12. 12月5日 企業と労働者のマッチング支援
資料は以下のページに掲載しています。
本日の内容
相手探しの難しさ
マーケットデザインとマッチング
望ましいマッチングとGale-Shapleyアルゴリズム
マッチングの課題
レポート課題
1. 相手探しの難しさ
相手探し
誰と誰が組み合わせになるのかをマッチングという
誰がどの企業に就職するのか
誰がどの部署で働くのか
誰がどの家に住むのか
誰がどの人と結婚するのか
皆さんや皆さんの家族が今後直面する「相手探し」に、どんなものがあるのか?
大学生の就職活動
大学生の新卒就職に伴う問題
最近は売り手市場で、就職状況は比較的良い
しかし、なかなか就職が決まらない学生もいる
同時に、内定辞退に悩む企業は多い
なぜ「なかなか就職が決まらない」という問題が起こるのか?
企業が多すぎて学生が選べないから?
学生が高望みをして有名企業ばかり受けるから?
なぜ分不相応な企業を受けるのか?
大学受験との対比
→大学受験は、本命+記念受験+滑り止め
なぜ就職活動では分不相応な行動をとる?
期間が長い
受験料もかからない
偏差値のようなわかりやすい評価の物差しがない
50歳までに一度も結婚していない人の割合を生涯未婚率という
生涯未婚率は増加傾向にある
なぜ結婚しない(できない)のか?
こちらも高望みのしすぎが理由?
https://gyazo.com/50d658f79039b1a03c91a5199cdff57b
出典:令和元年版 内閣府『少子化社会対策白書』
結婚相手の条件として考慮・重視する割合の推移 (18歳から35歳の未婚者)男性
https://gyazo.com/51f16498908e4908ff3a81585b9b51f5
出典:2015年 社会保障・人口問題基本調査 「現代日本の結婚と出産」
結婚相手の条件として考慮・重視する割合の推移 (18歳から35歳の未婚者)女性
https://gyazo.com/86ab085657d76f86fef96ef61faca839
出典:2015年 社会保障・人口問題基本調査 「現代日本の結婚と出産」
相手探しの難しさ
就職活動も結婚相手探しも高望みが問題なら、それをやめさせるように教育すれば良い?
経済学では、何か問題があるときには個人の行動や選択を批判するのではなく、制度に問題があると考える
人々が自分の気持ちに対して素直に行動しているだけで、社会的に望ましい結果が実現してしまう「うまい仕組み」を作りたい
マーケットデザインというアプローチ
2. マーケットデザインとマッチング
マーケットデザイン
マーケットデザインとは、実在する市場や制度を前提として分析するのではなく、うまく設計する対象として扱うアプローチ
オークションやマッチングの設計が代表例
2012年のノーベル経済学賞は、マーケットデザインの研究に対して、アルビン・ロスとロイド・シャプレーに与えられた
今回はマッチングに注目する
マッチング研究の出発点は、医学生がどの病院で臨床研修(インターンシップ)をするかという問題だった
マッチング
医大を卒業した研修医がどこの病院で臨床研修を受けるのか?
人気のある病院に第一希望として申し込むと、選ばれなかった場合に、希望しない病院での研修になるかも
それなら確実に入れそうな第3希望の病院にしておく?
