明瞭かつ正確に表示しなければならない。この場合において、同条第3号及び次条各号に掲げる事項の文字又は数字は、当該事項以外の事項の文字又は数字のうち最も大きなものと著しく異ならない大きさで表示するものとする。
暗号資産交換業者に関する内閣府令改正案18条:法第63条の9の2第4号に規定する暗号資産の性質であって、利用者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして内閣府令で定めるものは、次に掲げる事項とする。
一 暗号資産の価値の変動を直接の原因として損失が生ずるおそれがあるときは、その旨及びその理由
二 暗号資産は代価の弁済を受ける者の同意がある場合に限り代価の弁済のために使用することができること。
⑤不適切な財産管理等への対応
■信託による受託金銭の管理
暗号資産交換業者が利用者から受託した金銭は,内閣府令で定めるところにより,信託会社等への金銭信託の方法により管理(改正資金決済法63条の11第1項)
資金決済法63条の11第1項:暗号資産交換業者は,その行う暗号資産交換業に関して,暗号資産交換業の利用者の金銭を,自己の金銭と分別して管理し,内閣府令〔編注:府令案26条〕で定めるところにより,信託会社等に信託しなければならない。
暗号資産交換業者に関する内閣府令改正案26条:暗号資産交換業者が法第63条の11第1項の規定に基づき暗号資産交換業の利用者の金銭を信託するときは、信託会社等への金銭信託(以下「利用者区分管理信託」という。)であって、当該利用者区分管理信託に係る契約が次に掲げる要件の全てを満たすものでなければならない。
一 暗号資産交換業者を委託者とし、信託会社等を受託者とし、かつ、当該暗号資産交換業者の行う暗号資産交換業に係る取引に係る利用者を元本の受益者とすること。……〔以下、15号まで詳細な規定が定められている〕
■受託暗号資産の管理(資金決済法63条の11第2項)
暗号資産交換業者に対し,原則として,受託暗号資産を利用者の保護に欠けるおそれが少ない方法(以下「安全性の高い方法」という)で管理しなければならない
安全性の高い方法:いわゆるコールドウォレット?
「コールドウォレット」とは,一般に外部のネットワークと接続されていないウォレットをいい,ホットウォレットよりも安全性が高いものとされている。
具体的な方法は内閣府令
資金決済法63条の11第2項:暗号資産交換業者は,その行う暗号資産交換業に関して,内閣府令で定めるところにより,暗号資産交換業の利用者の暗号資産を自己の暗号資産と分別して管理しなければならない。この場合において,当該暗号資産交換業者は,利用者の暗号資産(利用者の利便の確保及び暗号資産交換業の円滑な遂行を図るために必要なものとして内閣府令で定める要件に該当するものを除く。)を利用者の保護に欠けるおそれが少ないものとして内閣府令〔編注:府令案27条3項〕で定める方法で管理しなければならない。
暗号資産交換業者に関する内閣府令改正案27条3項:法第63条の11第2項後段に規定する利用者の保護に欠けるおそれが少ないものとして内閣府令で定める方法は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める方法とする。
一 暗号資産交換業者が自己で管理する場合暗号資産交換業の利用者の暗号資産を移転するために必要な情報を、常時インターネットに接続していない電子機器、電磁的記録媒体その他の記録媒体(文書その他の物を含む。)に記録して管理する方法その他これと同等の技術的安全管理措置を講じて管理する方法
二 暗号資産交換業者が第三者をして管理させる場合暗号資産交換業の利用者の暗号資産の保全に関して、当該暗号資産交換業者が自己で管理する場合と同等の利用者の保護が確保されていると合理的に認められる方法
■履行保証暗号資産の保有義務等(資金決済法63条の11の2)
当該暗号資産がサイバー攻撃等により流出した場合であっても利用者への返済に支障を来すことのないよう,あらかじめ,返済原資を確保しておくことが必要
暗号資産交換業者に対し,安全性の高い方法によらないで管理する受託暗号資産と同種・同量の暗号資産(以下「履行保証暗号資産」という)を,自己の固有財産として別途保有し,それ以外の自己の暗号資産と分別して管理
資金決済法63条の11の2:暗号資産交換業者は,前条第二項に規定する内閣府令で定める要件に該当する暗号資産と同じ種類及び数量の暗号資産(以下この項,第63条の19の2第1項及び第108条第3号〔編注:罰則〕において「履行保証暗号資産」という。)を自己の暗号資産として保有し,内閣府令で定めるところにより,履行保証暗号資産以外の自己の暗号資産と分別して管理しなければならない。この場合において,当該暗号資産交換業者は,履行保証暗号資産を利用者の保護に欠けるおそれが少ないものとして内閣府令で定める方法で管理しなければならない。……
他に,⑥利用者の優先弁済権(資金決済法63条の19の2,63条の19の3),⑦登録拒否要件の追加(資金決済法63条の5第1項6号),⑧暗号資産信用取引への対応(資金決済法63条の10第2項))などの改正がなされている。
第63条の19の2:暗号資産交換業者との間で当該暗号資産交換(新設)業者が暗号資産の管理を行うことを内容とする契約を締結した者は,当該暗号資産交換業者に対して有する暗号資産の移転を目的とする債権に関し,対象暗号資産(当該暗号資産交換業者が第63条の11第2項の規定により自己の暗号資産と分別して管理するその暗号資産交換業の利用者の暗号資産及び履行保証暗号資産をいう。)について,他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有する。……