このような戦略的な操作はもったいないので防ぎたい
https://gyazo.com/49de9074a6a8e7cb2e4a03d0b0c03b15
マッチング
アメリカでは、試行錯誤を通じて、戦略的操作が起こらないような研修医と病院のマッチングを1950年代から行っていた
Gale and Shapley (1962)では、安定的なマッチングについての理論とアルゴリズムが提示された
Roth (1984)において、上記の二つが実は同じことをやっていることが示された
→マッチングをより良いものにするために、研修医マッチングや学校選択、腎臓移植などの研究と制度設計が現在進行形で行われている
マッチング
日本でも2003年から医師臨床研修マッチングは、Gale-Shapleyアルゴリズムを用いて行われている
医師臨床研修マッチング協議会
結婚相手のマッチング問題
研修医のマッチングは、一つの病院が複数の研修医を受け入れる
A病院の定員が30人、B病院は10人など
新入社員の配属決定なども多対一のマッチング
多対一(Many to One)マッチングは少し複雑なので、まずは一対一のマッチングを考えたい
結婚は、少なくとも重婚が認められない日本では、一対一の関係
3. 望ましいマッチングとGale-Shapleyアルゴリズム
結婚相手のマッチング問題
男性が4人(1234)、女性が3人(ABC)いる
それぞれの人は異性に対して好みがある
例えば「男性の1さんは、Cさんが一番好きで、Aが2番目に好き、しかしBと結婚するくらいなら独身のままが良い」など
これをCA0Bと書くことにする(0は独身を意味する)
https://gyazo.com/8d979d94442bb80d9a41803758d31b2e
男性側の好みと女性側の好みは図の通りとする
この男女の間で、どのようなマッチングが成立するのか?https://gyazo.com/288a3301217b4c4125a56cf18d094ed2
例えば、このマッチングは維持できるか?
https://gyazo.com/d3487d16d01bb9f310eddcecbe78969c
望ましいマッチングとは
どんなマッチングが望ましいと言えるのか
最初に注目したいのは、安定的かどうか
個人合理性条件:この人と結婚するくらいなら一人でいる方がましだという相手とはマッチしない
逸脱ペアの不存在:現在の組み合わせよりも、男女双方にとって望ましい別のペアは存在しない
これら二つの条件を満たすとき、安定的なマッチング(stable matching)という
このマッチングだけが安定的→どうやって探す?
https://gyazo.com/57f285a5101e39737e7b361378efb173
Gale-Shapleyアルゴリズム
まず男性1の順番:好みはBCA0なので→まず女性Bに提案→Bにとって、独身でいるよりも1との結婚が良いので仮マッチする
次に男性2の順番:たまたま好みが同じBCA0→女性Bに提案→Bにとって仮マッチしている1よりも2の方が好ましいので、1との仮マッチは解消されて、2とBが仮マッチする
このような作業を男性4まで行い第1ラウンドが終了
このようなラウンドを繰り返す:マッチできなかったり、仮マッチした相手にふられてしまった男性は、これまで断られた人以外の(ただし結婚しないよりはましな)女性に次々にアプローチしていく→断られる男性がいなくなった、または申し込める相手の女性がいなくなったら終了
https://gyazo.com/41129185d9bd656095a6e892ada18c0f
https://gyazo.com/a6bc2ed24c2781b99d0a546e2b040417
https://gyazo.com/e833775a0288e49e4a7ee95382e75af8
https://gyazo.com/7c8e571a7ebfa3d0d57f3ee3d1176881
マッチング問題について
安定的なマッチングは必ず存在する(ただし一つだけとは限らない)
Gale-Shapleyアルゴリズム(別名DAアルゴリズム)は、そのうちの一つを必ず見つけることができる
安定マッチングが複数ある場合には、提案する側にとって満足度が高いものが選ばれるという意味で提案側が有利
ここでみた1対1のマッチングの結果は1対多数の場合にも簡単に応用可能
学生9人と病院ABC(定員が各3名のケース)
https://gyazo.com/5c79c32026c0c6607261765c96788855
学生20人と病院ABCDE(定員が各4名のケース)
https://gyazo.com/efc8fcc21bf12118069004e600a84ae2
マッチング問題について
このアルゴリズムは簡単なもの
しかし人数が増えると計算が大変
コンピュータの発達により、かなりの人数のマッチングまで短時間で計算できる
実際に、一部の大学では、学生とゼミのマッチングに使われているし、2018年度から東京大学では進学振り分けで利用され始めた
大学入試についても、日経経済教室2018年5月18日に慶應義塾大学の栗野盛光さんが導入を提案
→就職活動や結婚相手探しでも使えるはず
望ましいマッチングとは
安定性に加えて耐戦略性も重要
医学生が、あえて本当は第3希望の病院を第1希望として登録する可能性はないか?
人気のある病院を第1志望とすると抽選に外れてしまい、結果として希望しない病院になってしまうくらいなら、安全策を取る?
しかし提案する側は自分の好みについて戦略的に嘘をついても得しない→正直に提案できる(=耐戦略性がある)
ただし受け入れる側については耐戦略性は成立しない
望ましいマッチングとは
1と2が提案する学生側で、こちらは正直に振る舞う
AとBは病院で、嘘をついて得できる余地がある
https://gyazo.com/a12d9b2a7f6c0ca0f68366304c57229e
AとBが正直に選好を表明すると、成立するマッチングは1-B, 2-Aの組み
Aが120ではなく、102と言うと、1-B, 2-Aになり、受け入れ病院側にとってより望ましい結果が実現する
残念ながら安定性と耐戦略性は完全には両立しないことが既存研究により示されている
ただし十分に参加者が多く、また好みのバラツキがある程度存在する状況下では、戦略的操作の余地は無視できる
他にも現実的な課題に対応するために、マッチングの研究は現在進行形で進められている
ペアで就職活動をする医学生の存在
地域枠などの制限がある状況
4. マッチングの課題
マッチングの課題
Gale-Shapleyアルゴリズムでは、全員に対して好みの順位を正しくつけることさえできていれば、仮に高望みがあっても、安定的なマッチングが成立する
結婚したい相手リストの上位に、有名人などを入れておいても、どうせマッチしないから問題はない
しかし好みの順番をつけるためには、相手のことをよく調べる必要があるし、自分のことも知る必要がある
実際に、数多くの人のことを知って、順序をつけるのは時間的にも難しい
マッチングの課題
マッチングのボトルネックが、組み合わせ成立ではなく、そもそもの評価形成段階になった
相手について、また自分の好みについて知るためには、時間も手間もかかる
現実的な相手がどのあたりの人なのかを知った上で、その相手たちについてきちんと好みを考えることが重要
大学生の就職活動についても、有名企業ばかり見ていたら、自分にあった企業について企業研究を行えない
評価費用と統計的差別
評価を形成する際に、どのくらい丁寧に相手のことを見るのか
多くの応募者に対して評価リストを作成するのには手間がかかる
相手の属性や過去の類似データを元に、応募者を差別的に取り扱う可能性がある
特定の大学しか評価対象にはせずに、それ以外は排除する
これまでの従業員のデータを活用して、応募者を機械的に選別する
統計的差別
人はなぜ他人を差別するのか
経済学で考える差別の理由
嗜好に基づく差別
なぜ差別するのか→嫌いだから
統計的差別
なぜ差別するのか→平均的に得だから
統計的差別の理由
なぜ差別が行われるのか
参加料が同じとき、確率50%で当たるくじと確率30%で当たるくじのどちらを引くか
すべての学生の能力や適性を費用なしで確認できるなら、企業は採用時に統計的差別を行わない
応募者の能力を全員分確認して、優秀な人だけ採用すれば良い
現実には、費用がかかるため、ある程度は候補をしぼりこんでから採用活動を行う必要がある
どうすれば差別が解消されるのか
嗜好に基づく差別を企業が行っている場合には、長期的には解消される可能性がある
平均的な業績が相対的に低く、淘汰される
例:女性差別をしている企業があったとすると、差別をしていないライバル企業の方がより低賃金で優秀な人を確保できるため、差別企業は業績が悪化する
統計的差別は、ある意味で合理的な行為なので、なくすのが難しい
自己実現的な統計的差別
まったく同じ能力であっても、外見に区別ができる違いがあれば、統計的差別は起こりうる
赤と緑という二つのグループがいるケースを考える
赤の方が能力が高いという予想を企業経営者が持っていたとする
このとき実際に赤を優先的に採用する
緑は、どうせ努力して能力を向上させても採用される確率が低いため、割があわず努力しない
結果的に、自己実現的に、緑の能力が低い状態になる
まったく同じ能力の集団でも、統計的差別は起こりうる
赤の方が能力が高く緑は低いという誤った予想が経営者側にあったことにより、緑の行動が変化して、実際に緑の能力が低い状態になる
当初は誤った予想を持っていた経営者側は、結果的に「予想が当たっていた」と認識することになる
統計的差別は、能力に差があったとした場合にも発生するが、差がなくても発生する
どうすれば差別を防ぐことができるのか
積極的差別是正措置とは
アファーマティブアクション、ポジティブアクション
フランスの議員選挙のケース
アメリカの大学入試のケース
是正措置の影響