第63条の19の3:暗号資産交換業者から暗号資産の管理の委託を受けた者その他の当該暗号資産交換業者の関係者は,当該暗号資産交換業者がその行う暗号資産交換業に関し管理する利用者の暗号資産に係る前条第一項の権利の実行に関し内閣総理大臣から必要な協力を求められた場合には,これに応ずるよう努めるものとする。
資金決済法63条の5第1項6号:暗号資産交換業者をその会員(第87条第2号に規定する会員をいう。)とする認定資金決済事業者協会に加入しない法人であって,当該認定資金決済事業者協会の定款その他の規則(暗号資産交換業の利用者の保護又は暗号資産交換業の適正かつ確実な遂行に関するものに限る。)に準ずる内容の社内規則を作成していないもの又は当該社内規則を遵守するための体制を整備していないもの
資金決済法63条の10第2項:暗号資産交換業者は,暗号資産交換業の利用者に信用を供与して暗号資産の交換等を行う場合には,前項に規定する措置のほか,内閣府令で定めるところにより,当該暗号資産の交換等に係る契約の内容についての情報の提供その他の当該暗号資産の交換等に係る業務の利用者の保護を図り,及び当該業務の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な措置を講じなければならない。
検討
コインチェック事件(暗号資産の流出事件)への対応が動機
ビットコイン等の暗号資産の取引自体は禁止されていない
暗号資産交換業者の資産の保全に関する規制が多い
暗号資産カストディヘの対応
現金の信託管理
コールドウォレットによる暗号資産の保有
流出事件に備えた履行保証暗号資産の保有義務
全く新しい観点からの規制も追加された
過度な広告等への対応
問題のある暗号資産への対応
libra
Facebook社が中心となって開発がなされている暗号通貨
Facebook/Calibra,Lyft,Spotify AB,Uber Technologies, Inc.,Vodafone Group,Coinbase, Inc.などがメンバー
Libraは,ビットコインなどと同様の分散型ブロックチェーンをベースに用いた暗号通貨であるが,通貨の裏付けとして兌換可能(交換可能)な通貨を持つ
どのような通貨をどのような割合で保持するのかなどは,不明
libraの論点
ビットコインには裏付けがないが,libraには裏付けとなる資産がある
ビットコインは,管理の仕組みも含めて分散
libraは,銀行口座を持てないような後進国での利用も推し進めている(金融包摂)
銀行口座を開設・維持するためには、①銀行口座に預ける預金(資金)、②ある程度の信用、③身分証明などの手続き、④口座管理維持手数料が必要
libraを用いるためには、最低限、①携帯電話などの端末、②インターネットへのアクセスが必要
規制によって、libraの使用に身分証明などの手続きが必要な場合、libraの使用に銀行と同程度の難しさがあるかもしれない
既存の送金方法と比較して、libraは、透明性が高く、資金洗浄に用いられにくいといえるのか。
libraにどのような規制を及ぼすべきか
銀行と同様の規制を及ぼす?
銀行以上の規制を及ぼす必要はないか?
どのような理由で、どのような観点からの規制か
結論
神田秀樹「仮想通貨(暗号資産)に関する法整備」金法2108号1頁(2019)
仮想通貨(暗号資産)の規制の在り方は難しい。私法上の性質が明らかでない状況で,既に多くの仮想通貨が取引されているという現状が存在する。業法的な規制の整備が遅れると取引や市場の健全性が失われるおそれがあるが,規制が過剰になると金融分野でのイノベーションを阻害するおそれがある。バランスの取れた制度を整備する必要がある。
【記者】草野判事はこれまで企業や経済に関わる仕事をされてきたと思いますけれども,そういった経験を最高裁判事の職務にどう生かしていきたいとお考えでしょうか。
【判事】おそらく2点申し上げることができるかと思います。1点目は,企業の世界というのは,いかにパイを大きくするかということが,いかにパイを公平に分配するかという問題と同等かそれ以上に重要な場面が多くございます。最高裁判事としても,そういう2つの面,すなわち,できるだけ分配するパイを大きなものとするということと,それを公平に分配することという2つのことを考えていくという点については,これまでの経験が役立つと思います。それから,もう1点,技術的な問題で恐縮ですけれども,経済の世界というのは,法律あるいは法解釈を変えることによって経済の仕組みが変わるという面がございます。それは程度の差はあれ,あらゆる法理論にいえることです。法解釈を変えるとどのようにそれが社会に影響を与えるのか,ということを帰納的に考えてあるべき法律論を考察するという思考方法,これをこれまでの経験をいかして今後とも使っていきたいと考えた次第であります。
レポート課題
情報技術の発達によって様々な問題が社会に生じえます。それらの問題に対し,多くの場合,まずは,既存の法制度を当てはめて解決しようとするのではないでしょうか。既存の法制度では,うまく問題が解決できない場合,法律や規則を改正したり,新たな法律を制定したりして問題に対処することになります。さて,あなたはどのような問題に対して,法制度による対応を求めますか。また,その場合の法制度による対応は,どのような義務(例えば,禁止・登録・情報開示)を課すものですか。そこで、どのような例でも構いませんので,①近年発達・発展した技術(情報技術を含む)について,規制が必要だと考える技術を1つ挙げてください。そして,②どのような手法(方法)による規制を導入するのかを述べた上で,③その技術に規制が必要な理由を述べて下さい。既に規制が課されている分野について規制を課すべきではないと考えるのであれば、代わりに、規制がないほうが望ましい理由(現在が過剰規制であるといえる理由)を述べて下さい。