短期では、逆差別が発生する
中長期で、差別が解消されるかが鍵
マッチングの課題
企業が学生や従業員を評価する際に、どのような情報を利用するのは許されて、どのような情報については利用禁止とすべきか
AIの発達により、統計的差別により真剣に向き合う時代になった
採用や昇進が、メールの文章内容や細かな行動パターンに応じて、機械的に決定されて良いのか
精度は高いがブラックボックス化してしまうと、皆がAIの評価に怯えながら行動することになるかも
5. レポート課題
どちらか一方を選択
Gale-Shapleyアルゴリズムを導入することで当事者の満足度を向上させられる現実の事例をひとつ見つけて、当事者に向けて導入を提案する文書を作ってください。その際には、導入に伴う問題点についても言及すること
マッチングの際に利用される可能性があるが禁止すべき統計的差別について具体例を一つ示し、なぜ禁止すべきなのかを説明しなさい。また実効性を持つ形で禁止するために、どのような規制が必要なのかを考えなさい
参考:RStudio Cloudを使ったマッチングの計算
1, RStudio cloudにサインイン
2, Rパッケージを導入
install.packages("Rcpp")
library(Rcpp)
install.packages("matchingMarkets")
library(matchingMarkets)
library()
リストにmatchingMarketsが入っているか確認
3, 9 students, 3 colleges with 3 slots each, given preferences:
s.prefs <- matrix(c(
1, 2, 3,
1, 3, 2,
2, 1, 3,
1, 2, NA,
2, 3, 1,
1, 2, 3,
3, NA, NA,
1, 3, 2,
2, 3, NA
), 3,9)
c.prefs <- matrix(c(
3, 9, 4, 5, 8, 6, 2, 1, 7,
2, 1, 3, 5, 4, 9, 6, NA, NA,
3, 8, 1, 5, 9, 2, 7, NA, NA
), 9,3)
hri(s.prefs=s.prefs, c.prefs=c.prefs, nSlots=c(3,3,3))
4, 20 students, 4 colleges with 5 slots each, given preferences:
s.prefs <- matrix(c(
5, 1, 4, 2, 3,
1, 3, 5, 2, NA,
4, 2, 1, 3, NA,
3, 2, NA, NA, NA,
4, 3, 1, NA, NA,
1, 2, 4, 3, NA,
3, NA, NA, NA, NA,
1, 3, 2, NA, NA,
2, 3, 5, NA, NA,
2, 5, 1, NA, NA,
3, 2, 1, NA,NA,
1, 4, 2, NA,NA,
2, 4, 5, 1, 3,
1, 2, NA,NA,NA,
5, 4, 3, NA, NA,
2, 5, NA, NA, NA,
1, 3, NA, NA, NA,
5, 3, 2, NA, NA,
4, 2, 5, 1, NA,
3, 4, 5, 1, NA
), 5,20)
c.prefs <- matrix(c(
10, 1, 3, 8, 16, 19, 5, 13, 9, 4, 11, 20, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA,
2, 10, 16, 13, 8, 6, 12, 14, 18, 1, 11, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA,
8, 15, 7, 5, 18, 20, 13, 6, 2, 10, 4, 17, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA,
20, 15, 5, 12, 1, 13, 16, 19, 3, 7, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA,
9, 10, 19, 20, 13, 15, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA, NA
), 20,5)
hri(s.prefs=s.prefs, c.prefs=c.prefs, nSlots=c(4,4,4,4,4))